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前期試験の終わりの大釜の窯入れには、安芸島が、同期に託した作品はあったが、安芸島自身は卒論で忙しく来れなかった。蓮は、連絡もつかなかった。
本焼きが終わった後の恒例の暑気払いには、安芸島は参加しなかったが、律儀に差し入れはしてくれた。世田は、ゼミと本人の仕事が忙しくて不参加だった。その代わりに、同期の太田が出て場を盛り上げていた。太田は久しぶりに見た敬介が痩せた事を心配していた。周りの同期生達も学食に誘ったり、夕食に誘ってはいるが本人があまり食べないのを心配していると聞いた。
前期試験が終わった後、敬介は、公務員試験の集中講座に参加して忙しかった。講座終了後に実家に戻ってゆっくりする予定で帰省した。実家には姉が、横浜から引き揚げて家にいた。
姉は、いつも強気で、押しまくって活路を見いだすような人で2人の弟の面倒も良く見てくれた。その彼女が、今年の春頃に一人暮らしとハードな仕事と人間関係で悩み体調を崩して実家に帰省してそのまま会社を辞めた。今は近くの地元銀行でゆっくりとした時間を過ごしている。
そして、来年の春に結婚することが決まった。旦那さんなる人は、姉の高校時代のクラスメイトで一時期は付き合う寸前まで行ったようだが、お互いの進学や就職等で自然消滅して、今回姉が実家に戻ったのを機に旦那さんが、猛烈にアタックして紆余曲折の末結婚にこぎつけたと言う事だった。
敬介は、始め姉が、体調を崩して実家に戻っている事を聞いて本当にびっくりしたし心配もしたが、結局バイタリティの塊のような姉らしく再就職した事を聞いて、やはり挫けない人だったと再認識もした。
敬介は、帰省した時に顔色が悪いと言われて、姉に食事に誘われた。その時に蓮の事と急に会えなくなった事等を話した。姉は、全てを聞いて
『良かったじゃない、好きな人ができて、お前がその人を信じているなら信じたら良いよ。信じれないならあっさりとお前の方から捨てれば良い、それが男で有ろうと女であろうと私はお前の味方でいてあげるよ』
と言った。
『ちゃんと食べないとおじいちゃんとおばあちゃんが心配するから、私の時もえらく心配かけちゃった。3食とは言わないけど少しずつは食べないと病気になったらそれこそお母さんが下宿に来て強制送還されるよ。私はそうだったから、ちゃんと食べる事それだけは約束して欲しい』
と約束させられた。敬介も姉に相談して少し心にゆとりができて少しずつだが食べれるようになった。
去年は、蓮の父親の家の片付けでお盆から結構長く実家に居たが、今年は、祖父母の家に行った際に蓮の父親の家へ行った。登り口には管理地の立て看板があった。その横をすり抜けて上ると家はまだ残っていた。父親の家までの道は整備されていたが、登り窯までの道はそのままで、危険の文字がでかでかと看板に書いてあった。敬介は慎重に登って登り窯まで行ったがブロックと土には分けてあったがそれだけだった。
だが、誰もいない。去年は、蓮が優しい顔で笑っていたのに今年は敬介の周りを寂しさが吹き抜けていく。土砂崩れ以降、蓮が、大変な状況下にいて自分にも会えなくなっているんだと思うと心配だった。
『元気ですか?家の仕事忙しいですか?声だけでも聞かせて欲しい、寂しくて寂しくて蓮、会いたいよー、僕を抱きしめて愛し合いたい』
敬介はため息を溢した。蓮との思い出の土地は荒涼とした風景になってしまった。
敬介は、あまりにも辛くなって結局早々に都内に戻って、蓮の思い出から逃げるようにバイトを詰め込んで過ごした。
9月の3週目から、文化祭の制作に取り掛かる。今回の文化祭には姉への餞の物を送ろうと考えた。敬介は、日々の食事を飾る食器として普段使いの物を作りたいと思っていた、それで、姉に皿か湯呑みか茶碗とかどれが良いかと聞くと一言『皿、敬介の作った食器を雑に使えないだろうから、たまには優雅に食事を楽しめる皿が良い』と言ってきたのでろくろで皿を挽く事にした。結構、同じ大きさ、同じ重さ、よく似た色や柄を5枚揃える事は、大変でめげそうだったが、周りの人の助けを借りて作る事が出来た。
文化祭までに敬介は銘々皿を20枚程焼いて、最終的に5枚を選んだ残りは文化祭の陶器市に出した。ろくろで初めて皿を挽いて作った文化祭作陶展への出展作品は、薄紅色のグラデーションがとても美しい5枚の銘々皿だった。
敬介は、下級生の作品作りの相談や陶器市の商品作りで忙しい。面倒見の良い敬介は、後輩たちからの相談にも誠実に応えるので人気があった。忙しく動き回る事で蓮のいない寂しさを紛らわせているようだった。ただ、姉からは時々食事の写真を送る様に○インがあって、すっぽかすと電話がかかるので、毎食写真を撮って送る。その内に敬介は少しずつ食べれるようになって行った。
そして、時間が有れば敬介は、展示室にある蓮の皿の前で独り言を言いに行く姿を陶芸部員は見守っていた。
本焼きが終わった後の恒例の暑気払いには、安芸島は参加しなかったが、律儀に差し入れはしてくれた。世田は、ゼミと本人の仕事が忙しくて不参加だった。その代わりに、同期の太田が出て場を盛り上げていた。太田は久しぶりに見た敬介が痩せた事を心配していた。周りの同期生達も学食に誘ったり、夕食に誘ってはいるが本人があまり食べないのを心配していると聞いた。
前期試験が終わった後、敬介は、公務員試験の集中講座に参加して忙しかった。講座終了後に実家に戻ってゆっくりする予定で帰省した。実家には姉が、横浜から引き揚げて家にいた。
姉は、いつも強気で、押しまくって活路を見いだすような人で2人の弟の面倒も良く見てくれた。その彼女が、今年の春頃に一人暮らしとハードな仕事と人間関係で悩み体調を崩して実家に帰省してそのまま会社を辞めた。今は近くの地元銀行でゆっくりとした時間を過ごしている。
そして、来年の春に結婚することが決まった。旦那さんなる人は、姉の高校時代のクラスメイトで一時期は付き合う寸前まで行ったようだが、お互いの進学や就職等で自然消滅して、今回姉が実家に戻ったのを機に旦那さんが、猛烈にアタックして紆余曲折の末結婚にこぎつけたと言う事だった。
敬介は、始め姉が、体調を崩して実家に戻っている事を聞いて本当にびっくりしたし心配もしたが、結局バイタリティの塊のような姉らしく再就職した事を聞いて、やはり挫けない人だったと再認識もした。
敬介は、帰省した時に顔色が悪いと言われて、姉に食事に誘われた。その時に蓮の事と急に会えなくなった事等を話した。姉は、全てを聞いて
『良かったじゃない、好きな人ができて、お前がその人を信じているなら信じたら良いよ。信じれないならあっさりとお前の方から捨てれば良い、それが男で有ろうと女であろうと私はお前の味方でいてあげるよ』
と言った。
『ちゃんと食べないとおじいちゃんとおばあちゃんが心配するから、私の時もえらく心配かけちゃった。3食とは言わないけど少しずつは食べないと病気になったらそれこそお母さんが下宿に来て強制送還されるよ。私はそうだったから、ちゃんと食べる事それだけは約束して欲しい』
と約束させられた。敬介も姉に相談して少し心にゆとりができて少しずつだが食べれるようになった。
去年は、蓮の父親の家の片付けでお盆から結構長く実家に居たが、今年は、祖父母の家に行った際に蓮の父親の家へ行った。登り口には管理地の立て看板があった。その横をすり抜けて上ると家はまだ残っていた。父親の家までの道は整備されていたが、登り窯までの道はそのままで、危険の文字がでかでかと看板に書いてあった。敬介は慎重に登って登り窯まで行ったがブロックと土には分けてあったがそれだけだった。
だが、誰もいない。去年は、蓮が優しい顔で笑っていたのに今年は敬介の周りを寂しさが吹き抜けていく。土砂崩れ以降、蓮が、大変な状況下にいて自分にも会えなくなっているんだと思うと心配だった。
『元気ですか?家の仕事忙しいですか?声だけでも聞かせて欲しい、寂しくて寂しくて蓮、会いたいよー、僕を抱きしめて愛し合いたい』
敬介はため息を溢した。蓮との思い出の土地は荒涼とした風景になってしまった。
敬介は、あまりにも辛くなって結局早々に都内に戻って、蓮の思い出から逃げるようにバイトを詰め込んで過ごした。
9月の3週目から、文化祭の制作に取り掛かる。今回の文化祭には姉への餞の物を送ろうと考えた。敬介は、日々の食事を飾る食器として普段使いの物を作りたいと思っていた、それで、姉に皿か湯呑みか茶碗とかどれが良いかと聞くと一言『皿、敬介の作った食器を雑に使えないだろうから、たまには優雅に食事を楽しめる皿が良い』と言ってきたのでろくろで皿を挽く事にした。結構、同じ大きさ、同じ重さ、よく似た色や柄を5枚揃える事は、大変でめげそうだったが、周りの人の助けを借りて作る事が出来た。
文化祭までに敬介は銘々皿を20枚程焼いて、最終的に5枚を選んだ残りは文化祭の陶器市に出した。ろくろで初めて皿を挽いて作った文化祭作陶展への出展作品は、薄紅色のグラデーションがとても美しい5枚の銘々皿だった。
敬介は、下級生の作品作りの相談や陶器市の商品作りで忙しい。面倒見の良い敬介は、後輩たちからの相談にも誠実に応えるので人気があった。忙しく動き回る事で蓮のいない寂しさを紛らわせているようだった。ただ、姉からは時々食事の写真を送る様に○インがあって、すっぽかすと電話がかかるので、毎食写真を撮って送る。その内に敬介は少しずつ食べれるようになって行った。
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