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 さくらが散り始める4月中旬、都内の公立H大の入学式が終わって、新入生、在校生、父兄が入乱れてキャンパスに溢れている。
 さくらが散り急ぐ中を少しオドオドしながら東山敬介とうやまけいすけはサークル紹介会場の人の波の中に押されてながらゆっくりと歩いてた。
 田園風景の残るS県の地方都市出身の彼にとっては、都会の大学に集まった人の多さに驚いていた。地元の親しい友人たちの殆どが地元大学や就職だったりしていたので友人と呼べる友人はいない状態での入学だった。敬介は『近くの神社の夏祭りより人が多いじゃないの?』独り言を言いながら歩く。
 敬介も初めは、地元の大学に進学する予定だったが、地元の企業に勤めるにしろ公務員になるにしても視野が狭すぎると5歳上の姉に指摘された。都内の国公立なら受験しても良いと両親も賛成して、都立のH大を受験し合格したのだ。
 元来、人前に出るのが苦手な敬介であったが、押しの強い姉からサークル活動してると先輩から就職や履修やゼミの情報がもらえるし、下宿での寂しさが薄まるからいい人生経験にもなると説得され、サークル紹介会場に足を運んだのである。
 後で絶対に確認の電話を掛けてくるだろう押しの強い姉を躱わすなどは敬介にはできない、チラシを貰ってそれを見せながら、とりあえず行ったが今思案中だと言えばどうにか納得してくれると考えながら人の波に押されて歩く。
 文系の自分にはスポーツ系は無理だから、ぼんやりと文化系サークルが並んでいる所を色々見ながら歩く。手には、色々なサークルからのチラシが握られていた。
 突然、敬介の目の前で皿?を回している人がいた。機械の上には皿が回りながら大きくなっていく。薄く広がって大きくなる皿を真剣な目で作っていく男の姿に目が離せない。敬介は立ち止まって見入っていた、不器用で何を作っても上手くできた事のない敬介にとっては信じられない光景だったからだ。
「ねえぇ、君、陶芸部に入らない?」
 チラシを持った上級生らしき人が突然、笑顔で皿と敬介の間に飛び込んで声を掛けてきた。
「ぼ、僕は不器用だから無理です」
「誰でも初めは大した作品はできないけど、少しずつ上手くできるようになるよ、この大学の陶芸棟は結構本格派で、一般人の教室もやっている。部員なら部費と土の代金位で作れるよ。後は一般の体験教室で作った作品の管理と窯の出し入れ等市の職員の手伝いをしたり、使った釜の掃除や部屋の掃除をすれば、窯の利用料なども安く使えたりする。釜は大きいから市民講座の講習生の釜入れにスペースがあれば一緒に焼いてもらえれば金はかからない。大学からの補助金も出ているし、少し古いけど電気窯も部として持っているんだ、条件良いでしょう」
「で、でもアレって難しいんですよね」
「ろくろ、ろくろは陶芸部は3台あるけど一般のろくろは開いている時は使い放題だから練習も十分できるからコツがわかれば作れるよ。一般の人に言わせれば時間があるだけ練習できるって、だから、ろくろも2学年位で使えるようになるかなぁ?」
 安芸島の説明を聞きながら、敬介は自分がろくろを回しているのを想像して呟く。
「それなら4年生位に成れば僕にでも大丈夫かなぁ?あぁ、ここに法学部の人っているんですか?」
「法学部?それなら俺は法学部だけど、あっ、履修?それは教えてあげる。俺より良く知っている奴を紹介してあげる。君は弁護士希望じゃないなら」
「僕は、公務員希望しているので」
「だったら、俺の連れを紹介してあげるから、そいつは軽音だけど、公務員希望だから」
 安芸島の答えに、敬介はホッとした。
「それじゃ、入っても良いかも」
「それじゃ、ここに名前と携帯電話番号と○インを交換しておこう」
 敬介は、言われるままに名前と携帯電話番号と○インの交換をしていた。
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