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入学式の出会い1
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さくらが散り始める4月中旬、都立H大学の入学式が終わって、新入生、在校生、父兄が入乱れてキャンパスに溢れている。
さくらが散り急ぐ中を少しオドオドしながら東山敬介はサークル紹介会場の人の波の中に押されてながらゆっくりと歩いてた。
田園風景の残るS県の地方都市出身の彼にとっては、都会の大学に集まった人の多さに驚いていた。地元の親しい友人たちの殆どが地元大学や就職だったりしていたので友人と呼べる友人はいない状態での入学だった。敬介は『近くの神社の夏祭りより人が多いじゃないの?』独り言を言いながら歩く。
入学式だけでも行くよと言っていた、両親は来ていない。下宿の引越しが済むと家に帰って行った。公務員の父親は、県立高校の入学式に急遽出席する事になったと言い、看護婦長の母親は、急病になった部下の代わり出る事になったからだ。両親共に働いている家では良くある事で、敬介も慣れているので気にはしていない。
敬介は、志望校を初め地元の大学と決めていたが、『地元の企業に勤めるにしろ公務員になるにしても視野が狭すぎる』と、都立H大学卒の5歳上の姉に指摘された。敬介自身もこのまま実家から大学に通うのも思案していると『都内の国公立なら受験しても良い。お前は真面目だから、ひとり暮らしも大丈夫だろう』と両親も賛成して、都立のH大学を受験し合格してしまった。
元来、人前に出るのが苦手でお人好しな性格で、誰にでもニコニコしていればどうにかなると思っている敬介の事を心配している押しの強い姉が、始めは一緒に住もうと言ってくれたのだが、彼女の急な転勤で待望のひとり暮らしをする事になった。それでも心配してくれた彼女から『サークル活動してると先輩から就職や履修やゼミの情報がもらえるし、下宿での寂しさが薄まるからいい人生経験にもなる』と説得された。友人も特に居ないし、良い人と出会うかも知れないと思いながらサークル紹介会場に足を運んだのである。
後で絶対に確認の電話を掛けてくるだろう姉を躱わすなどは敬介にはできない、チラシを貰ってそれを見ながら、『とりあえず行ったが、今思案中』言えばどうにか納得してくれると考えながら人の波に押されて歩く。
文系の自分にはスポーツ系は無理だから、ぼんやりと文化系サークルが並んでいる所を色々見ながら歩く。手には、歩くたびに増える色々なサークルからのチラシが握られていた。
突然、敬介の目の前で皿?を回している人がいた。機械の上には皿が回りながら大きくなっていく。薄く広がって大きくなる皿を真剣な目で作っていく男の姿に目が離せない。敬介は立ち止まって見入っていた、不器用で何を作っても上手くできた事のない敬介にとっては信じられない光景だったからだ。
「ねえぇ、君、陶芸部に入らない?今年、陶芸部の部長をしている安芸島です」
チラシを持った上級生らしき人が突然、笑顔で皿と敬介の間に飛び込んで声を掛けてきた。
「ぼ、僕は不器用だから無理です」
敬介は即答した。
『可愛いいなぁ、可愛い子ゲットしたいなぁ』チラッと安芸島が他の部員を見るとオッケーを出している。
「誰でも初めは大した作品はできないけど、少しずつ上手くできるようになるよ、この大学の陶芸棟は結構本格派で、一般人の教室もやっている。部員なら部費と土の代金位で作れるよ。後は一般の体験教室で作った作品の管理と窯の出し入れ等市の職員の手伝いをしたり、使った釜の掃除や部屋の掃除をすれば、窯の利用料なども安く使えたりする。釜は大きいから市民講座の講習生の釜入れにスペースがあれば一緒に焼いてもらえれば金はかからない。大学からの補助金も出ているし、少し古いけど電気窯も部として持っているんだ、条件良いでしょう」
安芸島は怖がらせないように言うと
「で、でもアレって難しいんですよね」
「ろくろ、ろくろは陶芸部は3台あるけど一般のろくろは開いている時は使い放題だから練習も十分できるからコツがわかれば作れるよ。一般の人に言わせれば時間があるだけ練習できるって、だから、ろくろも2学年位で使えるようになるかなぁ?」
安芸島の説明を聞きながら、敬介は自分がろくろを回しているのを想像して呟く。
「それなら4年生位に成れば僕にでも大丈夫かなぁ?あぁ、ここに法学部の人っているんですか?」
「法学部?それなら俺は法学部だけど、あっ、履修?それは教えてあげる。俺より良く知っている奴を紹介してあげる。君は弁護士希望?」
「僕は、公務員希望しています」
「だったら、俺の連れを紹介してあげる、そいつは軽音だけど、公務員希望だから」
安芸島の答えに、敬介はホッとした。人のよさそうな安芸島の笑顔につられて
「軽音って楽器ですよね。楽器は興味ないから、それじゃ、陶芸部に入っても良いかも」
「それじゃ、入部届なんだけどここに名前と携帯電話番号を書いてくれる?念のために○インを交換しててもいいかな?それだったらいつでも相談に乗れるから」
敬介は、言われるままに名前と携帯電話番号と入部届に書いて、安芸島と○インの交換をしていた。
さくらが散り急ぐ中を少しオドオドしながら東山敬介はサークル紹介会場の人の波の中に押されてながらゆっくりと歩いてた。
田園風景の残るS県の地方都市出身の彼にとっては、都会の大学に集まった人の多さに驚いていた。地元の親しい友人たちの殆どが地元大学や就職だったりしていたので友人と呼べる友人はいない状態での入学だった。敬介は『近くの神社の夏祭りより人が多いじゃないの?』独り言を言いながら歩く。
入学式だけでも行くよと言っていた、両親は来ていない。下宿の引越しが済むと家に帰って行った。公務員の父親は、県立高校の入学式に急遽出席する事になったと言い、看護婦長の母親は、急病になった部下の代わり出る事になったからだ。両親共に働いている家では良くある事で、敬介も慣れているので気にはしていない。
敬介は、志望校を初め地元の大学と決めていたが、『地元の企業に勤めるにしろ公務員になるにしても視野が狭すぎる』と、都立H大学卒の5歳上の姉に指摘された。敬介自身もこのまま実家から大学に通うのも思案していると『都内の国公立なら受験しても良い。お前は真面目だから、ひとり暮らしも大丈夫だろう』と両親も賛成して、都立のH大学を受験し合格してしまった。
元来、人前に出るのが苦手でお人好しな性格で、誰にでもニコニコしていればどうにかなると思っている敬介の事を心配している押しの強い姉が、始めは一緒に住もうと言ってくれたのだが、彼女の急な転勤で待望のひとり暮らしをする事になった。それでも心配してくれた彼女から『サークル活動してると先輩から就職や履修やゼミの情報がもらえるし、下宿での寂しさが薄まるからいい人生経験にもなる』と説得された。友人も特に居ないし、良い人と出会うかも知れないと思いながらサークル紹介会場に足を運んだのである。
後で絶対に確認の電話を掛けてくるだろう姉を躱わすなどは敬介にはできない、チラシを貰ってそれを見ながら、『とりあえず行ったが、今思案中』言えばどうにか納得してくれると考えながら人の波に押されて歩く。
文系の自分にはスポーツ系は無理だから、ぼんやりと文化系サークルが並んでいる所を色々見ながら歩く。手には、歩くたびに増える色々なサークルからのチラシが握られていた。
突然、敬介の目の前で皿?を回している人がいた。機械の上には皿が回りながら大きくなっていく。薄く広がって大きくなる皿を真剣な目で作っていく男の姿に目が離せない。敬介は立ち止まって見入っていた、不器用で何を作っても上手くできた事のない敬介にとっては信じられない光景だったからだ。
「ねえぇ、君、陶芸部に入らない?今年、陶芸部の部長をしている安芸島です」
チラシを持った上級生らしき人が突然、笑顔で皿と敬介の間に飛び込んで声を掛けてきた。
「ぼ、僕は不器用だから無理です」
敬介は即答した。
『可愛いいなぁ、可愛い子ゲットしたいなぁ』チラッと安芸島が他の部員を見るとオッケーを出している。
「誰でも初めは大した作品はできないけど、少しずつ上手くできるようになるよ、この大学の陶芸棟は結構本格派で、一般人の教室もやっている。部員なら部費と土の代金位で作れるよ。後は一般の体験教室で作った作品の管理と窯の出し入れ等市の職員の手伝いをしたり、使った釜の掃除や部屋の掃除をすれば、窯の利用料なども安く使えたりする。釜は大きいから市民講座の講習生の釜入れにスペースがあれば一緒に焼いてもらえれば金はかからない。大学からの補助金も出ているし、少し古いけど電気窯も部として持っているんだ、条件良いでしょう」
安芸島は怖がらせないように言うと
「で、でもアレって難しいんですよね」
「ろくろ、ろくろは陶芸部は3台あるけど一般のろくろは開いている時は使い放題だから練習も十分できるからコツがわかれば作れるよ。一般の人に言わせれば時間があるだけ練習できるって、だから、ろくろも2学年位で使えるようになるかなぁ?」
安芸島の説明を聞きながら、敬介は自分がろくろを回しているのを想像して呟く。
「それなら4年生位に成れば僕にでも大丈夫かなぁ?あぁ、ここに法学部の人っているんですか?」
「法学部?それなら俺は法学部だけど、あっ、履修?それは教えてあげる。俺より良く知っている奴を紹介してあげる。君は弁護士希望?」
「僕は、公務員希望しています」
「だったら、俺の連れを紹介してあげる、そいつは軽音だけど、公務員希望だから」
安芸島の答えに、敬介はホッとした。人のよさそうな安芸島の笑顔につられて
「軽音って楽器ですよね。楽器は興味ないから、それじゃ、陶芸部に入っても良いかも」
「それじゃ、入部届なんだけどここに名前と携帯電話番号を書いてくれる?念のために○インを交換しててもいいかな?それだったらいつでも相談に乗れるから」
敬介は、言われるままに名前と携帯電話番号と入部届に書いて、安芸島と○インの交換をしていた。
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