アスチルベ

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初めての気持ち (前編)

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「よっし、今日も楽しくサークルすんぞー!」

「うっせぇ…早く行かないと夏目待たせてるぞ」

「おうおう!いつも通りクールだね~千春ちゃん♡」

「殴られたいのかな?律ちゃん?」

「こわ!千春を怒らせると面倒だからなぁ早く行こっ」

「おい!急に走んな!」


入学してたから少し経ち、再開した律のBL漫画はネットでも大人気。軽い気持ちで出版社に持ち込んでみると数日後には連載の連絡が届いた。
連載作家というものは毎日が忙しく猫の手も借りたいほど、学校でも漫画が描けるようにとサークルをつくることにした。
それがこの "先生サークル"
ダサい名前は律が名付けた。メンバーは律、千春、そしてひとつ下の後輩夏目の3人という少なさだがそのおかげで縛られず自由に活動できている。
活動内容は かく だけでなく漫画のアイディアを出すのも中心となっている。


ガラガラ


「やっほ~夏目くん!」

「ごめんな、待たせて」

「こんにちは、律先輩に千春先輩。ふふ…今日も元気そうですね」

「こいつが勝手に騒いでるだけだ…」

律が夏目をスカウトしメンバーに加わった。
性格はおっとりとしているがどこか独特の世界観があるように思える。好奇心旺盛な小説作家だ。


「ところで、今日は何をするんですか?」

よくぞ聞いてくれた!と言わんばかりのドヤ顔で答える。

「今回はもう決まってるの! 2人にミッションを与えるのでそれを実行してください」

「「??」」

「大丈夫、簡単なことよ。放課後お出かけに行ったり、2人で帰ってもらったりとか。恋人らしいことをして欲しいの」

まだ理解ができていない先輩千春。飲み込みが早い後輩夏目。

「なるほど…それを律先輩は観察する。ということですね?」

「正解、さすが夏目くん!」

2人で盛り上がっているが未だ1人理解に苦しんでいる。

「????」

「簡単に説明すると僕と千春先輩がデートをして、それを参考に律先輩が漫画を描く。ということです」

やっと理解をしたものの動揺をみせた。

「ちょっと待て!そんなこと、付き合ってもないのにして良いのか?!そういうのは恋人じゃないと…」

「僕は先輩とデートできるなんてとても嬉しいです。千春先輩は僕じゃ嫌ですか?」

上目遣いで千春の反応をうかがう。

「夏目が……夏目が良いならかまわにゃいけど、」

目線を逸らしながらもごもごとそう答える。
いつもなら、からかうな!と恥ずかしがるのだが今回は違った。予想外のアンサーと噛んでいることに気づかないという、また予想外のことが起こり夏目はびっくり。
だがいつもの調子で

「楽しみにしていますね」

そう微笑みながら隣に座り距離を縮め、早速アプローチを仕掛けて雰囲気を完璧に作り上げた。

(こいつやりよるなぁ…筆が進むぜ。
でも夏目くんの元々も素質かな…普段から距離感バグってるし誰にでも分け隔てなく優しく接するしなぁ)

天然人たらし。夏目にピッタリな言葉であろう。

こりゃ千春も可哀想だ、と思いながらも律はいつも通り筆を走らせた。

じゃあ早速で申し訳ないんだけど今日は2人で帰って貰えるかな?

「…わかった」

「あ、せっかくですから寄り道しませんか?」

「いや、今日はちょっと」

早く帰りたいオーラに負けず劣らず夏目は残念そうに言う。

「おや、それは残念です。近くにできたカフェ、気になってたのですが…」

明らかに落としに行く夏目はかなり強敵だった。
少なくてもデートを仕掛けた張本人は落ちている。

(何その潤んだ瞳!かわいい!はっ…平常心、平常心…私もサポートしないと。)

「そのカフェってケーキが美味しいって最近噂のカフェだよね!」

見事平常心を装うことに成功。そしてこの律の発言が鍵となった。

「はい、たまたま聞いて行ってみたいと思いまして」

「ケーキ…?」

千春がボソッと声を漏らす。
そうこの男、何を隠そう無類の甘党男子なのだ。畳み掛けるように夏目が

「千春先輩…?」

とあざとく名前を呼んだ。

(さすが夏目くん!この男の扱いを知ってる!)

頼られる、年下からのお願い、しかもそれが夏目だと何故か弱くなり世話焼きスキルが発動して断れなくなってしまう千春の性質。


「わかった、行くよ。でも明日も学校だから長居はしないからな!」

(それ照れ隠しか?ご馳走様です。)

律の心の声はどんどんキモオタ化していくが、夏目は満足そうに笑った。

「はい、ありがとうございます。さて善は急げです」

席を立ち扉を開けて待つ。

「ん、今行く」

仕方ないな。という雰囲気だが口角が上がりっぱなしの千春。

そんな2人を見てニヤニヤしながら拝んでいる律。
異様な光景だがツッコミは相変わらず不在であった。


教室を出て2人で歩き始めた。
カフェまでそんなに距離はないが、改めて2人きりになると何を話したら良いか分からない。
先輩である自分が場を和ませようと必死に話題を思い浮かべる。

「ふふ」

「な、なに笑ってるんだ?!」

「だって先輩、すごく緊張してるからつい」

肩を揺らして口元を少し隠しながら困ったように笑う。
たまに見せる無邪気な姿を見ているとなんだか力が抜けてきた。

「そんなことより、夏目は普段なに食べるんだ?好きな食べ物とかさ」

遠くから見守っている律は声をあげないよう必死に口を押さえた。

(幼なじみがうぶすぎて小学生みたいな質問してることに笑いが止まらない。もっと恋愛漫画とか見せとくべきだな…)

質問が微妙なのに対し顔色ひとつ変えず夏目は真剣に受け答えた。

「そうですね、お菓子とか好きです。プリンとかシュークリームとか」

「なんか意外だな、もっと肉とかガッツリ系かと思ってた」

「もしかして身長を伸ばす為に何を食べれば良いか聞き出そう…とか考えてました?」

意地悪そうにニヤリと笑う。

「悔しいが当たってる。牛乳とかバランス良い食事とか、なにか意識してることないのか?」

千春は少し身長が低く、それとは対照的に夏目は身長が高い。大体15cm差ぐらいであろう。
日頃から食事を意識したりストレッチを欠かさずしたりと努力はしている彼からしたらとても気になることであった。だが残念な答えが。

「特にないですね。野菜が苦手なので食べませんし、バランスはその時点で崩れてますね…運動は高一ぐらいに部活辞めたので特にはしてませんね」


「こら、ダメだぞ!バランスよく食べて適度な運動をしないと将来大きくなれないぞ!」

「それなら大丈夫そうです。この通りなので」

夏目は柔らかく笑いながら腕を広げ、千春をそのまま包んだ。

「えっ、ちょっ!お前何してるんだ、誰かに見られたら…」

「先輩が可愛らしくてつい、それに大丈夫ですよ、ここ裏道で人通りも少ないので。それに見られるのが嫌なわけでこの状況は嫌ではない。ということですか?」

抱きしめたまま千春の頭を優しく撫でそっと聞く。

「そういう訳じゃっ!」

ふふっと笑い冗談ですよ、といつもの口調で千春を離す。

「それより先輩、ここ曲がればすぐそこです」

あそこのお店ですよ。と言いながらさり気なく千春の手を握りゆっくりと歩き始めた。
千春はうん、と短く返事をして言われるままに歩いていく。
繋いでいることにとやかく言わず、握り返している。
下を向いているからハッキリとは分からないが座って見ていた律だけには見えていた。

(千春、耳まで赤くなってる……)
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