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敬介と安芸島は、大学の近くの少し高めの居酒屋の個室で会う事になった。
「こんばんは、安芸島先輩」
「お久しぶりだな」
「ってまだ1週間ですが、だけど先輩の感じが社会人って感じですね」
「そうか?これ大学の時とあまり変わらない服なんだが」
「ウフフ、嘘でーす。まだまだ学生で通ります」
「先ずは、乾杯しようか、俺は生で、お前は?」
「もうお酒も飲めますよ、レモン酎ハイで」
「先ずは乾杯」
「「乾杯」」
2人は声を上げる。一口飲んで、安芸島が言う。
「食事の前にお前にこれを渡しておく」
「何ですか?開けても良いですか?」
敬介が、風呂敷包みを開けるとそこには、木箱に入った蓮の作品が入っていた。
「これは?蓮先輩の文化祭の大賞受賞作品ですよね」
敬介はそう言って、皿を箱から出して愛しそうに撫で出した。
「あぁ、そうだな、大きさからそうだと思っていた」
「これどうして、安芸島先輩が…」
「蓮の母親方の家の会社の事は聞いているか?」
「結構裕福な家だと聞いています」
「Rコミュニケーションカンパニー、RCCって知っているか?」
「ハイ、大企業ですね。まさか、そこが蓮先輩の」
「そうだ、蓮の母親の実家が経営している会社だ。去年の秋にアメリカに本社を移して結構な話題になっただろう。蓮は、その直系の孫だ、小学生の頃、俺と世田と同じ塾に通っていた。三人とも小学校は違ったが結構仲が良くて同じ中学志望だったから一緒に行く予定だったんだ。だけど、その中学の受験日に蓮の親父さんが亡くなって、蓮は、父親の葬儀の喪主として帰ったから中学受験はしなかった。だが、母親が、その中学に固執していたから2年になって編入して来た。
大学受験が始まって、俺は、大学時代は色々と旅行や部活、バイト等を経験したいと思っていたから、大学は本格的な陶芸ができる施設のあるここを見つけて面白そうだと思って行く事にした。蓮は、頭の良かったし、特に大学に希望はなかった。ただ、母親が、偏差値や優秀な息子を自慢したいだけの人だったから、蓮は、国立大に行けば良いのだろうっと言う感じで冷めていたんだ。加えて高校の2,3年のころから実家の仕事を手伝わされていたから、国立に行くと両立が難しいかもしれないとは思っていたようだ。それが、高校3年生の夏休み前だったと思うが、蓮の母親に急に恋人ができて、トントン拍子に再再婚が決まった。その上相手と一緒に、仕事でアメリカに移住した。
この機会に、蓮は、国立大からH大に急遽進路変更した。あいつは、H大に入って、大学時代だけ陶芸をしたいと画策した。祖父に、家の仕事をしながらだと国立大は課題も多いから両立は難しいって言い丸めた。
だが、祖父母が、大学入学してすぐに、あいつに断りもなく後継者と世間に公表してしまった。それで変なストーカーや記者がまとわり付くしそれらが大学内迄押しかけて大変だった。それで1年の時は大学の勉強ぐらいしかできない状況だったんだ」
「それは大変だ」
「それでも部活に来て作ろうとして土を練ってろくろの前座ると大学生に紛れて隠し撮りする輩がいたり、誰彼とも確かめもせずに、勝手に置いてある作品を蓮の作品だと写真に撮ってネットに挙げる。間違いに気づいた 市民講座の受講生から抗議が来たりと散々だった。しまいには陶芸棟に蓮は、来れなくなった」
「酷い」
「だけど、夏休みが過ぎる頃には大学側も部外者を大学に入れなくなったし、市民講座に参加する人にもIDカードをかけてもらったりして騒ぎが落ち着いた。
そのころから蓮は、土練りしかしなくなった。2年生になっも蓮は土練りしかしなくて、誰にでも嫌味を言うようになった。世田は一度国立大に入ったが、パソコンやサーバが古くて話にならないって言って、もう一度ここの理工学部のシステム開発科へ受験し直したんだ。蓮を小学生の頃から知っている世田は、蓮が、冷ややかな目で人を見て嫌味を連発する姿をすごく心配していた。三年生に上がって、一年生で敬介が、入部してくれた後はお前も知っている如く、蓮が作品を作る様になって俺も世田も喜んでいた。その上敬介と付き合っているって聞いて世田は相当悔しがっていたよ」
「世田先輩はホントお茶目だから」
「そう言うな、本人が傷つくぞ。ここからは、11月の終わりに蓮が卒論を出しに来た時に会う事になってあいつが、俺と世田に話したことをお前に伝えておくよ。7月に蓮の親父さんの家の件があって、急な出費で蓮は叔父さんを頼った。叔父さんは、何も言わずにお金の融資をしてくれたんで、地元の建設会社に崩れない様に整地を頼んだ。ただ、市や県に土や木々の処分の申請などで時間がかかってしまった。蓮は、お前とよくない形で別れたことを気にしていてお前に会いたいと思っていた。一週間遅れでやっとマンション帰れる事になって、お前とはマンションに戻ってからゆっくり会って話をする予定だったそうだ。その途中の汽車の中で叔父さんが吐血したと連絡があってお前に連絡もできないままにその足でアメリカに行くことになった。叔父さんは自宅に戻っていたが、情報社会のアメリカではトップの病気は株価に跳ね返るそれを避けるために、蓮は、COOになってドクターストップで動けない叔父さんの代わりに仕事をすることになったそうだ。
連日の仕事とプレッシャーで押しつぶされそうになりながらも、頑張って成果をあげて行った。その成果が上がれば上がるほど蓮の仕事は増える。今、蓮はすぐには日本に戻れない状態になっている。
11月に卒論を提出する為に一時帰国した時に、蓮は、いつまでも家に振り回されるのは嫌だと思っていて、振り回されないで生きるために、RCCのトップになる事を決めたと言って、腹を括ったみたいだった。そして、自由を勝ち取って日本に戻る予定だと聞いた。だけど、敬介に会うとお前を連れて逃亡して挫けてしまいそうで泣く泣くお前に会わないでアメリカに行く事になった。
卒業決定した後に大学からこれを返却された。一度帰国してこれを敬介に自分で渡すつもりだったが、忙しいからって俺の実家に送ってきた」
「そうなんですね。俺、一度蓮先輩を大学で見かけたんです。でも、声もかけずに隠れてしまって、ちゃんと話しをしない自分に落ち込みました」
「俺は、蓮がちゃんと敬介に自分の状況を話さないのがおかしいって思っている」
「男同士だし、自然消滅もありかって思う事も考えていたから…」
「これ、涙が出ているから」
「大丈夫です、俺持っています」
敬介は、涙を出しながら皿を抱いた。安芸島は、そっと外に出て行く。
「蓮、蓮、会いたい」
敬介は、ただひたすら蓮の名前を呼んでいた。蓮の皿を胸に抱いて涙を拭わずに蓮を呼ぶ。しばらくして涙で濡れた蓮の皿を丁寧に拭いて月に口づけた。
「蓮、俺はもう泣かないよ、アメリカで必死に頑張っている蓮と一緒に俺も戦うから身体だけは気をつけてね」
お手拭きで顔を拭って敬介は大きなため息吐いて一言
『愛しています』
呟いた。
「こんばんは、安芸島先輩」
「お久しぶりだな」
「ってまだ1週間ですが、だけど先輩の感じが社会人って感じですね」
「そうか?これ大学の時とあまり変わらない服なんだが」
「ウフフ、嘘でーす。まだまだ学生で通ります」
「先ずは、乾杯しようか、俺は生で、お前は?」
「もうお酒も飲めますよ、レモン酎ハイで」
「先ずは乾杯」
「「乾杯」」
2人は声を上げる。一口飲んで、安芸島が言う。
「食事の前にお前にこれを渡しておく」
「何ですか?開けても良いですか?」
敬介が、風呂敷包みを開けるとそこには、木箱に入った蓮の作品が入っていた。
「これは?蓮先輩の文化祭の大賞受賞作品ですよね」
敬介はそう言って、皿を箱から出して愛しそうに撫で出した。
「あぁ、そうだな、大きさからそうだと思っていた」
「これどうして、安芸島先輩が…」
「蓮の母親方の家の会社の事は聞いているか?」
「結構裕福な家だと聞いています」
「Rコミュニケーションカンパニー、RCCって知っているか?」
「ハイ、大企業ですね。まさか、そこが蓮先輩の」
「そうだ、蓮の母親の実家が経営している会社だ。去年の秋にアメリカに本社を移して結構な話題になっただろう。蓮は、その直系の孫だ、小学生の頃、俺と世田と同じ塾に通っていた。三人とも小学校は違ったが結構仲が良くて同じ中学志望だったから一緒に行く予定だったんだ。だけど、その中学の受験日に蓮の親父さんが亡くなって、蓮は、父親の葬儀の喪主として帰ったから中学受験はしなかった。だが、母親が、その中学に固執していたから2年になって編入して来た。
大学受験が始まって、俺は、大学時代は色々と旅行や部活、バイト等を経験したいと思っていたから、大学は本格的な陶芸ができる施設のあるここを見つけて面白そうだと思って行く事にした。蓮は、頭の良かったし、特に大学に希望はなかった。ただ、母親が、偏差値や優秀な息子を自慢したいだけの人だったから、蓮は、国立大に行けば良いのだろうっと言う感じで冷めていたんだ。加えて高校の2,3年のころから実家の仕事を手伝わされていたから、国立に行くと両立が難しいかもしれないとは思っていたようだ。それが、高校3年生の夏休み前だったと思うが、蓮の母親に急に恋人ができて、トントン拍子に再再婚が決まった。その上相手と一緒に、仕事でアメリカに移住した。
この機会に、蓮は、国立大からH大に急遽進路変更した。あいつは、H大に入って、大学時代だけ陶芸をしたいと画策した。祖父に、家の仕事をしながらだと国立大は課題も多いから両立は難しいって言い丸めた。
だが、祖父母が、大学入学してすぐに、あいつに断りもなく後継者と世間に公表してしまった。それで変なストーカーや記者がまとわり付くしそれらが大学内迄押しかけて大変だった。それで1年の時は大学の勉強ぐらいしかできない状況だったんだ」
「それは大変だ」
「それでも部活に来て作ろうとして土を練ってろくろの前座ると大学生に紛れて隠し撮りする輩がいたり、誰彼とも確かめもせずに、勝手に置いてある作品を蓮の作品だと写真に撮ってネットに挙げる。間違いに気づいた 市民講座の受講生から抗議が来たりと散々だった。しまいには陶芸棟に蓮は、来れなくなった」
「酷い」
「だけど、夏休みが過ぎる頃には大学側も部外者を大学に入れなくなったし、市民講座に参加する人にもIDカードをかけてもらったりして騒ぎが落ち着いた。
そのころから蓮は、土練りしかしなくなった。2年生になっも蓮は土練りしかしなくて、誰にでも嫌味を言うようになった。世田は一度国立大に入ったが、パソコンやサーバが古くて話にならないって言って、もう一度ここの理工学部のシステム開発科へ受験し直したんだ。蓮を小学生の頃から知っている世田は、蓮が、冷ややかな目で人を見て嫌味を連発する姿をすごく心配していた。三年生に上がって、一年生で敬介が、入部してくれた後はお前も知っている如く、蓮が作品を作る様になって俺も世田も喜んでいた。その上敬介と付き合っているって聞いて世田は相当悔しがっていたよ」
「世田先輩はホントお茶目だから」
「そう言うな、本人が傷つくぞ。ここからは、11月の終わりに蓮が卒論を出しに来た時に会う事になってあいつが、俺と世田に話したことをお前に伝えておくよ。7月に蓮の親父さんの家の件があって、急な出費で蓮は叔父さんを頼った。叔父さんは、何も言わずにお金の融資をしてくれたんで、地元の建設会社に崩れない様に整地を頼んだ。ただ、市や県に土や木々の処分の申請などで時間がかかってしまった。蓮は、お前とよくない形で別れたことを気にしていてお前に会いたいと思っていた。一週間遅れでやっとマンション帰れる事になって、お前とはマンションに戻ってからゆっくり会って話をする予定だったそうだ。その途中の汽車の中で叔父さんが吐血したと連絡があってお前に連絡もできないままにその足でアメリカに行くことになった。叔父さんは自宅に戻っていたが、情報社会のアメリカではトップの病気は株価に跳ね返るそれを避けるために、蓮は、COOになってドクターストップで動けない叔父さんの代わりに仕事をすることになったそうだ。
連日の仕事とプレッシャーで押しつぶされそうになりながらも、頑張って成果をあげて行った。その成果が上がれば上がるほど蓮の仕事は増える。今、蓮はすぐには日本に戻れない状態になっている。
11月に卒論を提出する為に一時帰国した時に、蓮は、いつまでも家に振り回されるのは嫌だと思っていて、振り回されないで生きるために、RCCのトップになる事を決めたと言って、腹を括ったみたいだった。そして、自由を勝ち取って日本に戻る予定だと聞いた。だけど、敬介に会うとお前を連れて逃亡して挫けてしまいそうで泣く泣くお前に会わないでアメリカに行く事になった。
卒業決定した後に大学からこれを返却された。一度帰国してこれを敬介に自分で渡すつもりだったが、忙しいからって俺の実家に送ってきた」
「そうなんですね。俺、一度蓮先輩を大学で見かけたんです。でも、声もかけずに隠れてしまって、ちゃんと話しをしない自分に落ち込みました」
「俺は、蓮がちゃんと敬介に自分の状況を話さないのがおかしいって思っている」
「男同士だし、自然消滅もありかって思う事も考えていたから…」
「これ、涙が出ているから」
「大丈夫です、俺持っています」
敬介は、涙を出しながら皿を抱いた。安芸島は、そっと外に出て行く。
「蓮、蓮、会いたい」
敬介は、ただひたすら蓮の名前を呼んでいた。蓮の皿を胸に抱いて涙を拭わずに蓮を呼ぶ。しばらくして涙で濡れた蓮の皿を丁寧に拭いて月に口づけた。
「蓮、俺はもう泣かないよ、アメリカで必死に頑張っている蓮と一緒に俺も戦うから身体だけは気をつけてね」
お手拭きで顔を拭って敬介は大きなため息吐いて一言
『愛しています』
呟いた。
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