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蓮の葛藤

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 蓮は、雨音を聞きながら敬介の顔を見つめる。全てのものから愛しい彼を守りたいと思うが、母親の実家の真実を敬介には知られたくないと蓮は強く思うのだ。
 蓮は、祖父が一代で作った会社の孫で金銭的には恵まれている。その家には絶対的権力志向の蓮の祖父がいた。
 彼は、自分の子、孫は思い通りになる駒だと思っていた。自分の指示に従わないことを許さないのである。人の弱みを掴んでゆすり、祖父に従わなければ人殺し以外の妨害を平気でする。
 長男の叔父は、次代を担うwebデザイナーとして注目されていたが、祖父に押し切られる様に後継者として会社に入社させられた。仕事はできる人では有るが、決断力に少し欠ける。そこが祖父には気に入らない所であったが、傀儡できる駒だった。ただ、彼は父親の浮気が原因でたびたび起きる両親の大喧嘩がトラウマになって、女を受け付けなくなっていた。
 長女の蓮を産んだ母親は祖母から蝶よ花よと育てられ我儘放題で無責任な女だった。顔は良い金も持っているので良くモテた様だが、自分勝手で常に上から物を言うので取り巻きはいるが彼はいない女であった。金は湯水の如く使う様な娘で、政略結婚をさせようとして失敗して、陶芸バカだの父親と結婚させるしかなかった。ただ、彼女には蓮と言う男の子がいた。
 蓮が小学校2年生の時、母親の実家では叔父がカミングアウトした。祖父母はそれを隠す為に擬装結婚を画策する等大騒ぎだったが、いつもフラフラしている長女に男の子がいる事を思い出した祖父は、長女にお金をチラつかせて子供を実家に引き取ってくる様に指示した。お金に目が無い最低な母親は、すぐに父親の所に行って、中学受験は大切だと父親を唆して蓮を実家に引き取った。
 暫くしてから父親に蓮を実家の跡取りにする為に離婚届とお金を弁護士に届けさせた。父親は、中々納得しなかったが、祖父が父親と懇意の陶芸店に圧力をかけた。結局父親は病気になった職人の治療費や入院費も必要だったので離婚に応じた。
 父親は職人を見送った後、蓮を金で売ったという罪悪感と騙されたと言う失望感で胃と肝臓を壊して亡くなった。
 蓮が、真実を俺が知ったのは高校二年生の時に大叔母が祖母と話していた時だった。それを聞いて蓮は、吐き気が止まらず、一週間食べれない状態だった。それを心配してくれたのは、安芸島や世田だった。世田の叔父さんのクリニックに1週間入院した。それを家政婦は、知っていても関わりたくなく放置した。それ以降本当に母親の実家が嫌いになった。大学に入ったら家を出ると決めていた。
 だがそれも祖父の一言でできなくなってしまった。『安芸島と世田を潰しても良いか嫌なら後継者として城島家に尽くせ』と言われた、彼らは蓮にとって親友でライバルだった。それを人質の様に言われたことは蓮にとって憤りしかなかったが、仕事をするだけならと思っていた。それよりも会社は継ぐ気はさらさらなく、祖父が死んだら倒産させてやりたいと思っていた。
 それが一変したのは、後継者だと祖父母が大学入学時に、世間に公表して以来世間からはそういう目で見られて社交の場にも連れまわされてる等にっちもさっちも動けない。仕事をすれば、大学在学中は自由にしても良いと言われて入った。この大学に設備の良い陶芸棟があるから選んだのに作品らしい物はこの前の鉢と皿だけだ。まだまだ焼きたいものがある。敬介と一緒に陶芸を楽しんで行きたいのに時間がない。
 叔父の話では4年生の後半にはアメリカ本社移転が濃厚で大学卒業までは日本だが、卒業後はアメリカと日本を行き来しながら仕事をする事になりそうだと言われていた。蓮は、やっと自分の心が暖かくなる人と会えたのに後一年半しか一緒にいられないと考えると胸が張り裂けそうだった。
それに加えて、敬介のことを祖父に知られれば確実に敬介は潰される。それだけは、阻止しないと叔父の二の舞を踏むことになる。
『君にまだ言えない俺のことを許してくれ、敬介、君を守りたい』蓮は独り言を言った。
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