硝子の入れ物

加瀬由人

文字の大きさ
上 下
1 / 1

硝子の入れ物

しおりを挟む




女同士、気兼ねなく楽しめる旅行が
したくなり、仲の良い友達4人を誘い
出掛けた箱根の旅行で私は
素敵な硝子の入れ物と出会った。

それは
旅先の小さな雑貨屋さんで
見つけたカワイイ硝子の小物入れ物で

光が当たるとキラキラと反射するように
装飾されてて、蓋を外すと丁度
鍵が入るようなサイズだった。

特に何を入れるか、決めては
いなかったが、値段の割に
丁寧に作られた硝子の入れ物を
見つけた私は掘り出し物を
探し当てたかのように
気分が高揚した。


割れないように丁寧に包んでもらい、
それを家に持ち帰つた。

それから、数ヶ月が経ち


なんの鍵だからわからなくなった
小さな鍵がガラスの陶器に入ってる。


本当はそこにある筈はなかったのに

いつかちゃんとしまわなきゃと
思いつつも適当な容器が見当たらなくて

つい
そのガラスの陶器に入れてしまった、
用途不明の鍵がそこに居座ってる。

あんなにワクワクしながら、買った
硝子の入れ物が今は鍵を入れるだけの
入れ物になってしまった。

それなのに私は、その鍵が何の鍵なのかをすっかり忘れてしまっている。


色々と鍵に合う鍵穴を
散々探したけど、それに合う鍵穴は
見つからなかった。



私はいつも想像する


きっと、その鍵で
開けた中には貴重なモノが
入ってて

いつか、その鍵の正体がわかり
それがない事に大変な不便を被り
後悔すると


だから、その鍵を
なかなか手放す事ができないのだ


綺麗なアロマストーンを入れて、
お気に入りのキンモクセイの香りの付いたオイルを垂らす事だって、本当はできるのに、、


私はきっと、いつまでも、この役に立つかも、わからない鍵を捨てられずに過ごしてゆく、、





それは嫌だな、、



あの旅行に、出掛ける前に私は
結婚も約束した彼との関係を終わらせた。

別れた理由は
お互いの夢の為なんて、カッコいいモノじゃなくて、敢えていうなら二人して生きるという事に未熟で、必死過ぎて、大切な何かを見失っていたように思える。

とにかく、私は新しい物を取り込まないと、臭気を放ち、腐ってしまいそうだった。

旅行先で見つけた硝子の入れ物は
これからの私に必要なモノを入れる器だった。


いつか、この鍵がない事で後悔するかも知れないけど、私はこの硝子の入れ物から鍵を取り出し、彼の写真と一緒に処分した。


空っぽになった硝子の入れ物が
またキラキラと輝き出した。





















しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...