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第56話 帝国との交渉

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「アマノガワ王国の意向は理解した。我が帝国国民にとっても悪くない話ではある。しかし、税金の免除となれば話は別だ。我が国の商人ギルドも黙ってはいまい」


 お風呂から出て家に入った俺たちは、玄関でひと悶着あったものの、今はリビングのソファーに座っている。

 ちなみに、護衛の親衛騎士のお姉さん達は、陛下の許可のもと神の湯に入っている。あの時のお姉さん達の喜びようは、それはそれはめちゃめちゃ凄かった。

 ノーラ様は、ソファーに座ると、公園で遊び疲れたのか、陛下の膝に頭を乗せて寝入っている。

 そして俺は、お茶をすすりながら、俺たちの意向を皇帝陛下に伝えた。

 あらかたの事はルミアーナ様がお風呂で話をしていたので、説明自体はそつなく終える事ができた。 

 そして予想通りに、皇帝陛下からは免税についてのツッコミが入った。


「それについては、帝国及び商人ギルド等の関係団体には、それに見合う物を贈リたいと思います」

「ほう、皆が納得する物か?」

「さて如何でしょうか」


 と、言ったものの、陛下であれば納得出来る一品のはずだ。俺は自分の目の前の何も無い場所に、右手を伸ばして異空間収納を展開し、その中から野球ボールクラスのダイヤモンドを取り出し、ローテーブルの上においた。

 多面カットされ、光り輝くダイヤモンド。その光りが神々しいのには理由があった。


「こちらはダイヤモンドの護玊になります。ルミアーナ様が大聖堂にてサセタ神様の加護を付与しております」

ルミアーナ様・・・・・・が! それにこのように大きく、美しいダイヤモンド……。いったい如何いかばかりの価値がある事か……」


 陛下はそのダイヤモンドを見開いた瞳で見つめ、震える手で触ろうと試みるが、触れきれずにいた。


「価値は高いと思いますが、価値が高すぎて値を付けられませんね。ですので、免税の代わりにこちらのダイヤモンドを帝国に贈りたいと思います」

「……妾も様々な高価な物を持ってくる者たちと会ってきた。その都度、相手とは腹の探り合いだったが……」


 陛下は震えていた両手をギュッと握り、そしてゆっくり開くと、ローテーブルに置かれていた野球ボールぐらいの大きさのダイヤモンドを、そっと持ち上げた。


「……返さぬぞ。これは妾の物・・・だからな」

「はい、それは帝国・・に贈ります」


 やや、言葉の齟齬そごはあるが、交渉は成立した。

 そのあとに、錬聖で国家間の友好関係を約束する公文書を作成し、グレートファング帝国皇帝エルフリーデ・クラウゼ・ファングと、アマノガワ王国国王トーマ・アマノガワは署名した。

 これでアマノガワ王国は大陸五指に入る、大国グレートファング帝国の後ろ立てを得る事となった。

 そして、この公文書にはアマノガワ王国にとって、大きな価値がある。

 『国』の定義が曖昧なこの世界において、大国である帝国が、アマノガワ王国を国として認めた事を意味するからだ。





「えっ!? 帰らない?」

「一度は戻るが、宰相に暫くの間は帝国の執務を任す旨を伝えたら、すぐに戻る。すまぬが、ゲートを暫くの間、帝国と繋げておいてくれ」


 皇帝陛下は、どうやら暫く逗留するみたいだぞ!? いいのか、帝国!?


「フフフ、若返りの湯を堪能するとしようか」
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