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嫉妬

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 窯出しの日、十分に冷えた窯を開ける安芸島や3年生の執行部の面々だけでなく敬介達下級生も誰の作品も割れずにと祈りながら窯を見守る。安芸島が上の作品からひとつづつ丁寧に出していいく。
「割れていない。今回は割れずに焼けた」
 と、安芸島は叫んだ。
「ほー」
 と、集まった人からため息が出た。
 安芸島が、慎重に窯から出して、出された作品を受け取った執行部の先輩が、慎重に作者に渡していく。そして、蓮先輩の作品が出されたとき窯の周りにいた人がその美しい青い色に引き付けられていた。
「蓮、さすがだね。俺、嫉妬しそう」
「上手く色が出た」
 嬉しそうに蓮先輩が言った。
 次に、出た作品を蓮が受け取った。それは、安芸島の花器だった。赤紫色の鉢だった。その赤紫を出す為に何回も試験していたのを敬介も蓮も知っていた。
「安芸島のこの皿もいい色だぞ」
「当り前だ。この色を出すために結構何回も試作してきたんだから」
「後輩のみんな、よく聞け釉薬の配分やかけ方などを試行錯誤するのも陶芸の楽しみ方だ。この大釜は借りるのにも予約するのも大変だ。陶芸部はここの掃除やもろもろの雑用をしているので、年に2回この大釜をリーズナブルに借りれるがそれも俺らの先輩方が代々積み重ねた結果だ。今回割れた作品がなかったが毎回こうだとはならないのも陶芸の面白く、残酷な所だと思う。ただ作品を作るだけじゃなくて自分がどんなものを作りたいかを考えて作るように頑張って欲しい。次の大釜が利用できるのは文化祭前、そして、文化祭で恒例の陶芸市と体験絵付けを行う。上級生は今までの作品整理して後輩のスペースを空ける為に仕上げて出品し売って整理するように、下級生は箸置き、コップや小皿等を大量に作って陶芸市で売るから今日はその講習をするからこっちに集まれ、副部長よろしく、陶器市の収益は来年もまた大釜を借りる費用になるから、上級生も暇が有ればろくろで湯呑みや小皿を作って素焼きまでして欲しい。後輩たちは、それらを釉薬につけて本焼きをやって欲しい。それでは、夏の再開は9月の第2週からです。今日はここを片付けて暑気払いに行くので、早く行けるように頑張ろう」
 敬介の前には始めの作品より形は様になった湯呑みがある。まだまだこれから少しづつ自分のこれぞと思う作品を作りたいと思った。そして、蓮が嬉しそうに作品を見ているのを盗み見て心が再びざわめくのであった。
 いつもと同じ居酒屋チェーンの店で、上級生達は文化祭の作品が無事できた開放感、下級生は、自分はどの程度の作品ができるのか?と思い描いて先輩の話を聞いていた。
「安芸島先輩は、どうして陶芸部に入ったんですか?」
 敬介が、聞くと安芸島は
「俺は、蓮の部屋に入った事があるんだ、まだ蓮のお袋様がいた時、その日はお袋様はいなかったが、父親の湯呑みだと言ってお茶を入れてくれた」
「俺も覚えている」
 急に世田が割って入ってきた。
「お前は俺が話しているだろ、お茶はペットボトル飲料だったけど、器は焼き物だった。いつも飲んでいるものなのに味じゃない趣きがあるって思った。その時に蓮のペン立てを見たら、形は少し歪だけど、色味が今日の色のコップだったんだ」
「あれは、5歳に作った俺の第一号だった」
「そう、言っていた。陶器を作る視点で見た事が無かった。凄く新鮮な視点だった。
 俺の家は小さな出版社をしていて、親父も祖父もこんな小さな出版社なんかいつ潰れてもって言いながら必死になって繋いでいた。俺には後など継がなくて良いって言っていたから本を作ると言う事にも興味がなかった。だが物を作ると言う視点で世の中を見たら面白くて一時期工場見学に行く事にハマっていた。大学を選ぶ際にここの大学に陶芸部があって、本式の窯があり、設備も充実している。市民講座も開催している。美大じゃないが美大程の設備がある。陶芸部に入って作ると言う視点で陶芸をして見たいって思った」
「だから、陶芸にかける熱意が半端ないんですね」
「嬉しいね、敬介に尊敬してもらえるのって、最高だよ」
 安芸島が、敬介の肩を抱いて言うのを見ていた。
「敬介を独り占めするな、俺があの暗い実験室でプログラミングしているのを癒やして欲しいから敬介に会いに来たのに」
「世田先輩は陶芸は?」
「俺は、敬介を見ることと飲み会を盛り上げる為にいる。俺には陶芸をやっている時間がない可哀想な男なんだから、敬介、俺を癒して」
「はい、はいまたふざけていい加減にしてくださいね」
 と笑顔を振り撒く敬介に周りも癒されると言っていた。安芸島と世田は敬介を取り合っていた。蓮は、安芸島や世田に対して腹の奥がメラメラと燃えているのを感じた。
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