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 世田がゼミ室のパソコンの前にいると太田がやってきた。
「先輩、今良いですか?」
「あぁ、太田か、なんだお前は暇なのか?就活はどうなった」
「就活ですか、親父もお袋もご自由にって言ってくれたんで、就活なしので、世田さんの行く院に行きます。世田さんについて行くことにしました」
「わかった。歓迎する」
「あの、城島先輩がアメリカ本社のCOOになったってネットじゃすごい扱われ方なんですが」
「それか、お前の聞きたい事って、お前は敬介を狙っているって噂で聞いたけど」
「そんなの俺だけじゃないです。が、ある程度すると諦めます。だって敬介君は、城島先輩一直線です。あんなに放置されていても、城島先輩一直線なんです。だって展示室の皿を見つめているのを見ていると誰だって負けたって思って諦めますよ。それでも敬介君を諦めてもみんな敬介ファンになります。それよりも今は少しはましにはなりましたが、夏にごっそり痩せたので同期や先輩、後輩入乱れて昼食に誘ったり、夕飯を誘ったりして食べさせています」
「相変わらず、敬介は、陶芸部のアイドルだな」
「だけど、敬介君はあまりにも蓮先輩の事を知らな過ぎです。公な情報さえも知らないって感じなんですよ」
「そうか、敬介が、蓮の情報を知らないと言う訳がわかるか?
 今の世の中、城島蓮で検索かければ良きも悪しきも全ての情報が手に入れる事ができるし溢れている。しかし、その情報の中の城島蓮がその情報通りの人間なのかと言うとそうじゃない、継接ぎされた情報の中には敬介の知る城島蓮はいない。敬介はそれを知っているからあえて知らないという事にしているのかも知れない。と俺は思う」
「それってなんとなくわかる。ネットって無責任なところがあるから、だけど、そこまで敬介君が蓮さんの事を信頼しているってすごいですよね」
「そうだな、敬介と蓮は一年間ほぼ毎日土練をして関係を深めてきた。敬介は早く蓮に近づきたいと思っていたし、蓮は敬介の一歩でも前にいたいと思っていたんだ。その信頼がこれからも2人を支えて行くんだと思っている」
「生半可な関係じゃないないんだ」
「だから、俺も安芸島も敬介を見守ると決めたんだ。アメリカで頑張っている蓮の事はもう俺らには大変さしかわからない。グローバルすぎて手に負えない」
「それすごーくわかる。俺の親父の会社は、親会社との話し合いでアメリカ支社として再出発します。RCCに追随するみたいですよ。親父も社長からアメリカ支社長として赴任して何もなければ5年の単身赴任が決まりました。親父が、言っていた事は若い蓮先輩にかける期待が、RCCの社内のお歴々より、社外の協力会社や関係会社の方が大きいらしいです。先日公表されたアメリカの運輸局とRCCが共同会社を立ち上げる話が出ていましたが、それも蓮先輩の功績が大だと聞きました、共同で立ち上げる会社のCEOは、先方の会社が務めますが、理事のひとりに蓮先輩の名前が入っていました。それを聞いて俺は、素直に凄い、カッケーと思いました」
「そうだろうな、若い奴ほど城島蓮の率いるRCCに入り、一緒に仕事したいと思う。就職希望者も増えていると聞く」
「だけど、敬介君はそんな上部うわべの事は気にしてないんだと思う」
「それが、敬介のいい所で俺が守りたい所だよ」
「俺も、敬介君の応援団に入ろうかなぁ」
 そういって世田と太田は敬介の事を思うのであった。
 世田は、数日後に展示室の近くで敬介と偶然を装ってあった。
「敬介部長、頑張っているか」
「あぁ、世田先輩、やめてくださいその言い方」
「前代未聞だぞ、陶芸部の部員の誰一人も反対せずに部長が決まったって言うのは、安芸島でさえ、反対者は出たのに」
「そうなんですか?」
「お前が凄いんだ、それを理解しろ」
「はぁ、俺みんな部長したくないから押し付けられたかもって思う事もあるんです」
「それはない、中学生じゃないのに、大学生として選んだはずだし、選ぶという自覚がなければ就活は生き残れない」
「まぁ、そうですね、世田先輩も一度顔出して下さいね」
「わかったよ」
 そう別れた時に、気づいた。敬介は蓮の皿を見ても涙を溢さなくなったんだと思った。敬介もまた一歩を踏み出そうとしている。
 年が明けてから敬介は、地元就職を希望していたので、地元企業のインターンシップに参加する為に大学と地元を行ったり来たりしていた。大学の後期試験もある中、大学のゼミ、陶芸部の活動などと毎日が瞬く間に過ぎていく。そして、安芸島の卒業式の日、陶芸部では部室で、記念品と花束を渡す事になっていた。だけど、最後まで蓮とは連絡は取れず、欠席者扱いになった。
 卒業式の日、部室に安芸島が、現れた。
「おい、敬介新部長さんは忙しいだろう」
「安芸島先輩、ご卒業おめでとうございます。たくさんのお世話をおかけいたしました。ありがとうございました」
 そう言って、記念品と花束を渡した。
「ありがとうな、お世話になったのはお互い様だよ。みんなも来年、再来年と卒業するだろうが、最後まで自分に挑戦するように、頑張って欲しい」
「「「はい」」」
 集まった部員たちは大きな声で返事をした。 
「ありがとうございました。安芸島先輩が、あの時声をかけてくれなかったら僕は陶芸なんてしなかったし陶芸部になんか入っていませんでした」
「そんなに褒めても何も出ないぞ、本当は蓮のろくろを挽く姿が、お前を陶芸部に入れたんだ。俺は、ナイスアシストぐらいだよ」
「だけど、見て凄いと思うだけだったかもしれないですよ。だから、僕の陶芸とのきっかけは安芸島先輩です」
「ありがとう、良い後輩だ」
 敬介と安芸島は笑い合っていた。
「だけど、僕が部長って嘘だろうと思いましたが、同期が全員一致して決めたんです、受けるしかないです。同期も協力的なんで助かっています」
「すごいじゃん、この前の文化祭の銘々皿はよくできていたよ」
「ありがとうございます。先輩は出版社でしたよね」
「そう、祖父が興した出版社だから、小さいけど父親も潰さずここまで来たら俺も何もせずに出版社を終わらしたくないと思ったら他に行く気にならなかった。親父からは、もう潰す筈だったのにって言って怒っていたよ。親父から『お前にはもっと他にも選択肢があるはずだ』と言われたけど、もう少し儲かる出版社にしようと思っている」
「良いですね、僕は就職どうしようかと悩んでるんです」
「今日は、この後同期と呑むから、そうだな、来週にも連絡する。渡したい物あるから良いか?」
「待っています。来週は、インターンシップもないので、久しぶりにろくろを挽くので部室にいます。連絡ください」
 敬介は安芸島に言って別れた。
 それから1週間後に安芸島先輩から連絡があった。
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