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 蓮がろくろの前に座って一週間がすぎた。
 やっと彼の思うようなコップができた。彼は、子供の頃ろくろ上手く挽けずに癇癪を起こした蓮を優しく諭してろくろの前に誘って座らせた父親と少しでも上手く挽くと褒めてくれた職人高さんとそれを見ながら休憩を促すおばさんの全てが蓮にとって大切な人々だった。その人々との日々が、続くと思っていた自分は、今の自分から見ても1番幸せだったと思う。
 蓮にとって初めてろくろを挽いてコップができた時みんなでお祝いしてくれて、それを大事に焼き上げてくれた父親の顔も蘇って涙が浮かぶ。そのコップは、蓮の部屋のペン立てになっている。そんな思い出の詰まった家を整理できずに放置して来た。
 敬介の無自覚な陶芸への熱意に立ち向かい寄り添って行く為にも自分の原点である父親の住んでいた家と父親の作品を整理しようと思った。
『もう誰もいなくなって、誰も振り向かないかも知れない父親の焼き物を誰かの役に立ててもらおう、父親の魂をあの場所から飛び立たせよう、そしていつか帰る為にも一度自分もあそこから巣立つ事にしよう』と強く思った。そして、前々から父親の焼き物の作陶展を言ってくれていた陶器店に連絡した。
 次の週から蓮は、精力的に文化祭の作品を作り始めた。蓮は、皿と鉢を作ることにした、そのどちらかを文化祭に出そうと思っていた。上級生で今年にかける人も多くそうすると作品が大きくなる。その為に早々に陶芸部の窯は、予約でいっぱいになる。蓮は、安芸島と何人かの先輩達と組んで、作陶室の窯の合間を別料金で予約して素焼きをする。大窯の本焼きに向けて準備を進めて行った。
 蓮は、作品を作るようになって以来、毒舌は鳴りを潜め、陶芸に集中している。その横に敬介が、当然のように土を練り作品を作っていた。2人は気軽に話をするようになった。蓮は初心者の敬介に彼が父親や職人から教えてもらった釉薬についてや奥深い陶芸の世界を色々と教えながら彼も身についている事を思う。2人は互いに同じ方向を見ていても見ている先は同じだった為に作品を作る間は殆ど話さずとも心が通じ合っている事を感じていた。
 蓮と一緒にいるだけで敬介の心は、ざわめき浮きだち落ち着かなくなる。それは、蓮も感じているが、2人はその気持ちを互いに相手に伝える勇気が出なかった。
 3台ある電気窯の一番大きな窯は借料も電気代を合わせて結構な金額を支払う為、陶芸部として借りるのは前期の試験が終わり、夏休み入る前に文化祭の作品を作る時と文化祭前に下級生の作品と文化祭のイベント等に使う作品を作る時の2回である。夏休み前の窯は、就活などで忙しくなる上級生にとって大学生で最後になる人も多くて大作を作る人も多く力の入れようも違っている。いくつか素焼きされた作品の中から文化祭の作品にと決めた物に思い思いの釉薬をかけていく。それを大きさや深さなどを考えながら窯の中に入れる。入れれる作品もひとり3点までだが、不公平にならないように一点一点おいて行く。蓮は美しく少し大きめの皿と茶碗を窯に入れた。敬介は、蓮が作る過程を横で見守っていたので、自分の事のように感じていた。そして、無事に焼けることを祈っていた。
 全ての作品が入って、窯の蓋が閉められた。次窯の蓋が開くまで、執行部の先輩達や上級生は泊まり込み窯を見守る。蓮も一緒に泊まり込んでいた。
 敬介も一緒に泊まり込みたがったが、『下級生は遠慮する物だ』と、世田に言われて家に帰った。

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