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第三章
第47話 帝国に行くの?
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「サツキサン。帝国の様子はその後どんな感じ?」
皇帝の葬儀も終わり、帝国内は次期皇帝を巡る御家騒動で大分バタバタしている。第1帝位継承権を持つ皇太子は3日前に謎の死を遂げた。同様に第2皇子、第1皇姫、第3皇子、更には第1皇后、第2皇后迄もが死を遂げている。言わずもがなの暗殺戦争が繰り広げられていたのだ。
そんな折、一羽の速鳥が帝国より一通の手紙をくわえ俺の元に飛んで来た。差出人はマドラキア帝国第2皇姫カトレア。先に死亡した第2皇后の長女で、やはり死亡した第3皇子を兄に持つ彼女は、どういった経緯で俺の事を知ったのかは不明だが俺に救済を求めて来たのだ。
マドラキア帝国の帝位継承権は男女問わず長子先継のようだ。異母兄姉や実兄が暗殺された今、カトレア姫は帝位継承権1位になっている。既に母親も殺害されている現状に於いて彼女が暗殺されるのも時間の問題といえる。
「メイアさん、カトレア姫の人となりはどんな感じか知ってる?」
俺はノワールの塔の執務室でメイアさんと新藤君を呼び寄せ、カトレア姫からの要請について相談をしていた。
「カトレア姫は穏やかな性格で争い事を嫌い、花や詩を愛でると聞き及んでいます」
いわゆる文学系少女って感じかな?
「手紙では亡命を希望しているけど、流石に此れは厳しいよね」
俺はカトレア姫からの手紙を机の上に置く。因みに此の国の文字は大分読み書き出来る様になった。カトレア姫は気を使ってラグナドラグーンの文字で手紙を書いてくれていたので、俺でも読む事が出来た。
「だな。マドラキア帝国の皇姫の亡命に手を貸したとなれば、次期皇帝に大義名分を与えかねない。お隣のエジアナは帝国寄りだ。皇姫奪還等と称してエジアナが攻めいってくる可能性も有る」
新藤君もヤバいと進言してくれた。
「では、カトレア姫からの要請は座視致しますか?」
「其れも忍びないよね。マドラキア帝国内で遠方に逃がしてあげる事ぐらいなら問題無いと思うんだけど、どうかな?」
俺の提案に二人は同意してくれた。
「サツキサン、カトレア姫の様子を見てみよう」
「イエス、マスター」
「ワールドビジョン!」
マドラキア帝国の帝都オルマルクは、現世で言うところのロシア連邦の真ん中辺りにあるタタールスタン共和国の首都カザン辺りに位置している。時差にして約2時間有り、ラグナドラグーンはまだ3時だが、オルマルクは夕方5時となる。
その部屋は日暮れを間近に控え、明かりの灯火も無く薄暗かった。
窓際に有る肘掛け椅子に座り窓の外を見ている少女、カトレア姫。
第2皇后の館だけありかなり広い。帝位継承権1位に上がってしまった少女に待つのは暗殺者だけなのだろう。使用人達は遠ざけられたのか、自ら去ったのかは不明だが、建物内にはカトレア姫を含めても4人しかいなかった。
「屋敷には怪しい奴もいないようだし、行ってみようと思う」
「オルマルク迄はかなり遠いが行けるのか?」
ラインハイネからオルマルク迄はおよそ2500キロ。今迄に無い超距離のテレポートになる。
「岡本さんに手伝って貰うよ」
岡本さんのスキルは【魔力補助】。魔力補給専門で魔力量は裏メイド隊30名の其れよりも多い。しかし岡本さんは一切の魔法が使えない。新藤君は「使えなくさせられているんじゃないか」と何者かの関与を疑っている。
「護衛は如何致しますか?」
「行くのは俺、彩月、岡本さん、護衛にメイアさん、葵さん、アイシャさんでどうかな?」
「アイシャは今朝から生理痛で体調が万全ではありません」
「あらま(苦笑い)。それじゃ誰がいいかな?」
「カーシャで宜しいでしょうか」
「お願いするよ」
其の1時間後、俺達はマドラキア帝国の帝都にあるカトレア姫の元へ超距離移動をする。
◆
「大丈夫、岡本さん?」
俺は魔力消費した岡本さんに声をかけた。
「全然平気だよ」
「ありがとう岡本さん。凄く楽に跳べたよ」
俺達はカトレア姫の邸宅の裏手に跳んできた。辺りは既に暗闇に閉ざされている。俺の索敵で周囲を警戒するが特に問題は無い。
「如何にして中に入りますか?」
「多分だけど、中の人達はカトレア姫が俺に手紙を宛てた事は知っているはずだ。だから素直に玄関から行こうと思う」
館の周辺も索敵したが見張られている様子も無い。変に館内に潜入するよりも表玄関からの方が印象も良いだろう。
◆
俺が扉を叩くとしばらくして年老いた執事が顔を出した。
「私はラグナドラグーンのライト・サクライと申します。先ほどカトレア皇姫様よりお手紙を頂きました。皇姫様にお目通りは叶いますか?」
白髭を蓄えた老執事は目を大きく見開き、そりゃあもうビックリって顔で俺を見ているよ?
「さ、サクライ閣下であられますか?」
「はい(ニコ)」
「け、今朝に速鳥に手紙を持たせたのですが……」
「はい。先ほどお手紙を受け取り、此方の状況を確認しましたところ、一刻も早い方が良いかと思い、夜に差し掛かる時間ではありますが、ご訪問させて頂きました」
「…………。お噂通りの疾風迅雷……。ささ、どうぞ中へとお入り下さい」
老執事は俺を疑う事無く中へと通してくれた。彼のオーラは薄いピンク。信用して大丈夫だ。
俺達は応接室へと通された。豪華な造りの部屋だが、窓には光が漏れない様に雨戸以外にも木を打ち付けてある。僅かばかりの暗殺対策であろう。
老執事がお茶を持って来たタイミングでカトレア姫も応接室へと入って来た。
綺麗な長い銀髪を頭の上で結ってあり、白い肌に大きな青い瞳、清楚なお姫様感を漂わせている。
「遠ぉいところ~、出向いて頂き~まして~、ありがとおぅございますぅ~」
カトレア姫はゆっくり口調で、ゆっく~りとお辞儀した。
うん。皇帝になっちゃダメな子かも?
俺達は席から立ち上がりカトレア姫にお辞儀をした。
「私はラグナドラグーンのライト・サクライ。他の者は私の護衛です」
正確には彩月と岡本さんは護衛ではないが、特に説明する必要は無いだろう。
カトレア姫と俺達は着席した。テーブルの上には老執事がお茶とお茶菓子を並べ始める。
「早速ですが、お手紙にありました亡命の件ですが、お請けする事は出来ません」
「そうですか~(ニコ)」
待て待て、其処はニコじゃないよね?
俺はピンクのオーラで微笑んでいるカトレア姫をまじまじと見てしまった。何故にニコなの?
「ほ~ら爺~~、私の言った通ぉりではないですかぁ~」
老執事は頭を下げた。しかし彼のオーラが薄いピンクである事は、俺達に対する期待がある証拠だ。断るだけなら此処に来る必要は無い。彼は其れが分かっていた。
やっぱり釣られたかな?
俺は老執事に質問をした。
「帝国が何故私の事を知っているのですか?」
「サクライ閣下は此方でも有名なお方です。アルフィーナ王女殿下の誘拐救出から始まり、魔人国侵攻阻止、魔人国の大地震での救援活動等は此方の耳にも届いておりました。
神の目を持つサクライ閣下ならば帝国の状況も丸ッと全てお見通しとお見受け致しますが」
老執事の言う『此方』とは帝国の諜報機関の事だろう。
「爺は昔ぃ~、諜報機関の長官を~、してたんですよぉ」
「はい、知り合いからナイトウイングスがとんでもない事になっていると伺っておりました。私が長官を務めていた頃も先代の隊長には大分してやられていましたが(笑)」
先代隊長って事はナタリアさんの事だね(苦笑い)。
「ご説明ありがとうございます。では此方からのご提案ですが、カトレア皇姫様を帝国内の遠方へとお連れするというのは如何でしょうか?」
「……可能なのですか?帝都オルマルクから抜け出すにはいささか監視の目が厳しい状況ですが……」
「ブラックオニキスですか?」
「其処までご存知でしたか」
マドラキア帝国はイルフィニス女神を祀る聖イルフィニス教会が大きな力を持っている。現状で第3帝位継承権を持つルバルト皇子の後見人に大司教ガランとなっていた。そして暗殺集団ブラックオニキス【黒き爪】は聖イルフィニス教会の暗部である。
俺とサツキサンの調査で第4皇后のクリネアは2年程前から大司教ガランと関係を持っていた事が分かった。詰まる所、皇帝の急死から皇太子達の死亡含め第4皇后と大司教のシナリオの可能性がかなり高い。
現状での第1継承権を持つカトレア姫、第2継承権を持つカリス皇子を排除出来れば、第3継承権のルバルト皇子が皇帝となる。
正統な継承権を持つカトレア姫が仮に皇帝に名乗り上げても、後ろだてが無い彼女を潰す事は容易い。一方第2継承権のカリス皇子には後見人にデリアンデス元帥が付き軍部が背後にいる。第4継承権以下の皇子皇姫はほぼ継承権を放棄状態にあり、実質的にはカリス皇子とルバルト皇子の対立図と言えた。
「ブラックオニキスの行動は此方の監視下に有ります。帝都を抜け出す程度で有れば問題ありませんよ」
帝都に来る前にカリス皇子陣営とルバルト皇子陣営の要人はサツキサンがマークしてある。其の中にはブラックオニキスのメンバーも含まれていた。
「……神の目とは何処まで見渡しているのですか?(冷汗)」
老執事は俺の目をじっと見て唾を飲み込む。
「其れはナイショです(ニコ)」
「姫様、サクライ閣下の申し出をお請け致しましょう。帝都から離れれば姫様のお命を狙う者もいなくなります」
老執事がカトレア姫に進言する。俺とメイアさんは分かっていた。手紙を出す様に進言し、亡命をさせようとしたのは老執事だ。しかしカトレア姫には違う狙いがある。だからカトレア姫が口にする言葉は……。
「爺ぃ~、私は帝都を離れませんよぉ~」
だよね~~~(苦笑)。
俺達は帝国に来る前にカトレア姫についても調査をしていた。
現帝位継承権1位の彼女に何故後見人がいないのか。
兄である第3皇子の後見人には軍部第2大隊の将軍一派がついていたが、皇子が暗殺された事により、軍部は一丸となり現帝位継承権第2位のカリス皇子についている。
現状で暗殺対象のナンバー1である彼女に軍部が付く事を嫌った。仮に彼女が暗殺された場合に、軍部が三度鞍替えをする事を嫌ったのだ。
また、神輿を決めていない宰相一派が彼女に付いたとしても暗殺者から彼女を守る力は宰相一派には無い。其のため宰相一派は現状では様子見を決め込んでいる。
しかし、カトレア姫は後見人がいない事が幸いして、今のところ暗殺されていないとも言えた。
他にも色々調べたが、特に目を引いたのは彼女のメモ帳だ。其の中に帝国の国政や外交、南方での武力侵攻等を俯瞰的な視点での状況分析と自分ならこうする等のコメントを書き留めていた。
武力侵攻に於いては作戦を止め、其の資金を肥沃な土地を持つ地方に割り当て、国内での農作物生産量の向上について記されていた。俺的には好感出来る政策案だ。
とまぁ色々と調べてみたものの、流石に「ですぅ~」少女迄は調べきれ無かったね……(苦笑い)。
「私ぃは~、帝都ぉを~、離れませんよぉ~」
「しかし、其れでは姫様の身に危険が……」
「大ぁぃ丈ぉ夫ぅですよぉ~。大司教様にぃ、お手紙ぃを出す事にぃしましたぁ」
「手紙ですか?」
俺もカトレア姫に確認してしまった。
「はいぃ~(ニコ)」
皇帝の葬儀も終わり、帝国内は次期皇帝を巡る御家騒動で大分バタバタしている。第1帝位継承権を持つ皇太子は3日前に謎の死を遂げた。同様に第2皇子、第1皇姫、第3皇子、更には第1皇后、第2皇后迄もが死を遂げている。言わずもがなの暗殺戦争が繰り広げられていたのだ。
そんな折、一羽の速鳥が帝国より一通の手紙をくわえ俺の元に飛んで来た。差出人はマドラキア帝国第2皇姫カトレア。先に死亡した第2皇后の長女で、やはり死亡した第3皇子を兄に持つ彼女は、どういった経緯で俺の事を知ったのかは不明だが俺に救済を求めて来たのだ。
マドラキア帝国の帝位継承権は男女問わず長子先継のようだ。異母兄姉や実兄が暗殺された今、カトレア姫は帝位継承権1位になっている。既に母親も殺害されている現状に於いて彼女が暗殺されるのも時間の問題といえる。
「メイアさん、カトレア姫の人となりはどんな感じか知ってる?」
俺はノワールの塔の執務室でメイアさんと新藤君を呼び寄せ、カトレア姫からの要請について相談をしていた。
「カトレア姫は穏やかな性格で争い事を嫌い、花や詩を愛でると聞き及んでいます」
いわゆる文学系少女って感じかな?
「手紙では亡命を希望しているけど、流石に此れは厳しいよね」
俺はカトレア姫からの手紙を机の上に置く。因みに此の国の文字は大分読み書き出来る様になった。カトレア姫は気を使ってラグナドラグーンの文字で手紙を書いてくれていたので、俺でも読む事が出来た。
「だな。マドラキア帝国の皇姫の亡命に手を貸したとなれば、次期皇帝に大義名分を与えかねない。お隣のエジアナは帝国寄りだ。皇姫奪還等と称してエジアナが攻めいってくる可能性も有る」
新藤君もヤバいと進言してくれた。
「では、カトレア姫からの要請は座視致しますか?」
「其れも忍びないよね。マドラキア帝国内で遠方に逃がしてあげる事ぐらいなら問題無いと思うんだけど、どうかな?」
俺の提案に二人は同意してくれた。
「サツキサン、カトレア姫の様子を見てみよう」
「イエス、マスター」
「ワールドビジョン!」
マドラキア帝国の帝都オルマルクは、現世で言うところのロシア連邦の真ん中辺りにあるタタールスタン共和国の首都カザン辺りに位置している。時差にして約2時間有り、ラグナドラグーンはまだ3時だが、オルマルクは夕方5時となる。
その部屋は日暮れを間近に控え、明かりの灯火も無く薄暗かった。
窓際に有る肘掛け椅子に座り窓の外を見ている少女、カトレア姫。
第2皇后の館だけありかなり広い。帝位継承権1位に上がってしまった少女に待つのは暗殺者だけなのだろう。使用人達は遠ざけられたのか、自ら去ったのかは不明だが、建物内にはカトレア姫を含めても4人しかいなかった。
「屋敷には怪しい奴もいないようだし、行ってみようと思う」
「オルマルク迄はかなり遠いが行けるのか?」
ラインハイネからオルマルク迄はおよそ2500キロ。今迄に無い超距離のテレポートになる。
「岡本さんに手伝って貰うよ」
岡本さんのスキルは【魔力補助】。魔力補給専門で魔力量は裏メイド隊30名の其れよりも多い。しかし岡本さんは一切の魔法が使えない。新藤君は「使えなくさせられているんじゃないか」と何者かの関与を疑っている。
「護衛は如何致しますか?」
「行くのは俺、彩月、岡本さん、護衛にメイアさん、葵さん、アイシャさんでどうかな?」
「アイシャは今朝から生理痛で体調が万全ではありません」
「あらま(苦笑い)。それじゃ誰がいいかな?」
「カーシャで宜しいでしょうか」
「お願いするよ」
其の1時間後、俺達はマドラキア帝国の帝都にあるカトレア姫の元へ超距離移動をする。
◆
「大丈夫、岡本さん?」
俺は魔力消費した岡本さんに声をかけた。
「全然平気だよ」
「ありがとう岡本さん。凄く楽に跳べたよ」
俺達はカトレア姫の邸宅の裏手に跳んできた。辺りは既に暗闇に閉ざされている。俺の索敵で周囲を警戒するが特に問題は無い。
「如何にして中に入りますか?」
「多分だけど、中の人達はカトレア姫が俺に手紙を宛てた事は知っているはずだ。だから素直に玄関から行こうと思う」
館の周辺も索敵したが見張られている様子も無い。変に館内に潜入するよりも表玄関からの方が印象も良いだろう。
◆
俺が扉を叩くとしばらくして年老いた執事が顔を出した。
「私はラグナドラグーンのライト・サクライと申します。先ほどカトレア皇姫様よりお手紙を頂きました。皇姫様にお目通りは叶いますか?」
白髭を蓄えた老執事は目を大きく見開き、そりゃあもうビックリって顔で俺を見ているよ?
「さ、サクライ閣下であられますか?」
「はい(ニコ)」
「け、今朝に速鳥に手紙を持たせたのですが……」
「はい。先ほどお手紙を受け取り、此方の状況を確認しましたところ、一刻も早い方が良いかと思い、夜に差し掛かる時間ではありますが、ご訪問させて頂きました」
「…………。お噂通りの疾風迅雷……。ささ、どうぞ中へとお入り下さい」
老執事は俺を疑う事無く中へと通してくれた。彼のオーラは薄いピンク。信用して大丈夫だ。
俺達は応接室へと通された。豪華な造りの部屋だが、窓には光が漏れない様に雨戸以外にも木を打ち付けてある。僅かばかりの暗殺対策であろう。
老執事がお茶を持って来たタイミングでカトレア姫も応接室へと入って来た。
綺麗な長い銀髪を頭の上で結ってあり、白い肌に大きな青い瞳、清楚なお姫様感を漂わせている。
「遠ぉいところ~、出向いて頂き~まして~、ありがとおぅございますぅ~」
カトレア姫はゆっくり口調で、ゆっく~りとお辞儀した。
うん。皇帝になっちゃダメな子かも?
俺達は席から立ち上がりカトレア姫にお辞儀をした。
「私はラグナドラグーンのライト・サクライ。他の者は私の護衛です」
正確には彩月と岡本さんは護衛ではないが、特に説明する必要は無いだろう。
カトレア姫と俺達は着席した。テーブルの上には老執事がお茶とお茶菓子を並べ始める。
「早速ですが、お手紙にありました亡命の件ですが、お請けする事は出来ません」
「そうですか~(ニコ)」
待て待て、其処はニコじゃないよね?
俺はピンクのオーラで微笑んでいるカトレア姫をまじまじと見てしまった。何故にニコなの?
「ほ~ら爺~~、私の言った通ぉりではないですかぁ~」
老執事は頭を下げた。しかし彼のオーラが薄いピンクである事は、俺達に対する期待がある証拠だ。断るだけなら此処に来る必要は無い。彼は其れが分かっていた。
やっぱり釣られたかな?
俺は老執事に質問をした。
「帝国が何故私の事を知っているのですか?」
「サクライ閣下は此方でも有名なお方です。アルフィーナ王女殿下の誘拐救出から始まり、魔人国侵攻阻止、魔人国の大地震での救援活動等は此方の耳にも届いておりました。
神の目を持つサクライ閣下ならば帝国の状況も丸ッと全てお見通しとお見受け致しますが」
老執事の言う『此方』とは帝国の諜報機関の事だろう。
「爺は昔ぃ~、諜報機関の長官を~、してたんですよぉ」
「はい、知り合いからナイトウイングスがとんでもない事になっていると伺っておりました。私が長官を務めていた頃も先代の隊長には大分してやられていましたが(笑)」
先代隊長って事はナタリアさんの事だね(苦笑い)。
「ご説明ありがとうございます。では此方からのご提案ですが、カトレア皇姫様を帝国内の遠方へとお連れするというのは如何でしょうか?」
「……可能なのですか?帝都オルマルクから抜け出すにはいささか監視の目が厳しい状況ですが……」
「ブラックオニキスですか?」
「其処までご存知でしたか」
マドラキア帝国はイルフィニス女神を祀る聖イルフィニス教会が大きな力を持っている。現状で第3帝位継承権を持つルバルト皇子の後見人に大司教ガランとなっていた。そして暗殺集団ブラックオニキス【黒き爪】は聖イルフィニス教会の暗部である。
俺とサツキサンの調査で第4皇后のクリネアは2年程前から大司教ガランと関係を持っていた事が分かった。詰まる所、皇帝の急死から皇太子達の死亡含め第4皇后と大司教のシナリオの可能性がかなり高い。
現状での第1継承権を持つカトレア姫、第2継承権を持つカリス皇子を排除出来れば、第3継承権のルバルト皇子が皇帝となる。
正統な継承権を持つカトレア姫が仮に皇帝に名乗り上げても、後ろだてが無い彼女を潰す事は容易い。一方第2継承権のカリス皇子には後見人にデリアンデス元帥が付き軍部が背後にいる。第4継承権以下の皇子皇姫はほぼ継承権を放棄状態にあり、実質的にはカリス皇子とルバルト皇子の対立図と言えた。
「ブラックオニキスの行動は此方の監視下に有ります。帝都を抜け出す程度で有れば問題ありませんよ」
帝都に来る前にカリス皇子陣営とルバルト皇子陣営の要人はサツキサンがマークしてある。其の中にはブラックオニキスのメンバーも含まれていた。
「……神の目とは何処まで見渡しているのですか?(冷汗)」
老執事は俺の目をじっと見て唾を飲み込む。
「其れはナイショです(ニコ)」
「姫様、サクライ閣下の申し出をお請け致しましょう。帝都から離れれば姫様のお命を狙う者もいなくなります」
老執事がカトレア姫に進言する。俺とメイアさんは分かっていた。手紙を出す様に進言し、亡命をさせようとしたのは老執事だ。しかしカトレア姫には違う狙いがある。だからカトレア姫が口にする言葉は……。
「爺ぃ~、私は帝都を離れませんよぉ~」
だよね~~~(苦笑)。
俺達は帝国に来る前にカトレア姫についても調査をしていた。
現帝位継承権1位の彼女に何故後見人がいないのか。
兄である第3皇子の後見人には軍部第2大隊の将軍一派がついていたが、皇子が暗殺された事により、軍部は一丸となり現帝位継承権第2位のカリス皇子についている。
現状で暗殺対象のナンバー1である彼女に軍部が付く事を嫌った。仮に彼女が暗殺された場合に、軍部が三度鞍替えをする事を嫌ったのだ。
また、神輿を決めていない宰相一派が彼女に付いたとしても暗殺者から彼女を守る力は宰相一派には無い。其のため宰相一派は現状では様子見を決め込んでいる。
しかし、カトレア姫は後見人がいない事が幸いして、今のところ暗殺されていないとも言えた。
他にも色々調べたが、特に目を引いたのは彼女のメモ帳だ。其の中に帝国の国政や外交、南方での武力侵攻等を俯瞰的な視点での状況分析と自分ならこうする等のコメントを書き留めていた。
武力侵攻に於いては作戦を止め、其の資金を肥沃な土地を持つ地方に割り当て、国内での農作物生産量の向上について記されていた。俺的には好感出来る政策案だ。
とまぁ色々と調べてみたものの、流石に「ですぅ~」少女迄は調べきれ無かったね……(苦笑い)。
「私ぃは~、帝都ぉを~、離れませんよぉ~」
「しかし、其れでは姫様の身に危険が……」
「大ぁぃ丈ぉ夫ぅですよぉ~。大司教様にぃ、お手紙ぃを出す事にぃしましたぁ」
「手紙ですか?」
俺もカトレア姫に確認してしまった。
「はいぃ~(ニコ)」
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