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第35話 奇跡の温泉

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 結局なにも出来ずに迎えた朝、俺の左手がうずいていた。ムラムラしてうずいている訳ではない。いや、ムラムラはしているが、そうじゃない。左手の平に刻まれた紋様がうずいているのだ。


「トーマ様、聖紋が」

「ルミアーナ様もですか」


 どうやらルミアーナ様の聖紋もうずいているみたいだ。ってさあ、モゾモゾしないでください! 双丘が、双丘があ!





 古来、日本の温泉伝説には神様にまつわる温泉が多数ある。有名な道後温泉の大己貴命おおなむちのみこと少名毘古神すくなひこのかみ、別府温泉など薬師如来を祀る温泉も多々存在する。


「サセタ神様のお導きでしょうか、ルミアーナ様?」

「……奇跡とはこのような事を言うのですわね」


 今朝からの聖紋のうずきは、まさにサセタ神様が導いた奇跡の証しと言って過言ではない。

 清らかな空気に導かれて、やって来たのはダイヤモンドを発掘した温泉掘削場。

 俺たちの目の前には、超巨大ダイヤモンドさえも霞む、奇跡の緑色の温泉が湧き出ていた。

 鑑定による温泉の名前は【エリクサイトの湯】。

 効能は肩こり、腰痛、二日酔い、虚弱体質、月経不順、冷え性、便秘、眼精疲労、病後治療、滋養強壮、妊娠・授乳中の栄養補給、美肌、美髪、美髭、育毛……。

 更には、完全体力回復、完全魔力回復、完全浄化、完全治癒、完全解毒、完全異常状態解除……。

 そして、部位欠損完全再生(直ちに処置した場合)、寿命以外の蘇生(直ちに処置した場合)、微若返り(寿命は変わらない)。


「……………………」


 ダイヤモンド鉱床だけでもヤバいのに、もっと、かなり、途轍もなくヤバいものが湧き出ている。題してエリクサイトの湯……つまり……。


「……お兄様、これってもしかして」

「エリクサーの温泉……だな」


 エリクサーとは奇跡の霊薬と言われ、現代にいた頃にはゲームや小説などで、度々登場していた最上位ポーションなのだが……。


「シルフィ、こっちの世界じゃエリクサーって普通に有るのか?」

「そ、そんなはず無いでしょッ! バカじゃないの! 伝説よ、伝説、あれは伝説にしか存在しないわよ! エリクサーは【賢者の石】を溶かして作られるの。でも、その【賢者の石】が幻の石だからエリクサーも存在しないのよ」

「賢者の石か……。待てよ、エリクサイト……」

「そうよ、お兄様! エリクサイトが賢者の石よ!」

「エリクサイトは空気に触れると、その成分が空気に溶けてしまう」

「だからエリクサイト、つまり賢者の石が見つかる事がないんだわ……ウッ……」

「ど、どうしたシルフィ!」


 シルフィの右手の甲が光り輝いている。これは、俺の時と似ている。

 光が収まるとシルフィの右手の甲に紋様が刻まれていた。


「聖紋……じゃないな?」


 俺の左手の平にある聖紋とは少しデザインが違う。


「や、や、や……やった」


 シルフィがその紋を見ては、顔を引き攣らせて笑っている。


「やった、やった、やったぁぁぁ!」


 シルフィが飛び跳ねて喜んでいる。いったいあの紋様は何なんだ?
 


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