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第二章

第44話 秋と言えば文化祭だよね? 前編

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 グリフォンに乗って買い物に出掛けたナタリアさんは翌日になっても帰って来なかった。


「ねぇ光斗君、お願いが有るんだけど」
「ん?」

 昼食をみんなでとっていた時に彩月がお願いをしてきた。

「街の収穫祭に私達も何かやりたいんだけど」
「何かって?」
「ほら、今は9月でしょ。学校なら文化祭みたいな~(ニコ)」
「何、何、文化祭って何~」

 何コレ好きのセシリちゃんが食い付いて来た。

「私達がいた学校では秋に生徒だけでお祭りをするの、其れが文化祭よ」
「やろうぜ文化祭!」

 如月君もテンション上がって来た。

「で何をやるんだ?」

 いつも冷静な新藤君が、いつも通りに無表情で呟く。

「イエス、新藤様。サツキサンショーで決まりです。歌って踊ります」

 遂にサツキサンが歌う時が来たの?踊りますってサツキサンが?

「何をやるかはみんなで考えよう。私一度戻って相談してくる」

 彩月はそう言うと席から立ち上がり姿を消した。

 ◆

 昼を過ぎて暫くたった頃にナタリアさんを乗せたグリフォンが中庭に降り立つのが2階の窓から見えた。
 ナタリアさんと合流した俺、新藤君、如月君、白山先生は領地の統治に関する状況を、ナタリアさんから説明して貰った。人材確保もされて概ねオッケーだった。

「秘書室も作った方が良さそうだな」

 新藤君曰く、俺やナタリアさん不在時に街議会で領主預りになった案件を、纏めたり、俺達に連絡したりする部署が必要だろうとの事だ。

「へぇ~、秘書室ね~」

 ナタリアさんは俺達の考え方が面白いみたいでニコニコ聞いている。

「そうだな。政策、対策、立案何かもしてもらえれば効率もいいしな」

 如月君も秘書室には賛成だ。

「3人~5人程度で良い人材を集められませんか?」

 俺がナタリアさんに伺うとニコニコとナタリアさんは俺達の顔をぐるッと見渡した。

「いいわよ。優秀なスタッフを付けてあげるわ。今月、魔術学院を卒業した私の弟子志望の子達がいるから、次いでに此処で働かせましょう。貴方達の考え方を学べば将来面白い事になりそうだし(クス)」

 ナタリアさんがイメージする将来を考えると少し怖いが、若い世代の人が俺達の考え方をどう考えるかはとても楽しみだ。

 そうこう話していると時計の針は3時を過ぎていた。

「ティータイムと致しましょう」

 メイアさんがそう言って席を立ち上がった頃、中庭の方で賑やかな声が聞こえてきた。2階の窓から俺達が中庭を見ると、彩月が王都からみんなを連れて跳んで来ていた。みんなだよ?3組だけじゃなく裏メイド隊のみんなも一緒だよ?

「なに、なに?ナイトウイングスが集合しちゃって何するの?」

 ナタリアさんは目を輝かせて聞いてきた。俺は収穫祭に合わせて俺達の文化祭の話しをした。

「ホント面白いわね、貴方達は(ニコニコ)。それじゃ早速みんなと合流しましょ」
「打ち合わせは?」
「政治なんてほっといても何とかなるの。文化祭はほっといたら時間が無くなるわよ。早く行くわよ」

 アハハ、ナタリアさんも一緒にやるんだね(汗)。



「彩月のテレポートもレベル上がって来たね。まさか全員一緒に跳んでくるとは思わなかったよ」
「魔力はみんなから供給して貰ってるんだけどね」
「いえいえ、サツキさんは凄いわよ」
「イエス、ナタリア様」

 ナタリアさんが彩月を褒めてサツキサンが返事をするのね。俺と彩月は顔を見合わせ苦笑いをした。

「で、何で裏メイド隊も一緒なの?」
「文化祭の話しをしてたら、一緒にやりたいって話しになったの」

 ナタリアさんと一緒だな(苦笑い)。

 ホールにみんなを入れて出し物の打ち合わせを始めた。

「其れじゃみんな聞いてくれ。クラス委員長の姫川さんから文化祭の企画が上がったのは知っているよね」
「「「はーい」」」
「でだ、文化祭に関する案件は姫川さんがリーダーで進んで行くけどいいかな」
「「「はーい」」」
「え~、私~」

 彩月以外はオッケーだ。

「大丈夫だよ。俺、新藤君、如月君、茜音さん、葵さんは執行部としてフォローするから」
「はい、はーい!」

 相沢君が手をあげる。

「やっぱメイド喫茶でしょ」

 ド直球を投げてくる。

「相沢、裏メイド隊の人にメイドやらせても意味無くないか?」

 真面目な新藤君は分かっていない。

「ジャパニーズメイド喫茶に決まってるだろ」

 新藤君と裏メイド隊は『?』顔をしている。

「渡辺さ~ん、ちょっとやってみてよ」
「え~!あたし~!」
「ほら、夏休みにバイ「はい、はい、はーい!」」

 渡辺さんが真山さんと八神さんを連れて前に出てきた。仲良し3人組だ。

「じゃあ相沢君がお客様ね」

 相沢君は近くのテーブルを持って来て椅子に座る。

「「「お帰りなさいませ。ご主人様」」」

 うお、3人息が合ってるね。

「本日のご夕食は如何致しますか?」
「モーモーライス愛盛りで」
「モーライラブ盛り承りました~」

 渡辺さんは胸の前で両手でハートを作ってぐるっと回した。
 何?モーライラブ盛りって?

「お待たせしました。愛盛りトッピングしますねお客様~」
「「「美味しくな~れ、美味しくな~れ、美味しくな……」」」

 120の瞳が彼女達に釘付けだ。みんなの視線を感じて恥ずかしくなった3人は、赤い顔でショボんとしてしまった。

 パチパチパチパチ!!!

 裏メイド隊から一斉に拍手が爆発した。

「面白~い!」「そう来ましたか~!」「ライト様に愛盛りした~い!」

 ヤンやヤンやと裏メイド隊は大盛り上がりだ。ジャパニーズメイド喫茶は異世界でも通用するみたいだね?

「ほ、他には何かありませんか~(汗)」

 彩月が用意した黒板に『メイド喫茶』と書きながらアイディアを募る。

「お化け屋敷」
「縁日」
「合コンパーティー」
「バンド演奏」
「歌合戦」
「クイズ大会」
「オカマバー」

 色々とアイディアが出てきたが、『縁日』に色々押し込む事になった。
 模擬店として、『たこ焼き』『クレープ』『コロッケ』。
 アトラクションで『輪投げ』『ストラックアウト』『ぽっくり(木履)競争』
 メイド喫茶はカルチャーショックが懸念されてボツになったが、内々では採用されたみたいだよ?

 領主館の中庭広場で文化祭の準備が始まった。出来るだけスキルには頼らずに自作を目指す。

 たこ焼きやクレープのプレートは鍛冶屋に頼み、街で調達出来ない物に限ってはスキルを使った。ラグナドラグーンには蛸が無かった(海が無い)ので俺と彩月がテレポートで買い出しに行ったりしたりもした。行った先で色々あったが割愛する。

 正門には『茅高祭』のアーチを掲げた。更に特別ステージが増設されスペシャルイベントも企画された。

「ナタリア先生、此れはいったい何をしているのですか?」

 空から魔法の箒で降りてきた魔女っ娘3人は、中庭でカチコン準備をしているみんなを見て戸惑っていた。

「ライト様、紹介するわ。右からルルシー、ソフィア、コロナよ。此方ライト様よ。呆けてないで挨拶しなさい」
「「「宜しくお願いします」」」

「此方こそ宜しく。今はみんなで文化祭の準備をしているんだ」
「文化祭?学術祭みたいなモノですか?」
「ノー、ノー、あんなお堅い発表会とは全然違うわ。生徒によるフェ~スティバルよ、フェ~スティバル!」
「「「はぁ?」」」

 此の国の魔術学院は才能有る小さい子で6歳から入学でき14歳で卒業となる。更に学びたい優秀な人材は魔術高等院へと進学する。

 では彼女達はどうかと言うと、胸に4つ星の金バッジを付けている。主席が5つ星、2位から10位が4つ星だから、かなり優秀な子達である。高等院に上がらずナタリアさんに弟子入りするあたり流石だと思う。

「貴女達、ライト様の事は知っていますね?」
「はい!魔人国から我が国をたった一人で守った英雄です」
「フローランス領の反乱も一夜で解決しました」
「あのメイア様が一目置かれています」
「コロナさん、其処は違うわよ。あのメイアではなく、このナタリアが一目置いているのです」

 コロナさんは失言に気付きアワアワしている。普通ならメイアさんを引き合いに出せばみんな納得するが、ナタリアさんだけは別枠だ。

「貴女達が来てくれて助かったわ~(ニコ)。45人しか集まらなくて困ってたの。到着早々悪いんだけど、早速特訓よ。時間があまり無いの!」
「「「はい!?」」」

 ナタリアさんの直接指導に喜ぶ魔女っ娘3人組を、俺は涙を流し見送る事しか出来なかったよ(涙目)。スマン!

 ◆

 あれから2日、収穫祭&文化祭の日となった。
 朝9時に俺は特別ステージの上にいた。
 領政関係者が中庭に集まり片膝を着いて頭を垂れている?
 俺の右脇にナタリアさん、新藤君、如月君、彩月に魔女っ娘トリオ。

 左側に国王様?お妃様?アルフィーナ王女にセナス王子?王室ファミリー勢揃いだよ?
 カイゼス大将軍とオリバーさん及び親衛隊はステージ最前列で警備しているよ?何でこうなったの?

 其れは昨日だった。速鳥が1通の手紙をくわえ飛んできた。手紙には一言『迎えにこい』と書かれていた。国王様の直筆だ。つまり勅命である。
 俺と彩月で迎えに行くとお妃様達も待ち構えていた。流石に前日入りされると警備が半端なく大変になるので、今日の朝、再度迎えに行って今に至るみたいな?

 因みに彩月に左側の列に並ぶよう言ったら、全力全快で首を横に振って辞退した。流石にロイヤルファミリー勢揃いにナタリアさんも目を点にして、魔女っ娘トリオは白目で泡を吐き出しているよ?

「え~、お集まりの皆さん。人生はサプライズが有るから面白いって事で、本日は私の挨拶だったのですが、国王様が急遽お越しになりましたので、国王様より挨拶を頂戴致します。国王様、宜しくお願いします」

「皆の者、面を上げよ。今日はフローランス子爵が楽しい事をするとの事を聞き付け、突然の訪問となった。本日の収穫祭を儂も楽しもうと思う。またフローランス子爵が此れから行う政も楽しみじゃ。皆の者もフローランス子爵に協力してやってくれ」

「「「ははあ~」」」

 領政の皆さんは国王様のお言葉に頭を垂れる。因みにフローランス子爵とは俺の事だよ。お城では男爵位だけど、此方では子爵位になる。
 其の後に俺が簡単に挨拶を済ませ、ナタリアさんが今後の政策プランを説明した。最前列にいたカイゼス大将軍は終始ニヤニヤして話しを聞いていたよ?



 国王様達が俺達の出し物を見物するので、一般入場は少し遅らせる事とした。国王様はたこ焼きをハフハフ食べながらセナス王子とカイゼス大将軍のぽっくり競争の見物だ。カイゼス大将軍には大人ハンデとして厚底20cmを履いて貰った。

「よ~い、ドン!」

 アイシャさんの掛け声で二人はぽっくりの手綱を握り、よれよれと歩き出した。

「ガハハッ!こいつはじゃじゃ馬だな!全く言うこと聞かんぞ~」

 手綱と足のバランスにカイゼス大将軍が手間取っている間に、セナス王子は要領を得たようでぽっくり、ぽっくり走り出した。大差を付けてゴールしたセナス王子はおおはしゃぎだ。

「勝ったぞ!剣聖に勝ったぞーッ!」

 日頃、勉強も剣の稽古もパッとしないセナス王子は、いつの頃からか自信を持てないでいたんだと思う。お祭りの遊びにしろ、剣聖カイゼス大将軍に勝てた事が、今後の王子の歩みに大きな影響を与える事となった。

 一方で、お妃様は出店のクレープ屋を大層気に入り、5つ目のクレープに手を出していたよ(汗)。

「煮リンゴのクレープも美味しいけど、このアイスクリームとか言うクリームクレープは最高ね~」

 此の世界には牛乳プリンは有るがアイスクリームは無かった。

 藍原君のスキル『温調』は-20度から100度迄、物体の温度コントロールが出来る。此れを笠原君のスキル『融合』とシンクロハーモライズして魔力石を冷凍石に変えた。

 鍛冶屋に手動撹拌器具を作って貰い、水と塩と冷凍石の入ったお鍋に手動撹拌器具を入れて、牛乳に卵、砂糖等の材料を投入しアイスクリームは出来上がった。

 更に其れを楠木君が複製して量を増やす。
 試食タイムでは女の子達は大はしゃぎだったね。

「何コレ~」「美味し~い」「とろけちゃいそ~」

 アルフィーナ王女、ルミネ様、セシリちゃん、オリヴィア様、メイアさんにナタリアさん、裏メイド隊のみんな、魔女っ娘トリオは初めて食べたアイスクリームに大感動し、アイスクリームクッキング教室まで開催された。

 裏メイド隊や魔女っ娘トリオは氷魔法が使えるので冷やす事には苦労しない。楠木君が手動撹拌器具を幾つも複製する事で、女子全員でアイスクリームを作る事が出来た。
 其の結果、当日の今日は100食程度のアイスクリームが用意出来たとの事だ。

 庭内の出し物を一通り見終わった国王様は、収穫祭の街をお散歩したいとのお達しだ。

 マジか!

 急遽警備スタッフを集めロイヤルファミリーの警備態勢の検討をする。ナイトウイングスからは裏メイド隊20名、3組隊からは10名+彩月と葵さん、街の警備隊からは30名を招集した。

 班編成は10組に分け、1組辺り裏メイド隊2名、3組隊1名、街の警備隊3名とした。3組メンバーはスマホが有るので適時連絡が出来るし、怪しい奴は写真や動画等撮影出来る。

 ロイヤルファミリー御一行ごいっこうは馬車に乗ってもらい、馬車の脇をカイゼス大将軍、オリバーさん、葵さん、アイシャさん、キャサリンさんで固める。

 馬車の中は国王家面々に俺、彩月、メイアさんにオリヴィア様にも来て貰った。彩月はいざと言う時のテレポート、オリヴィア様は戦力として一騎当千だ。

 領主館の門を出た馬車は物々しい警備とカイゼス大将軍やオリバーさんの姿も目立ち、街の人達が騒ぎ出した。あっという間にロイヤルファミリーの行幸が知れ渡ると馬車が通る大通りは人の山で埋め尽くされた。

「もしもし、沢岸さん。ちょっと馬車の方に来てくれないか」
『あ、光斗君。はい、すぐ行きます』

 俺は近くで警備している沢岸さんを馬車に呼び寄せた。沢岸さんはバレー部の部長でハキハキしている。クラスでは高山さん、相沢君、楠木君と一緒にいる事が多い。
 彼女のスキルは『空間音量補正』。あるポイントの音をゼロから爆音レベル迄コントロールし、幾つかのポイントに音を飛ばせる。
 前に新藤君が「数少ない俺達の攻撃手段だな」と言ったら、
「よっ!爆音兵器 翔子!」などと言った瞬間に沢岸さんと高山さんからダブルラリアットをくらっていたよ(汗)。
 因みに新藤君の言う其れは音響兵器と呼ばれる類いの攻撃方法との事だ。

「沢岸さん、この文章をスキルで周りの人に案内して欲しいんだ」

 馬車に来た沢岸さんに1枚の原稿を渡した。

「あ、成る程 (ニコッ)」

『本日は晴天なり~、本日は晴天なり~』

 街の人達は何処からともかく聞こえてくる女の子の声を聴き、首をキョロキョロさせている。

『本日は此処フローランスの街に国王様が御視察にお越しになりました』

 街中で歓声が上がった。

『国王様が乗られた馬車が安全にお通り出来ますよう、皆様のご協力宜しくお願い致します』

 沢岸さんの案内により道路上の人だかりは沿道へとスムーズに誘導が出来た。
 俺とサツキサンによる索敵警備では不振なオーラを感知する事もなかった。昨日のゲオドルファミリーの一件もあり、ナイトウイングス相手に悪さを企む輩はいないようだ。

 馬車は小さなブティックの前で止まった。
 カラン♪
 扉をあけるとベルがなり、店員のお姉さんが

「いらっしゃ……(ピキッ)」

 笑顔のまま凍りついた。
 お妃様を先頭に店内に入る。

「此処でエンゲージリングを揃えたのですね。可愛いアクセサリーが沢山ね(ニコニコ)」

 お妃様と国王様は並んでアクセサリーを見て回る。
 可愛いアクセサリーを3つ程選んだお妃様は国王様に支払いをさせてニコニコしている。
 極寒地で震えるかの如く終始ガチブルな店員のお姉さんは、支払いの時に国王様がニコッと目を合わせた瞬間に昇天しました。
 お店の前でみんなで記念撮影をして馬車に乗り込むと、その後は軽く街を回って領主館に戻った。

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