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 蓮は、お茶を淹れながら話しを続けた。
「親父にも良い時代は有った。バブル時代だ。あの時代は、成り上がり金持ちも多くいて、芸術的で少しノスタルチックな親父の陶器は売れて陶芸家として有名になった。本人は、ここで土に塗れて陶器を作っているのが好きな人なんだが、都内で個展があると営業の為に上京する事になる。
 その頃のお袋と知り合った、親父は40代でお袋は20代、お袋は陶芸家のパトロンって言うのに酔っていたんだ。
 だから、親父が1年休んで登り窯を新造すると言う計画にポケットマネーだと言って資金を出した。親父は、前から興味のあったヨーロッパの焼き物を見て歩きたい夢があったので、外遊する予定だった。それを聞きつけて一緒に行って通訳してあげると言ったお袋の言葉を信じていた。だが、お袋は、縁談を破談にする既成事実の為にドイツの古城で親父に擬装結婚式だと言って式を挙げた。
 親父は一年もかけて新たに完成した登り釜を大切にしていたし、この場所から都会で暮らすなんて思いもしなかった。知り合ったお袋は、こんな田舎で暮らすなんて絶対無理な人だから、親父は擬装結婚であってそれ以上はないと考えていた。周りもお金持ちのお嬢さんの世迷言だと思っていた。
 お袋に両親は、縁談を破談する代わりに新進気鋭の陶芸家の親父との結婚を迫った。逃げれないとわかったお袋は、親父に半ば強引に籍を入れるように脅迫して、別居結婚をした。そんな結婚上手くいくわけないだろ」
「うん、まぁ思うかなぁ」
「前にも言ったがお袋は、自分の直感を信じて行動するから、陶芸家って言うのに憧れていただけで対して親父には興味がなかったかもしれない。ただ、家族からの縁談話を強引に破談にする為に結婚式の真似事までした事で、引くに引けない状況だったと叔父からは聞いている」
「お父様もかわいそうだね」
「俺もそう思う、叔父も俺の親父が不憫だったと今でも言う。派手好きな母親は案の定田舎暮らしをせずに実家で暮らしていた。子供が産まれてもここには寄り付きもしなかった。赤ん坊の世話は、実家でベビーシッターがしてたようだ。
 何があったかはわからないけど一歳ぐらいには俺はここで暮らしていた。俺の世話はその当時先輩職人の奥さんが色々手伝ってくれた。バブル時代は売れただがバブルは弾けた。地道に作る事がなんだか虚しくなる親父が作る作品を誰も見向きもしなくなった。それ間、先輩の職人が親父を支えてくれていたんだと思う。だから俺が5才になった時から職人のタカさんは陶芸を教えてくれた。俺の成長を親父に見せる事で昔のような陶器を作る意欲が出る迄寄り添って立ち直らせてくれた。親父の意欲が戻って軌道に乗ってきた。
 俺が、小学校の3年に上がってすぐ、急にお袋がここに来て、俺をお袋の実家の跡取りにするから、中学受験させる為に俺を自分の実家に連れて帰った。それが引き金になったのかわからないけど、親父は再び意欲を失ってしまった。追い討ちをかける様に先輩職人も身体を壊して辞めてしまったから酒に溺れてしまい挙句の果てにお袋と離婚した。叔父はお袋に離婚するなら実家から出て1人立ちしろと怒って、今のマンションに俺と2人で住む事になったと聞いたが、これを話したのがお袋だから自分は悪くないとしか言わないから信じていない」
 蓮は父親の作品を布で包みながら顔を上に向けた。
「俺は、父親が好きだったし、陶芸も好きだった。だからここで暮らしていたかった。だけど小学生の俺には何もできなかった。3年生と4年生の夏休みに一週間だけここで過ごすことができたが、その後は塾の合宿で行けなかった。
 親父は肝硬変で中学受験の真っ只中に死んだ。俺は、親父の友人から知らせを聞いてすぐに親父の葬式に行く為に受験校に行かずここに来た。そして親父を見送った。通夜の途中に乗り込んで来たお袋は、凄く怒っていて俺を引っ張って連れて帰ろうとした。
 が、お袋の異常さを聞きつけた叔父が、ここに来てくれてお袋を追い返してくれた。だから、無事納骨までできてホッとした。それ以降中学、高校と忙しくてここには来ていなかった。
 だけど、本当はここに来れば親父の作品が所狭しとあるそれを見るのが辛いと思っていたから、陶器店の話をぐずぐず先延ばしにしていたんだ。この前に文化祭の作品を焼いた時に吹っ切れた。ここの片付けをするって決めたんだ。これも敬介と知り合ったからだと思う」
「え、えー俺ですか?」
「あぁ、お前の不器用だけど一生懸命に頑張っている姿を見ていて、俺も土を練る次の段階に進みたくなったんだ」
「お、ぉ、俺って先輩の才能の救世主ですね」
「そうかもな」
 と笑い合いながら2人は家を片付け続けた。
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