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23 すみすみまで丁寧に(1)

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 年越し蕎麦や、夕美が作ってきた惣菜などを食べたあと、ソファに座ってくつろいだ。プロジェクターが映し出す、大晦日らしい番組を楽しむ。

「夕美特製のおかず、本当に美味しかったなぁ。たくさん作って大変だったよね?」

 千影が申し訳なさそうに夕美の顔を覗き込む。

「ううん、そんなことない。千影さんに食べてもらえると思ったら止まらなくなって、作りすぎちゃったの」

 初めて食事に誘われた時は、仕事だからという理由で夕美は一切お金を払っていない。
 しかし旅行の時も千影は、夕美に一切お金を出させなかった。見合いの食事も、「自分が食べたい店を選んだ」という理由で、彼は夕美の両親に少しの値段しか伝えていない。しかも、それすら受け取ろうとしなかった。

 そんな彼に、どうにかお礼が出来ないものかと考え、揚げ物やサラダ、日持ちのする煮物などを作って持ってきたのだ。

「ありがとう。残りのおかずも、明日には全部食べちゃいそうだ」

「気に入ってくれて良かった」

 千影の好物は調査済みだったとはいえ、完璧ではないので心配だったが、喜んでくれてホッとする。

 そうして雑談しながら二時間ほど経った頃。お風呂が沸いたお知らせのメロディが流れた。

「さて、と。じゃあ、入ろうか」

「そっ、そうね」

「緊張しすぎ」

 千影は夕美の手を取って笑いかけ、一緒に立ち上がらせた。

「必要なものを準備しておいで。先に入って待ってる」

「うん」

 夕美は自分の荷物のところへ行き、下着とパジャマ、スキンケアグッズ等を取り出し、バスルームへ向かった。


 バスルーム横で服を脱ぎ、髪をひとつにまとめる。洗面所の大きなミラーが、自分の姿を映していた。

(旅行の時はぼんやりした明かりだったから大胆になれたけど、こんなに明るい場所だと自信なくしちゃう。というか、見えすぎじゃない? 当然、バスルームもだよね……?)

 すでに千影はバスルームに入っている。機嫌の良さそうな鼻歌まで聞こえてきた。

 夕美は深呼吸してから、バスルームの扉に手をかけた。

「お邪魔します……」

 体の前をフェイスタオルで隠しながら入る。こちら向きに湯船に浸かる千影と目が合った。

「どうぞ。シャワーはそれを回して。天井から降ってくるやつじゃないほうがいいよね」

「……はい」

 想像よりもずっと明るくて焦る。
 隠しているとはいえ自分の体も彼の体も丸見えだ。しかも千影の視線は夕美の体に張り付いたままである。
 あまりの恥ずかしさに、夕美はシャワーに手を伸ばせず、隅っこでぎこちなく縮こまった。

「夕美ちゃん、そんなふうに壁に張り付いてたら何もできないよ? ていうか、後ろを向いても僕から丸見えなんだけどなぁ」

 千影がクスクスと楽しそうに笑っている。

「う……お願い、見ないで」

「わかった。僕が後ろを向くから、安心してシャワー浴びな」

「ほんとにほんとに、見ないでね?」

「ほんとにほんとに、見ないよ」

 夕美の口調を真似て笑う声と、湯が跳ねる音が聞こえ、恐る恐る振り向いた。彼は今言った通り、夕美に背を向けて湯船に入っている。

 ようやくそこで安心して、フェイスタオルを棚に置き、シャワーを浴びた。ちょうどよい温度にホッと息をつく。

「浴び終えたらこっちにおいで。一緒に浸かろう」

 シャワーを止めた夕美に、千影が言った。

「うん。お邪魔します……」

 湯船に足先を入れ、そろそろとお湯に浸かる。熱くもなく、ぬるくもなく、こちらもちょうど良い温度だ。じわじわと温かさが体に浸透していく。

「ふう、気持ちいい……」

「じゃあ、そっち向くね」

「えっ、ちょっ、まま、待って」

 千影が体勢を変えたので、夕美は両手で胸を隠し、膝を立てて、ここでも縮こまった。
 そんな様子の夕美を見て、彼が口を尖らせる。

「どうしてさっきから隠すのさ。そんなに綺麗な体してるんだから、いいじゃない。旅行の時だって……、まぁ、全部じゃないけど僕に見せたよね?」

「明るすぎて恥ずかしいの……!」

「明るくなきゃ、すみずみまで見えないし、洗えないの。ほら、後ろ向いて」

 千影が夕美の肩に手を置いて指示を出す。

「う、後ろ?」

「いいから。後ろ向いたら、そのままこっちに来てごらん」

 言われるがままに彼に背を向け、しずしずと後ずさった。
 夕美の体の両側に彼の脚が見える。ということは、すぐ後ろに彼がいるわけで……。

「これなら恥ずかしくないんじゃない?」

 後ろから包み込むように、彼が夕美を抱いた。夕美の背中が彼の胸に当たる。

「十分恥ずかしいよ……」

「恥ずかしがる夕美も可愛いけどね」

 ちゅっという音と感触が届いた。千影が夕美のうなじにキスを落としたのだ。同時にビクンと夕美の体が反応する。

「あ、ダメ……」

「少しだけ、触りたい」

 うなじや耳にキスを続けながら、彼の手が夕美の胸に伸びる。先端に触れるか触れないかの微妙なさわり方に、夕美の体がゾクゾクと震えた。

「ん……んっ、あ」

「大きくて、綺麗だね、夕美のここ」

 言いながら、千影の手が夕美の両胸を優しく包む。そしてそっと数回、やわやわと揉んだ。

「あっ、恥ずかし……、んんっ」

「はい、おしまい。時間かけたらのぼせちゃうからね。洗ってあげる」

「え……」

「どうしたの? もっとしてほしかった?」

「……うん」

 違うと否定しようとしたのに、夕美は素直にうなずいてしまった。彼に早く与えられたいという思いに抗えずに。

「……なんだよ、もう……、可愛すぎる」

 ため息とともに千影の呟きが届く。
 そして、先ほどから腰にあたっている彼のモノが一層大きくなったのを感じた。

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