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46 サボテンは大切に育てているから(3)
しおりを挟む「ち、千影さんっ?!」
「そんな声出して、何かあった?」
千影の心配そうな表情を見てホッとしたからか、夕美の目に涙が浮かぶ。
「わ、私、怖くて……、あの人が……ついてきたから」
「あの人? 誰のこと?」
「後ろに……」
恐る恐る千影の後ろを指さす。
「僕の後ろ? 誰もいないけど……」
「え」
「僕の前には夕美しかいなかったし、変だね」
「う、嘘!?」
夕美は千影に掴まり、彼の後ろを見てみるが、確かに誰もいない。暗い中、周りを見回してもそれは同じだった。
「嘘じゃなかったでしょ?」
「……うん。でも私、本当に見たの。あの人がついてくるのを」
「さっきから言ってるあの人って、誰なのか教えて?」
焦る夕美の様子を怪訝な顔で見つめていた千影が問いかける。
「あ……そうよね。わかった」
「エントランスで話そうか。まだそのへんをうろついているかもしれないし」
千影に肩を抱かれながら、夕美は小さくうなずいた。
マンションのエントランスにはコンシェルジュが常駐しており、男性の警備員もいる。ここならとりあえず安心だ。
いくつか並んだ大きなソファに千影と座り、夕美は深呼吸をした後で説明を始めた。
あの人とは、夕美が住んでいたアパートの隣人の男性であること。
夕美の考えすぎかもしれないが、しょっちゅう外で見かけること、アパートを出入りするときの時間が重なること、それが偶然にしては多すぎること。
そしてつい今しがた……、アパートにサボテンを確認しに行くと、なぜかその男性が、夕美が住んでいた部屋に入っていったこと。それが気持ち悪くて急いで帰る夕美の後を、男性がついてきたこと。
震えている夕美の手をしっかり握りながら、千影は最後まで黙って聞いてくれた。
「その男が夕美の部屋に入っていったのは、間違いないんだよね?」
彼は真剣なまなざしで夕美に問うた。
「ドアの前まで行って確かめたの。ドアの横にキッチンの窓があるのね。そこから奥の部屋の明かりが漏れていた。彼が住んでいるはずの部屋は真っ暗で……」
「ということは、部屋番号も合っていたんだよね?」
「うん。そもそも私が住んでいたのは角部屋だから、間違えたりしない。それに……サボテンもあったの」
恐怖のあまり、そのままサボテンを置いてきてしまったのが心残りだ。
「……夕美は以前からその男に違和感があった」
「考えすぎかと思っていたんだけど、さすがに今日のは……」
「まぁ、ストーカーだろうな」
「っ!!」
深刻な顔をした千影の言葉に、夕美の体がビクンと揺れた。そうかもしれないという思いを今まで振り払ってきたが、彼の言葉が実感を湧き上がらせたのだ。
そんな夕美の顔を千影が心配そうにのぞきこみ、握っていた手に力を込めた。
「ねえ、夕美。僕と一緒に確かめに行かない?」
「確かめる……?」
「その男が本当に夕美が住んでいた場所にいるのかを、さ。僕がその男の正体を暴いてあげるよ」
意外な言葉を受けて、夕美は驚く。
「でもそんなこと、危ないんじゃ……」
「そいつって見るからにヤバい感じ? ガタイがいいとか、反社っぽいとか」
「それはないと思うけど、見た目だけじゃわからな――」
「その男がついてきていると思って夕美は怯えてたんだよね? ただ、実害があったわけじゃないから警察に話してもパトロールくらいしか期待できない。だったら僕が直接そいつに注意したほうが早い。これ以上夕美を怯えさせないように」
千影を危険な目に遭わせたくなくて訴えるが、彼は強い視線で夕美を遮った。
「もしそいつがどこかから僕たちの様子を見ていたとしたら、まずいと思ってすでにアパートへ引き返しているはずだ。僕らも戻ってみよう」
確かに、夕美が千影といるところを目撃した彼が何も働きかけてこないということは、引き返したのだろう。先ほど周りに誰もいなかったのを、夕美は千影と確認している。
「……そうよね」
夕美は小声でつぶやいた。
ここでこうしていても、何も解決はしないのだ。
夕美は千影の手を強く握り、真実から目を逸らさないことを心に決める。
「千影さんと一緒なら、確かめてみたい」
「よし、行こう」
うなずいた千影と一緒にソファから立ち上がり、夕美はマンションを出た。
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