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第二章

兎37羽 黄金髑髏男

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 たられば……。

 たらればだけど、僕が冷静に判断出来れば月兎を装着して反重力操作と慣性制御でこの絶叫ウォータースライダーから抜け出せていた。

 勿論たらればだ。今の状況でそんな判断が出来るはずもなく、後ろの女の子達も以下同文だった。だから僕達はひたすら暗闇の絶叫ウォータースライダーを何処までも何処までも滑り落ちて行った。

「きゃあああああああーーーーーーーーーーーーーッ!!!」





 何処までも続くと思われた絶叫ウォータースライダーは、突如現れた扉を僕らは蹴破り、明るい場所に出たと思いきや四角い箱のような物も蹴り倒し、平らな石畳の上を暫く滑ってからようやく僕らは止まる事が出来た。

「「「「あ~~~~吃驚した」」」」」

 声を揃えて驚嘆の声をもらす4人。     
 ………………?
 4人?

 辺りは大きく豪華な造りの部屋で、お城の謁見の間ような雰囲気だ。壁や天井のシャンデリアには不思議な緑の炎が灯されている。
 僕達はその部屋の中央辺りまで滑って来ていた。
 玉座のような豪華な椅子が横倒しで転がり、その近くに豪華で煌びやかな漆黒のローブを纏った人が四つん這いになっている。

「す、すみませんでした」

 僕は何はともあれその人に謝る。

「び、吃驚させおって……死ぬかと思ったぞ」

 四つん這いのその人は立ち上がり、ローブに付いた埃を骨の手で払う……。そしてその顔は黄金の骸骨…………。既に死んでませんか?

 しかし髑髏のマジックキャスターと言えば……。

「ワインヅとか言うなよ。マジ勘弁……」
「ゴールデンバッド……?」

 令和と昭和で意見が分かれた。ワッパマンってのもあったかな?いずれにしてもヤバいとしか思えない相手だ。部屋に漂う空気が『邪』に満ち溢れている。冷や汗が止まらない。

「ほ……ほんとにスミマセン。ぼ……僕らはこれで帰りますから……」

 すっとぼけてこの場を去ろうとしたが黄金骸骨が僕らを引き留める。

「まったく裏口からとは意表を突かれたが、まぁよい。せっかく帝王の間まで来たのだ。茶でも飲んでいきたまえ」

 黄金骸骨は「ヨイショ」と豪華な椅子を起こして其所に腰掛けた。裏口なんか作るなよ!と突っ込む余裕も無い。

 絶対強者だけが持つ威風に、死を告げる暗黒のオーラ。コイツ相手に逃げれるとはとても思えない。

……一人だけ……。一人だけなら……。

「なに、直ぐには殺さぬ。随分と長い間暇をしておったからな。少しは余興を楽しむのも悪くはなかろう」

 玉座から吹く闇のオーラに既に僕達は動けぬ程の恐怖に身を包まれていた。

 ……キョウカさんだけでも……。自分の気持ちに胸が痛み顔が歪む……。其れはマリヤさんを守れない……仲間を裏切る行為なのだから……。

 僕はどんな顔で彼女達を見たのだろうか。二人と目を合わせ、二人が首を振る……。

「……ソウマ君……月兎で逃げて下さい」
「……ソウマさんとキョウカさんに出会えて、とても幸せでした……」

 彼女達は自分の死と引き換えに僕を逃がそうとしている……。

「ほほう、人の友情……いや、愛という物か。ならば仲間同士での殺し合いでも見物するか」

 最悪だ……。二人も絶望の顔を浮かべ瞳から流れた涙が頬を濡らしている。絶対に勝てない、絶対に死ぬこの絶望の中で告げられた仲間同士の殺し合い……。

「「「……………………………………」」」

 僕達は動けなかった……。涙を流し死を待つしか無かった…………。いや、彼女達は僕を選んだ……。僕の命を……生きて欲しいと……彼女達は決断した…………。

 決められないのは僕だ…………。でも………………出来ない!そんな事は絶対に出来ない!クソ!何で月兎は一つしか無いんだ……。あと二つ有れば……。二つ………………。

 僕はその可能性を諦めていた?

 今の僕じゃブロードソードも複製出来ないから……?

 だから試した事は無かった……。出来ないと思っていたから……。

 でもコイツは……月兎は特別だ……。

 だって月兎は完全防御なんだから!!!

「月兎!」

 月兎を僕の前に顕現させた。

「ワハハ!バニーガールとは余を楽しませてくれるのか!」

 黄金骸骨の笑い声等どうでもいい!

 頼む!頼むよ月兎!僕の……、僕達の思いを…………。

「複製ーーーーーーーーーーーッ!!!」

 ありったけの思いを月兎に託した。眩く光る月兎。目も眩む程の暖かい光……。更に大きく輝き、光は消えた……。

 ぴょんぴょん。ぴょんぴょん。

 僕達の足元を赤、青、白の3羽の兎がぴょんぴょん跳ねる。

 ぴょんぴょん。ぴょんぴょん。ぴょんぴょん。

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