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第四章(最終章)

第70話 前夜祭

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 その後、俺と彩月は新藤君と合流して作戦本部が置かれる城の空中庭園に来ていた。庭園にあった花壇は片付けられ約20m四方の空間となっていた。特異暗黒粒子の濃度が上がり世界は暗闇に近づいている。

「凄い」

 彩月が感嘆の声を漏らす。
 王都ラインハイネの道という道に多くの人が見える。そして王都を取り囲む塀の外にはランタンや松明を持つ10万を越える人々がいた。

「此れは……」

 新藤君も固唾を飲む……。

「どうじゃ?ハイレベル魔法使いは6万とは言わず10万は集まっておる」

 俺達が振り向くと其処には国王様、アルフィーナ、大将軍、宰相様、メイアさんがいた。

「国王様、此れは?」

 新藤君が国王様に尋ねた。

「世界全ての国がこの星の危機に立ち上がり、協力し、このラインハイネに集まったのじゃ」

 国王様の言に大将軍が続く。

「友好関係な国、そうではない国、国交もない国、見知らぬ部族、名も無き部族、エルフ族やドワーフ族等の亜人族が協力して魔法使いをこの地に集めた」

 宰相様が続いて話す。

「魔法使いを運ぶある国のグリフォン隊が疲れ果てれば、其れをある国のワイバーン隊が手助けをし、ワイバーン隊が疲れ果てれば、ある国のヒポグリフ隊が其れを助ける。そうして10万を超える魔法使いが集まることが出来た」

「トイレの数は足りなくなってしまったがの~。ガハハハ~」

 最後は国王様が豪快に笑った。

「国王様……」

 俺は目頭が熱くなってきた。流石の新藤君も瞳が潤んでいる。

「今、その国王達が大広間に一同に介しておる。世界大指揮官のライト男爵から労いの言葉を掛けてくれんかの~」
「そんな、世界大指揮官だなんて…」

 大将軍が俺の肩に手を回した。

「い~や。お前は世界大指揮官だ。お前の元に世界中の人が集まったんだ」

 俺は照れながら言った。

「分かりました。正装に着替えたのち大広間にて感謝の気持ちを伝えたいと思います」

 俺は腕時計を見て時間を確認した。

「未だに正装の着替えには手こずっています。1時間後に大広間に参ります。メイアさん、着替えを手伝ってくれ」

 俺は正装に着替える為に一旦自室に戻った。



 自室で正装への着替えを始める。鏡台に座りメイアさんに髪の毛を梳かしてもらっていた。

「俺が世界大指揮官とかって笑っちゃうよね」
「いえ。ライト様の器は世界の器です」
「止めてよメイアさん。男爵閣下って呼ばれるのも恥ずかしいんだから」

「ライト様はアルフィーナ様とご結婚されれば公爵様と呼ばれる様になります」
「う~。恥ずかしいな~」
「ライト様は公爵様と呼ばれるに相応しい立派なお方です。この戦の後には世界大公爵の称号が与えられてもおかしくありません」

「あはは。何その世界大公爵って(笑)」
「其れ程にご立派なお方という事です」
「ありがとうメイアさん。メイアさんが俺を拾ってくれなかったら、こんな幸せな出来事には巡り逢えなかった。
 確かに世界は危機的状況だけどメイアさん始めみんなが俺を支えてくれる。明るく楽しい未来が待っている。俺とメイアさんの結婚生活も待ってるからね(笑顔)」

 背中にいるメイアさんが俺の肩に顔を埋める。………。泣いている。

「私は幼い頃から立派なメイドに成るよう教育されて来ました。それに必要だったものは鉄の意思、鋼の心。感情に流されず主君の為に尽くす事だけを考え生きて参りました。涙も棄て、乙女の心も棄て……。しかしライト様と出会い私は……」
「メイアさん……」

 俺は肩に凭れるメイアさんを気にかけながらそっと立ち上がった。

「ライト様……」

 瞳に涙を溜めているメイアさんに口づけをする。メイアさんの暖かい涙の雫が俺の頬を濡らす。メイアさんの暖かい心が伝わってくる。

「いいのでしょうか?……私はライト様と幸せになってもいいのでしょうか……」
「当たり前だろ(微笑み)。俺はメイアさんの事が好きだ。優しくて、俺を支えてくれて、綺麗で、たまに見せる可愛い仕草とか、全部好きだよ(微笑み)」

 メイアさんは俺の体に身を寄せ胸に顔を埋める。

「私もライト様の事をお慕い申し上げます」

 俺達はもう一度唇をそっと重ねた。



 大広間の入り口には彩月、新藤君、如月君、、岡本さん、高山さんが待っていてくれた。国王様やアルフィーナ達は既に中で挨拶回りをしている。

 扉を開け中に入ると一同が此方を向く。俺達は軽く会釈をし壇上に上がる。

「世界各国各地の代表者の皆様!この度は私共ナイトバロンの作戦にご協力頂きありがとうございます」

 俺達は深く頭を下げた。

「私はナイトバロン代表のライト・サクライです。
 現在この地球は過去に無い危機的状況にあります。星々の世界から来た暗黒の雲は今やこの世界を覆い、漆黒の闇に閉ざそうとしています。

 後3日でこの星は砕け散るでしょう。しかし私達ナイトバロンはこの闇を払い光を取り戻す作戦、オペレーション ファイヤーパーティーを計画しました。

 しかし闇の元凶である本星を砕く力は私達には有りませんでした。世界中の協力が必要でした。
 皆様が国境を越え、怨恨を越え、互いに協力しあい、こんなにも多くの力を揃えてくれました。
 今世界は一つになっています。だからこそ私達はこのオペレーション ファイヤーパーティーを絶対に成功させてみせます!」

 歓声が、拍手がこの会場を埋め尽くした。そして王都の街の中と外でも歓声が上がる。映像:高山さんにより各所に急遽設置したオーロラスクリーンにリアルタイム放送が届けられていた。

「其れではこの作戦について作戦参謀の新藤から説明します」

「作戦参謀の新藤です。現在暗黒の雲は地球に到達し、此れを産み出している本星は約9000万キロの遥か彼方に位置しています。私達はこの星を明日の朝、約7000万キロの位置で破壊作戦を実行します。

 作戦は3つのミッションに別れています。
 ファーストミッションとセカンドミッションはこの地から転移魔法陣を展開し本星を内部から破壊します。
 本星の北極点と南極点には内部で生成される特異暗黒粒子を吐き出す穴が有ります。セカンドミッションでは北極点の穴に魔法を打ち込みます。

 ではミッションの詳細をお話しします。
 ファーストミッション『ファロスの光』はナイトウイングス隊員で構成された玉屋班とライトハウス ヘリオスとイカロスの2塔による作戦行動です。
 御存知の方もいらっしゃると思いますが、闇の雲はアルフィーナ王女殿下の『灯火』の光以外では消し去る事は出来ません。

 ヘリオス及びイカロスの先端に設置した灯籠には『灯火』の光が灯されています。
 ヘリオスは打ち上げ後に転移魔法陣より本星の北極点より内部に突入します。突入したヘリオスは内部の特異暗黒粒子を消滅させながら進みコア迄の道を作ります。

 一方イカロスは北極点上空に転移しますが逆方向の暗黒雲に進みます。
 本星が爆発した時のエネルギーは莫大です。しかし周囲はエネルギーを通さない特異暗黒粒子に囲まれている為、その爆発エネルギーは暗黒雲内部に留まります。

 仮に対策無しでこの雲を取り除いた場合、解放された爆発エネルギーは地球に多大なダメージを与えます。ガンマ線バースト等が発生していた場合、地球は一瞬で死の星となります。
 その為にイカロスは暗黒雲に爆発エネルギーが解放される道を作ります。向かう先は地球を含む太陽系の星に影響が出ない方向です」

 多くの人が???の顔をしている。宇宙空間の概念が無いのだからそうなるよね(苦笑)。俺だってガンマ線バーストって何?と突っ込みたくなり。

「続いてセカンドミッション『スターマイン』の説明をします。この作戦は私と世界各地からお集まり頂いた魔法使いの皆様からなる鍵屋隊が担当します。
 私の号令で上空に展開した転移魔法陣に射撃系魔法を一斉に放って下さい。転移魔法陣にはナイトウイングス隊員20名による魔力強化を付与します。魔法強化された魔法使い皆様の魔法が本星のコアを破壊します」

 城外から歓声が轟いた。

「そして最後にライト・サクライ男爵直属の天空の光隊によるミッション『天空の灯火』によって全ての特異暗黒粒子を一掃し世界に光を取り戻します」

 会場、街中、塀の外で大歓声が上がった。今、人々の心に希望の『灯火』の光が灯された。

 新藤君に変わり俺が壇上の前に出る。

「このオペレーション ファイヤーパーティーはこの世界の全ての人々、全ての生き物の未来を掛けた作戦です。オペレーションの開宴時間は明朝8時。絶対に成功させる事を此処に誓います。
 作戦に参加する皆さん、この作戦を見守る皆さん、そして全世界の皆さん!この世界の明るい未来を信じて下さい!この世界を愛して下さい!皆さんの願いがこの作戦の大きな力になります!宜しくお願いします!」

 俺達は深々と頭を下げた。割れんばかりの拍手が王都を埋め尽くした。

「また、王都にお集まり頂いた皆様にエルバート国王ならびに王都住民、王都近隣の街の方々より細やかですがお食事、お酒等の用意をしております。明日の英気を養う程度ではございますが楽しんで下さい。
 またこの場を借りて謝罪したい件がございます。此方で用意した宿営設備と…トイレの数が足りなくなってしまいました。ご迷惑をおかけします」

 会場では和やかな雰囲気で挨拶を終えることが出来た。城外ではトイレの話しで笑いもあり、其の後に待つ細やかな宴に期待が広がっていた。

 俺達はこの時、気が付かなかった。まさかトイレのティッシュが外国の女性達の間で大フィーバーし、お土産を持たせる為に(女子に奪われたチケットを取り戻す為に)楠木君が何日も徹夜でティッシュを作る日々が待っていたことを……。

 会場では世界各国の代表が一同に介している。流石に慎ましい料理とはいかない。豪華な食事と美酒が用意され華やかなパーティーが催された。
 俺はアルフィーナを連れ各国の代表者に挨拶をして回る。何度もヘッドハンティングされそうになるが旨く切り抜けていった。そして俺は衝撃的な人物とまみえる事となった。

「初めましてライト・サクライ男爵。私はハイエルフ族族長代理で本作戦の助力に参りました族長の娘レステアミスルと申します。此度の件に起きましては我が神より神託が有り馳せ参じました」

 耳は長く見た目は15,6の少女であるが絶世の美少女と言っていい可愛い容姿をしている。

「は、初めましてハイエルフ族の王女殿下。ご助力頂けることに誠に感謝致します。…神の神託と仰いましたが……」
「ふふ、あんなに慌てていた神の神託は初めてでした」
「あは、でしょうね。此度の件は神々は後手を引いていると思っていました」

 レステアミスル姫は少し驚いた顔をしている。

「誠に神々の神であるガイア様の使徒なのですね(微笑み)」
「ガイアの使徒かは分かりませんが、あんにゃろうに会うことが出来たら一発噛ましたい相手ですね(笑顔)」

 俺は軽くシャドーボクシングをした。

「ガイア様が何か粗相を?」
「短絡的過ぎですよ。俺達を呼んで核ミサイルを使わせようなんて。其こそ貴女方の存在する意味冴えも否定している」

「私達の存在意味ですか?」
「人類はかつて科学の力で世界の生き物を巻き込む破滅の道を進んだ。其の後に作られた世界に於いて人類が道を違えぬよう監視する者として神々が長寿である貴女方に使命を与えたのではないのですか?」

「凄いですね(笑顔)。其の事は私達王族でも限られた者しか知らない事柄です。お噂通り丸っと全てお見通しなのですね(微笑み)」
「だからこそですよ。もしガイアに会うことがあれば一発ぶん殴ってやろうかと(笑顔)」

「だ、そうですが?」

 レステアミスル姫の背中に隠れてモジモジしている女の子がいる。さっきからずっと気になっていた。彼女が纏うのは此方世界に来て初めて見る金色のオーラだ。何だ?金色って?

 女の子はレステアミスル姫の背中から顔を出す。年の頃は俺と同じくらいの美少女だった。彼女はウルウルした涙目で俺に言った。

「殴るのですか?(涙目)」

 はい?

「やっぱり殴るですのか?(涙目)」

 はい?

「あの~、此方の方は?」

 俺はレステアミスル王女に聞いてみる。

「ガイア様です」

 はひ?何でそんな神様の神様がいちゃったりするの?

「ライト。お主には感謝しています。私の世界を救ってくれる、私の未来に希望をくれる。だ、だからい、一発ぐらいなら………」

 うわ~、神様の神様を怒突くとか有り得ないでしょ~(汗)。違う方の一発ならウェルカム~とか?

「違う方の一発ならウェルカムなのですか?ら、ライトは私の命の恩人に成るのだから、わ、私の操を、さ、差し出しても……(モジモジ)」

 あが~(汗)。
 心読まれてます(汗)。
 流石神様の神様です(汗)。

 そんな俺をアルフィーナとレステアミスル姫が冷めたジト目で睨み付けるよ(涙)

「ゴホン」

 俺は片膝をつきガイア様に頭を垂れる。

「ガイア様。私を、私達2年3組全員の命をあの世界から救って頂き感謝致しております。ありがとうございました」
「い、いや、私は私の命を守る為にお主達を呼んだのですから……」

「そうかもしれません。しかし私達は生きています。あの終焉で亡くなった家族達の最後の希望として私達はこの世界で生きています」
「そうですか。ではもう怒ってはいらっしゃらないのですね(ニコ)」

 ん~。其れと凝れとは別だな~。やはり核をこの世界に持ち込もうとした事には憤りが残るが……。

「………。そうでしたね。私が軽率でした。あの世界の様にこの世界が滅びの道を歩む芽を残してしまう。すみませんでした」

 ガイア様が頭を下げた。

「が、ガイア様。頭を上げて下さい。俺達は核を作らない。クラス全員で誓いました。そして宇宙の暗黒は必ず壊す。この世界を、貴女を、俺達の平和な日々を、未来に生きる子供達の笑顔を必ず守ってみせます」
「あ、ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます」

 ガイア様は俺の手を握り何度も言った。

「私にもお手伝い出来る事は何か有りますか?」
「もし可能でしたら本日と明日のこの地方の天気は晴れでお願いします(笑)」
「分かりました。雨雲も強風も私の力で追い払ってみせます!」

 俺達のやり取りを見ていた周りの人々が少しざわめき出してきた。

「ガイア様。そろそろ私達はおいとま致しましょう」

 それに気が付いたレステアミスル姫がガイア様に声をかける。

「分かりました。其れではライトよろしくお願いいたします。え、えと、お礼の方は日を改めて伺います(ポッ)」

「あ、いえ、お礼などは……」
「いえいえ、後日ご寝所の方へ伺わせて頂きます。其れではまた(ポッ)」

 ガイア様は手を振り去っていく。

 はい?この神様の神様は何言っちゃてるの?

 去りゆくレステアミスル姫がジト目で俺を見ている。
 そして………鬼の殺気が俺の隣でメラメラ燃えている……よ?はわわわわ(涙)
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