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第83話 とある魔術団長のお話し

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「バカンディス伯爵、こりゃ勝てませんわ」


 魔術師の吾輩から見ても、圧倒的な負けっぷりじゃい。いや、コテンパンと言った方がよいかな。

 自動人形オートマター部隊に黒い盾。魔術師生活四十五年にして初めて見る魔法じゃい。


「クソッ! あのデブはどこに行った! 何が余裕で勝てます、だ!」


 外務大臣のダマ氏は先ほどから姿が見えない。開戦前までは、あの国は弱い、あの国には兵士もいない、あの国の国王はただのガキだ、などと息巻いておったのに、さては逃げたかの、の?

 元々、サディスティア国王の勅命でアザトーイ王国への進軍は決まっておった。ダマ氏による経済干渉はかなり成功しておった。

 返せる筈のない金を貸し、言いがかりを付けて、戦争を始める手筈になっていたのじゃ。

 ダマ氏の話では、少し前まではまさにシナリオ通りと言っておったのじゃが、最後の最後にアマノガワ王国なる見知らぬ国に、アザトーイ王国は買われてしまったらしい。


「伯爵~、先ほど送り出した騎馬隊が全滅しとるぞい」

「なっ、クソ、何なのだあの黒い盾は!」

「吾輩も初めて見る盾じゃ。まあ、有り得ん話ではないんだが……ゲート魔法かもしれんな」

「な、なんだそれは!?」

「設置型の空間転移魔法じゃよ。空間転移魔法自体が超級魔法じゃい。それを数千の自動人形オートマターに盾として顕現させとるあの坊主は化け物じゃぞ」


 そもそも、戦闘する自動人形オートマター自体を創れる事がどうかしちょる。しかも、一瞬で数千体とか狂気の沙汰じゃい。


「伯爵、さっさと撤退しないと全滅もあり得るぞい」

「ば、馬鹿を言うな! 一万の兵を擁して、一槍も打たぬまま撤退など有り得ん! 貴様の魔法部隊は何をしている!」

「そろそろ魔法陣が完成する頃じゃ」

「もたもたしおって! さっさと魔法を放て!」

 まったく素人が! 相手は化け物級の魔術師じゃぞ。適当な魔法を放ってもペチペチと落とされて終わりじゃい。

「撤退をしない伯爵はどうするのかな?」
 
「私は姿を隠したブタデブを探し出して丸焼きにしてくれるわッ!」


 バカンディス伯爵は顔を真っ赤に、怒髪天を突くが如く腹が煮えくり返ったような顔で、ダマ氏を探しに行ってしまった。


「さて、魔法部隊は魔法陣が出来た頃じゃな。せめて一太刀ぐらいは浴びせておかんとな」


 なんぼ何でも戦略魔法を喰らわば無傷とはいくまい。吾輩は魔術師五十人からなる大魔法陣を浮かばせる部下たちの元へと踵を返した。





「どうじゃな」


 魔術師隊副隊長に状況を確認する。


「ハッ! 大魔法陣は間もなく完成いたします。戦略魔法ドラグーンドライブであれば敵陣は一瞬で灰と化しましょう!」


 興奮気味に副隊長は言うが、相手は化け物じみた魔法使いじゃからなぁ。

 見れば若い魔術師たちは魔力切れで青い顔をしながらも、歯を食いしばりながら魔法陣を構築している。


「へえ、戦略魔法陣は初めて見るなぁ」


 どこからか女の子の声が聞こえる。


「なるほど、魔力加速円陣に、魔力増加円陣、魔力収縮円陣、更には火炎増加円陣かぁ」


 声は巨大魔力陣の上から聞こえてきた。見れば少女が宙に浮いている。


「でも発動させる訳にはいかないから、潰させて貰うね」


 少女の右手が上がり光輝く。アレは!?


「団長、あれは!?」

「うむ! ピンクのパンツじゃい!」


 下から見上げれば美少女の短めのスカートから、ピンクのパンツが見えていた。


「死ねッッッ!」


 やたらと殺気を帯びた右手が振り下ろされた。これはッ!?


「グラビティ・エンサクリングッ!」


 重力魔法ッ!? 


「「「ぐぎゃおぉぉぉぉぉぉぉッ」」」


 発動した重力の網が五十人の魔術師たちにのしかかり、魔法陣構築で気力と体力を使い果たした者たちが地面に倒れ伏す。

 ギャハハハハ。

 少女の右手に光る紋は、吾輩の師匠と同じ賢紋。

 自動人形オートマターを創り、ゲート魔法を使う少年。

 賢紋を持ち、浮遊魔法、重力魔法を操る少女。
 
 大賢者を二人も敵に回したら、こりゃ勝てるわけないわな。


「おじさん。悪いけど捕虜にするね。ルミアーナ様ばかりに活躍される訳にはいかないのよ」


 「グラビティ・バインド!」


 吾輩は美少女の放った重力魔法によって捕縛された。さて、アマノガワ王国の若き国王様のご尊顔を拝みに行こうかの。


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