【本編完結】優しい気持ちが灯るまで~君と見た月に(改稿終了)

Rei0【風鈴】

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蓮の変心1

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 市民講座や体験講座など陶芸をするお年寄りや初心者にとって土を練ることは重労働な上、慣れるまで時間がかかる。それらのニーズに応えるように土練りをした土の販売を陶芸部で請け負っている。土の値段に土練り代50円を乗せて売る。その50円は陶芸部の活動費の一部になっていた。特に一年生は土練りの練習を兼ねて仕事として土練りを良くさせられていた。普段の市民講座の時は数量も少ないが、夏休みこども体験講座などは、土練りの数も多くて一年生だけでは回らないので上級生も土練りをする。
 それが嫌で辞める人やなんとか逃れようとしている人もいるが、敬介は、土練りが好きだった。土が空気に触れて少しずつ柔らかくなり最後は菊の花のように練れて土が生まれ変わっていく様に感じた。特に蓮の菊練りは、土が使いやすく、土の菊が美しいと市民講座生の中で人気があった。
 敬介は、自分も早く上手くなりないと思いながら蓮の横で土練る。敬介も蓮も土練りの間はしゃべることもない、土を練っていると雑念がなくなって集中していく。土練をする度に敬介は、少しづつ陶芸が好きになって、夢中になって作る自分に少し驚ろいている。敬介はコップに限らず様々な食器を手捻りで挑戦し始めた。
 陶芸部の秋の文化祭に作陶展に出品する作品を作り始める時期が来た。1人2点まで自分の作品を作陶展に出す事ができる。上級生からは『1,2年生の間は、凝った物よりコップや皿等を作る方が良いよ。なぜなら、失敗しても、普段の活動する中で作り直す事もできる。幾つか作って選ぶことも可能だからだ』と聞いた。敬介は、湯呑みを作って祖父母にプレゼントしようと思った。
 敬介は、初めて作る湯呑みについて蓮に相談した。
「湯呑みは、使い手の好みの大きさもあるから、一度デパート等で湯呑みを見て大きさを実感するのも良いかもしれない。気に入った大きさや形の物を実際幾つか作って素焼きをして形を決めたらどうかな?プレゼントする相手が老人なら重さも重視しないと、プレゼントしても使えないって事にもなるから、そこにも気をつけて作る事も大切だと思う」
「ありがとうございます。参考にします。できたら見て意見くださいね」
 と笑顔で蓮に答える。それを見て蓮は、胸の奥がチリチリと焼けていくのを感じる。
 それから、敬介は時間を見つけては湯呑みを作るために色々な陶器店を周ったり、形を考えて作ってみたりした。夏休み前で授業のレポートが増えて大変だったが、人が良くてどんな時も優しく対応する敬介は、バイトの市民講座の先生や生徒たちにも人気があり、教えてもらえたりこっそりと焼いてもらったりして次第に見栄えもいいものができるようになった。
 そんな、敬介の作品が少しずつ使える物に変化する様子を見ていた蓮の心に変化があった。蓮は、この大学を受験した時は陶芸を大学時代だけでもしたいと思っていたが、心ない人の行動で、作品を作る意欲をなくしてしまい、土を練る事しかできなくなった。他人を信じられなくなり、他人に冷たい対応しかできなくなった。そんな蓮を見守っていたのが安芸島達同期のメンバーだったが、彼らでも蓮に作品を作らせる事は出来なかった。
 だが、敬介の一生懸命さは、蓮に幼い頃に父親の横でろくろを回し始めた頃の事を思い出させた。何も考えずに無心でろくろの前に座っていた自分と周りの風景を蓮は、夢に見るのであった。ろくろを挽く蓮を優しく見守ってくれた人々はもう誰も居なくなってしまったが、陶芸の楽しさを教えてくれた事がまだ自分の心に残っていた事に思いを馳せる。
 その日の朝早く蓮は、土練をして空いていたろくろの前に蓮は座った。茶碗を作ろうと思うが、久しぶりのろくろの前で緊張して、身震いしてしまい、作り始めると、サークル紹介の時には苦もなく大皿を挽けたのに小皿でさえ上手くできそうではなかった。初めてろくろを使う人のように四苦八苦しながら作る自分に戸惑い、あまりのできない自分に笑いが出る程だった。それまでの蓮なら諦めて辞めていたかもしれないが、蓮の目の前には敬介がいる。負けたく無い、良い所を見せたいと、彼の姿を見れば蓮は思える。そして、何回もチャレンジして少しずつ勘を取り戻しつつあった。
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