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登り窯崩壊
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梅雨に入って毎日じめじめとした日々が続いていた6月末、S県に大雨洪水警報が出た。線状降水帯がS市の山側にできてすごい雨が降り続いていた。
敬介の祖父母宅もその中にあるが両親が早々に祖父母を連れて自宅に避難させた。敬介もそれを聞いて安心していた。
雨がやっと止んで、ホッとしたときに祖父母の家の裏の崖が崩れて祖父母家はかろうじて庭が被害にあっただけで済んだが、中には土石流の被害もあったと聞いた。祖父母の家よりも奥にある蓮の家の山の方の被害がなかなかわからなかった。
2日後の朝、蓮の携帯がなる。
「はい」
「工藤です、工藤陶器店の」
「あぁ、お世話になってます」
「あの、高藤先生の登り窯が、がけ崩れで崩壊したと連絡がありました」
「えっ、登り窯が」
蓮は、一瞬何を言われているのかがわからなかった。
「はい、お宅の方は間一髪大丈夫だったのですが」
「登り窯の近くの奥側の崖が崩れたそうです。確認のため一つ聞いていいでしょうか?」
「はい」
「蓮さんは今ご自宅にいるんですよね。先生の作品なんですが、この頃人気がありましてこの前いただいた作品も今や完売なんです。もし、高藤先生のお宅にまだあるのでしたら譲っていただけないかと思いまして連絡させていただいたのですが、いかがでしょうか」
蓮は、人の勝手な言いようと自分にとってあの場所がいかに大切だったのかと言う事を今更ながら自覚させられて頭を抱え込んでいた。横で寝ていた敬介は、蓮の顔色が、みるみる悪く成るのを見て、電話をかわった。
「お電話代わりました。今、蓮はショックを受けているんです。あなたの都合をこんな時に言うなんて酷すぎますよ。又にしてください。失礼致します」
そういって敬介は電話を切る。
蓮はうずくまって、首を振っていた。敬介は、思いの外ショックを受けている蓮の事が心配になった。事情を聞いて、敬介も祖父母のことが気になっていたので朝イチにS県まで行く事にした。
S 市内の被害は少なかったが、状況を聞きに市役所に行くと職員の人が出てきて地図を使って説明をしてくれた。蓮の山がある側は、人が住んでいなかった為に被害者はいないが、崖が崩れた為に土石流がおきた。登り窯が、その土石流の勢いを止めたと考えられると言っていた。蓮が被害状況を確認しに行く時は、蓮の父親の家まで一緒に来てくれた。
山の登り口も半分が土で埋まっていた為に車では行けずに30分以上かけて、父親の家に着いた。家の近くまで土が流れ込んでいたが、家は無事に残っていた。登り窯に登って行く道は土で埋まっていて、県の調査時の写真を見せてもらった登り窯は無残な状態だった。県からの担当者が
「とりあえず登り窯は殆ど土に埋もれています。ここの山は勿論、登り窯の辺りも高藤さんの所有となっているので、再建されるのでしたら、高藤さんの方でお願いします。できれば早めに登り窯を撤去していただきたいです。2次3次の被害が出ないように手立てをしてください」
そう注意喚起して山を下りて行った。
「蓮、大丈夫か」
敬介は心配になって覗き込んで聞くと、青ざめた顔をして蓮が言った。
「大丈夫、じゃないかな」
「そうだよな、だけど、相談できる人がいるのか?」
「あぁ、多分相談には乗ってくれるから金銭的には大丈夫だ。自然の力なんだろうなすごい、凄すぎてものも言えない。人間って脆いな、ここが俺をこんなにも支えていたんだ、今まで放置していたんだと思うと情けなくなる。自分のイライラを敬介に向けたくないから、ごめん1人にしてくれないか?本当ここまで付き合って来てくれたのに、少し1人で考えたい」
「ゆっくりと考えればいいよ。俺は、今日は祖父の家に行って明日大学に戻る」
敬介はそういって山を下りた。
蓮は降りていく敬介の背中を見ながら、携帯をだす。
「あ、蓮です」
7月の初めの実家の確認に戻って以降、蓮は学校にも陶芸棟にも姿を表していない。敬介が、携帯に電話をしてもメールをしても繋がらなかった。敬介自身も7月に入って就活関連のセミナー、インターンシップ、企業説明会、ゼミと授業以外の事柄も増えて部活と授業に明け暮れていた。
ろくろは少しづつだが回せるようになって来た。後輩の面倒も見ないといけない。蓮に会いたいからと言って、無闇にマンションには近寄られずに時間だけが過ぎていった。
敬介は毎日早めに大学に行って、展示室の蓮の皿の前で、前の日にあった事を心の中で話して最後に『会いたい』と『愛している』の二言を遺して帰るしかできなかった。今の敬介には展示室の蓮の皿だけが支えだった。皿に浮かぶ月を見て蓮を思っていた。
敬介の祖父母宅もその中にあるが両親が早々に祖父母を連れて自宅に避難させた。敬介もそれを聞いて安心していた。
雨がやっと止んで、ホッとしたときに祖父母の家の裏の崖が崩れて祖父母家はかろうじて庭が被害にあっただけで済んだが、中には土石流の被害もあったと聞いた。祖父母の家よりも奥にある蓮の家の山の方の被害がなかなかわからなかった。
2日後の朝、蓮の携帯がなる。
「はい」
「工藤です、工藤陶器店の」
「あぁ、お世話になってます」
「あの、高藤先生の登り窯が、がけ崩れで崩壊したと連絡がありました」
「えっ、登り窯が」
蓮は、一瞬何を言われているのかがわからなかった。
「はい、お宅の方は間一髪大丈夫だったのですが」
「登り窯の近くの奥側の崖が崩れたそうです。確認のため一つ聞いていいでしょうか?」
「はい」
「蓮さんは今ご自宅にいるんですよね。先生の作品なんですが、この頃人気がありましてこの前いただいた作品も今や完売なんです。もし、高藤先生のお宅にまだあるのでしたら譲っていただけないかと思いまして連絡させていただいたのですが、いかがでしょうか」
蓮は、人の勝手な言いようと自分にとってあの場所がいかに大切だったのかと言う事を今更ながら自覚させられて頭を抱え込んでいた。横で寝ていた敬介は、蓮の顔色が、みるみる悪く成るのを見て、電話をかわった。
「お電話代わりました。今、蓮はショックを受けているんです。あなたの都合をこんな時に言うなんて酷すぎますよ。又にしてください。失礼致します」
そういって敬介は電話を切る。
蓮はうずくまって、首を振っていた。敬介は、思いの外ショックを受けている蓮の事が心配になった。事情を聞いて、敬介も祖父母のことが気になっていたので朝イチにS県まで行く事にした。
S 市内の被害は少なかったが、状況を聞きに市役所に行くと職員の人が出てきて地図を使って説明をしてくれた。蓮の山がある側は、人が住んでいなかった為に被害者はいないが、崖が崩れた為に土石流がおきた。登り窯が、その土石流の勢いを止めたと考えられると言っていた。蓮が被害状況を確認しに行く時は、蓮の父親の家まで一緒に来てくれた。
山の登り口も半分が土で埋まっていた為に車では行けずに30分以上かけて、父親の家に着いた。家の近くまで土が流れ込んでいたが、家は無事に残っていた。登り窯に登って行く道は土で埋まっていて、県の調査時の写真を見せてもらった登り窯は無残な状態だった。県からの担当者が
「とりあえず登り窯は殆ど土に埋もれています。ここの山は勿論、登り窯の辺りも高藤さんの所有となっているので、再建されるのでしたら、高藤さんの方でお願いします。できれば早めに登り窯を撤去していただきたいです。2次3次の被害が出ないように手立てをしてください」
そう注意喚起して山を下りて行った。
「蓮、大丈夫か」
敬介は心配になって覗き込んで聞くと、青ざめた顔をして蓮が言った。
「大丈夫、じゃないかな」
「そうだよな、だけど、相談できる人がいるのか?」
「あぁ、多分相談には乗ってくれるから金銭的には大丈夫だ。自然の力なんだろうなすごい、凄すぎてものも言えない。人間って脆いな、ここが俺をこんなにも支えていたんだ、今まで放置していたんだと思うと情けなくなる。自分のイライラを敬介に向けたくないから、ごめん1人にしてくれないか?本当ここまで付き合って来てくれたのに、少し1人で考えたい」
「ゆっくりと考えればいいよ。俺は、今日は祖父の家に行って明日大学に戻る」
敬介はそういって山を下りた。
蓮は降りていく敬介の背中を見ながら、携帯をだす。
「あ、蓮です」
7月の初めの実家の確認に戻って以降、蓮は学校にも陶芸棟にも姿を表していない。敬介が、携帯に電話をしてもメールをしても繋がらなかった。敬介自身も7月に入って就活関連のセミナー、インターンシップ、企業説明会、ゼミと授業以外の事柄も増えて部活と授業に明け暮れていた。
ろくろは少しづつだが回せるようになって来た。後輩の面倒も見ないといけない。蓮に会いたいからと言って、無闇にマンションには近寄られずに時間だけが過ぎていった。
敬介は毎日早めに大学に行って、展示室の蓮の皿の前で、前の日にあった事を心の中で話して最後に『会いたい』と『愛している』の二言を遺して帰るしかできなかった。今の敬介には展示室の蓮の皿だけが支えだった。皿に浮かぶ月を見て蓮を思っていた。
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