【本編完結】優しい気持ちが灯るまで~君と見た月に(改稿終了)

Rei0【風鈴】

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部活初日

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 陶芸サークル活動の初日、敬介は緊張の面持ちで陶芸棟に来ていた。
 陶芸棟へはバイトでもう2回来ていたが、殆ど土を運んだり、受付等の雑用ばかりだったので作っている様子を見る事がなかった。
 不器用を自称する敬介は、初めて陶芸をする事にワクワクするよりテンパっていた。
 陶芸部は、基本自由出席で部員数は休眠部員を合わせると40名ぐらいいる。
月2回の活動日は陶芸棟の作業室を借りて作品を作る。
 4月の第一回目の活動日、1年生は全員召集されていた。陶芸部の部室や陶芸棟の設備の説明やパンフレットに載っていた費用についての事、窯等細かく説明された。最後に、他の陶芸部の部員が集まっている作業室に案内された。
 部屋の前側に三年生の執行役員が並び、今日の作業について部長が話し始める。
「今日は、例年通りに、経験者もみんな手捻りをします。毎年の恒例なのでわかっていると思いますが、1年生の周りにいる3年生の参加者は1年生の様子を見ながら作品を作ってくれ、1年生で未経験者は?手を挙げてくれ、それと窯の使用申請だがいつものように学校の陶芸部のホルダーに今年の行事予定と連絡事項などと一緒に今年の窯の予約表を入れてあるので、それを見て欲しい」
 未経験者は、敬介を含めて3人だった。
「その3人はコッチのテーブルに集まってくれ、それじゃ始めよう、蓮、1年の土の用意は?」
「できているけど、8人分で良かったんだよな」
「すまん、1人分追加で頼む」
「わかった」
 蓮は、土を捏ね始めた。敬介も他のメンバーもその捏ね方を盗み見てた。土が段々柔らかくなって菊の花のように生まれ変わっていく様に敬介は目が離せなかった。
「それじゃ、一年生の土は、今回城島さんが捏ねてくれましたが、次からは自分で捏ねる事になります。始めは時間もかかるだろうがコツを掴めば自分でも捏ねていける。頑張ってくれ、自分で使う土を捏ねる以外にも捏ねた土を市民講座で使う人や、体験学習で未経験者が使う時に土代にプラスして提供する。そのお金は、陶芸部の活動費の一部となる。それは下級生の仕事になっています。それを踏まえて頑張って土練りを覚えて欲しい。それでは各自始めて」
 安芸島が全体に周知した後、未経験者に向けて手捻りについて説明してくれた。敬介は、何を作ると言う所で戸惑ってしまった。同期の未経験者の人はコップや茶碗など思い思いで形を作っていくのだが、敬介は何も浮かんで来ない。敬介は、コップを作ることにしたが、どれぐらいの大きさが良いのかと言う事で考え込んでしまった。
「東山君、何を作る予定?」
 安芸島先輩が聞いた。
「コップを作ろうと思うんですが、どれぐらいの大きさが良いのかわからないです」
「別に大きさは考えなくて良いから君の家のコップを思い浮かべて、先ずはそこの大きさを決めて」
 敬介の隣に安芸島先輩が座って色々と教えてくれる。敬介は安芸島に言われたままそこの大きさを決めて土を縄のようにしてコップを作り始めた。
 蓮は、敬介の様子を見ながら土を練っていた。しかし、あまりにも敬介の不器用さに思わず笑いがでてしまう。本人は一生懸命なのだが縄上にした土が一定の太さじゃないのでバランスが悪く上に上手く土台にのっていない。その上にまた一定でない土をのせるから広がったり、狭まったりしていた。安芸島も一人で三人は大変そうで、おとなしい敬介はほったらかし状態だ、蓮は、それを見かねて敬介に声をかけた。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないです。だんだん広がってきたんですこれじゃどんぶり?もう。もう一度やりなおすか?」
「やり直すなら、もう一度土をこねないと無理だぞ。乾いてきているから」
「えーえどうしよう」
「今回はこれぐらいにして、へらで表面を均せばいいんじゃないか?器の表面を少しづつ均せばいいよ。焦らず欲張らずに」
 蓮はその言葉を言いながら『蓮、焦ること欲張ることは禁物だぞ』と言った父親の顔を思い出した。

    
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