8 / 11
夏の約束
しおりを挟む夏の空は高く、清々しい青さを湛えていた。大学生の真司と友人たちは、夏休みを利用して山あいのキャンプ場にやって来ていた。彼らにとってこれは、忙しい学期を終えた後の恒例行事だった。
「今年も来れたね!」
友人のハルが声を上げると、他のメンバーも笑顔で応えた。真司は特に心からの笑みを浮かべていた。キャンプは彼にとって、ただの楽しい時間以上の意味を持っていた。それは、亡き父との大切な思い出だったからだ。
彼らの設営したテントの周囲には、既に多くのキャンパーが自分たちのスペースを構えていた。子供たちの歓声、焚き火の匂い、そしてどこかで聞こえるアコースティックギターの音。それら全てが、夏の訪れを告げていた。
「真司、今年は何を担当する?」
「うん、僕は焚き火だね。父さんが教えてくれた通りにね。」
真司は薪を丁寧に組み立てていく。その手際の良さは、毎年の経験が生み出したものだ。他の友人たちは食材を準備したり、周囲の景色を写真に収めたりしていた。
夜になると、彼らは焚き火を囲みながら、持ち寄った食材でバーベキューを楽しんだ。肉や野菜が焼ける音、香ばしい匂いが夜空に広がる。
「真司、この焚き火、毎年上手くなってるよな。」
「父さんがいつも言ってたんだ。火を大切にする心が、人を温めるんだって。」
その言葉を聞いて、友人たちはしばし無言になった。真司の父は、このキャンプグループの大切な一員でもあったからだ。
話は次第に昔のキャンプの思い出話へと移っていった。彼らは父との思い出を語りながら、涙を流すことも笑うこともあった。
「ねえ、真司。また来年もこうしてみんなで来ようね。」
「うん、約束だ。」
キャンプの最終日、真司は一人、朝早くに湖畔に立った。水面に映る朝日が、彼の心を穏やかにしていく。彼は小さな紙ボートを湖に流した。それは父へのメッセージが書かれたものだった。
「父さん、また来年も僕たちはここに来るよ。あなたの教えを胸に、ずっとね。」
紙ボートはゆっくりと湖を渡り、やがて見えなくなる。その後ろ姿を眺めながら、真司は深く息を吸い込んだ。新しい夏が、彼にとって新たな始まりを告げていた。
キャンプを終えて帰路につく車の中で、友人たちは次の夏の計画をすでに話し始めていた。彼らにとって、この年間の一回の集まりが、一年を生き抜く力となっていた。
「真司、来年はどんな焚き火を見せてくれるの?」
「もっともっと上手くなるさ。約束だから。」
笑顔でそう答える真司の目には、決意と父への深い愛が宿っていた。夏の終わりが近づいていたが、彼の心には終わりのない約束が刻まれている。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる