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 次の日、片付けがほぼ終わった夕方に敬介は、登り窯を見せてもらった。
「かっこいいですね」
「そうだな、この登り窯の計画を練っていた頃は親父とお袋は結婚前でそこそこ楽しくやっていたから結構充実していたんだと思う。この火口で火が炎になる火は陶器の周りにも襲うがごとく燃え盛り温度を上げて行く1200度以上の高熱で陶器は焼かれる。その火口に三日三晩親父は座って火を見守っている。職人は火口から火が炎となって登っていく様を見ながら煙突の煙が上がって上がって白濁していく様を見守り薪を運ぶ。この窯は年に1、2回の窯焚きだったがその前一週間以上は殆ど生物酒は摂らないある意味儀式の様だった。この窯いっぱいに作品を入れても使える物が一つかもしれんそんな事にならない様に祈るが如く薪をくべて火を炎にしていくんだ」
「先輩はこれに火が入っている所も知っているんですね。先輩の作品もここに入れて焼いた事はあるのですか?」
「幼い頃はそれこそ真似て色々そこら辺にある土で作って、窯の空きが有れば焼いてもらっていたよ。俺が、初めてろくろを回したのは小学生になる前だと思う」
「すっげー、そんな小さい頃からろくろ回せるってすごいです」
「門前の小僧だったから、ろくろを挽くのも土を捏ねるのも当時の職人から教えて貰った。俺にとって一番大切な思い出だ。こんな山奥の家で何も無くても貧しくても小さな事で笑っていた。親父も俺がろくろの前で、作っているのを見て笑ってくれた。あそこにある手回しろくろは、祖父の代から使っていた物で特別なんだ」
「へぇ、俺も頑張って来年はろくろを挽く」
「敬介、それは相当頑張らないとダメだな」
「先輩が教えてくれたら良いじゃないですか?」
「わかった、お前も精進しろよ」
「もちろん、精進させて貰います。先輩質問ですが、この登り窯って使えるんですか?」
「うーんわからないけど、もう10年近く放置しているから直ぐには無理かな」
「ここで暮らして陶器を作る生活ができれば良いですね」
「陶器を作る暮らしができればか」
 蓮は独り言のように呟いた。
「あ、雨が降り出した」
 2人は父親の家に急いで戻る。しかし、雨は、2人をここに閉じ込める。
 2人で夕食に蓮が、持ち込んでいたインスタント食品を食べていた時に、突然停電になった。蝋燭を探し、薪を見つけて囲炉裏に木を焚べた。
「なんか、焚き火みたい」
「そこそこ標高があるから夏と言えども雨の降る夜は冷えるから丁度良いかもしれないな」
 2人はしばらく火を見つめていた。そして、蓮が思い出したように敬介に尋ねる
「一度敬介に聞きたかったんだが、敬介はどうして陶芸をあんなに頑張るのかを聞きたい」
「あぁ、それは、今まで本当に不器用で小学校?もう産まれて以来何か物を作ることは上手くいった事がないんです。絵はそこまで酷くはないんですがね。
『ここで終わればこれ以上は何もできなくなるんじゃないかなぁ』って蓮先輩に言われて、いつも不器用だからと言い訳して、直ぐにダメだと諦めてもう良いと見切りをつけていた自分に気づいたんです。
『ここで諦めたら、いつもと同じだって』強く思って、『やれる所までやる』って思い直しました。まともに作れたことがなかったのに、何回も同じコップを作っていくと少しずつまともに使えるコップになって来た自分の作品を見て愛おしいく思えるし、次こそもっと上手くできるような気がするって思えるんです。今はすっかりハマっていて陶芸が、楽しくてたまらなくなりました。
それに、陶芸を通じて今まで気にならなかった物がとても気になって、先輩に頂いた自転車であっちこっちに行くのも楽しくて仕方ないんです。都内って沢山の美術館や博物館があるので見に行ったり、大学の周りだけでも下町があって市場や高級なスーパーがあったりして時間が有れば寄り道するんです。物だけじゃなくてそこにいる人にも関心が出てきて、自分の地元より遥かに多い人数だけで、人の営みはそう代わりがないと思えてきました。
もう一つとしては、俺、市民講座でバイトしているでしょ、あそこに集まって来る人それぞれに事情を持っている人が集まって、思い思いの作品を作るんですね。それを見て頑張ろうと思うです。
市民講座の中にはもう5年以上も通っている人もいたり、体験講座に来て面白いと思って続けたいと言って来る人もいます。家には釜が無いし、土を捏ねるのも場所もないからって言う人や、家で窯を買って見たが1人で作るってエネルギーいるから続けてする事ができずに結局舞い戻っている人等様々な人々がそれぞれに不便さを感じながらでも、陶芸が好きだと思う気持ちだけで通っているのも良いと思えるんです。
趣味がなくて始めた陶芸にハマってネットで売っている人も生徒さんにはいる見たいですが、それを批判する人もあります。それでも陶芸と言う魅力に魅入られてしまった人の集まりで良いと思っています」
敬介は、しみじみ語った。
「蓮先輩、これからも陶芸して下さいね。俺先輩を追いかけて頑張るので」
「そうだな、陶芸は、辞めたくない。どんな事があっても俺も頑張るから、俺を追いかけ来い」
蓮は、敬介言いながら自分に言い聞かせていた。
「はい」
敬介は、どんな事があっても蓮を信じると
心に決めた。
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