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はじまりはじまり。小さな冒険?

454、食べ盛り、育ち盛り。

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「なにこれ…?スライム?……な訳ないよなぁ」


 つきたての作り立てだった大福なので、ほのかに温かくて、とても柔らかくて。

 セグシュ兄様も大福は初めてだったみたいで、少しだけ警戒して、不思議そうな顔をして、ふにふにと大福を指でつついていた。
 ただ、その皿をガン見する、カイルザークとユージアの視線に気付くと、急いで一つ、口に放り込んだ。

 競争率がある事に気づくと、躊躇せずに食べちゃうんですね。と、思わず笑ってしまう。


セシリアわたしの前では、素敵お兄さんなのに、他の兄弟に対しては……まだまだ子供っぽい行動が出るんだなって事で…ふふふ)


 成人しているとはいえ、年齢的に前世にほんでいえば、まだ高校生だもんね。
 そういうものか…うん、そういうものだね。
 同じ年頃の息子たちもこんな感じだったかも。

 というか、セグシュ兄様も…男兄弟には容赦ないな……?


(いや、そもそもセグシュ兄様の分まで狙うとか…。まだ食べ足りないとか…。カイもユージアも、どんな胃袋してるんだろう。というか、お腹ぽんぽんになっちゃうよ?…人のこと言えないけどさっ!)


 まぁ……ひとつ食べてしまえば、セグシュ兄様も危険はないと理解したみたいで。

 あの、つきたてのお餅の柔らか食感、幸せだもんね。
 セグシュ兄様も、手が止まらなくなったようだ。

 でも、原材料は餅米だからね!
 腹持ち、めちゃくちゃ良いからね?!


「なんか…優しい甘さだね。不思議だけど、美味しい」

「果物ではなくて豆で作られたデザートなんです」


 セグシュ兄様の手にある、大福をきらきらとした瞳でガン見しながら、カイルザークが説明していた。

 その視線に気圧されたのか『一つずつ…食べるかい?』と差し出しかけて。
 父様に『食い過ぎだから。餌やり却下』と言われていた。


(父様……餌やりって…いくらなんでも言い過ぎっ!)


 そんなセグシュ兄様も、一口サイズの大福とはいえ、お皿に5~6個ほどあったのを一瞬にして平らげてしまい、フレアにおかわりをお願いする。

 しかし『ごめんなさい、売り切れちゃった』とフレアに言われて……。

 泣きそうなほどに、がっかりしていた。

 その姿に、フレアが申し訳なさそうな顔をしているのを見たセグシュ兄様。
 期待の眼差しで『追加で作って欲しい』とお願いしていたが、ルナに『作るには時間がかかるんです』と説明されて、完全に項垂れてしまった。


(餅米自体は、お米より早く炊き上げるくらいでちょうどいいんだけど、餅をつく作業と、包む作業……そもそも、餡子の準備も必要だもんね。…そういえば餡子は小豆を茹でるところから始めたんだろうか?そうなると、かなりの時間が必要だよなぁ……)


『もっと食べたかったなぁ…』と涙目で呟いている。
 涙目になる程……そこまで美味しかったの?!






 ******






「では、子供たちを頼んだよ」

「おまか…あ、いや、はい!」

「どっち……本当に大丈夫か?」

「大丈夫…な、はずなんですけどね。どうにも調子が」


 父様の声に、どうにも不安になる返事のセグシュ兄様。
 セグシュ兄様の後ろにいたルークも、この後すぐに別行動となるので、セグシュ兄様、責任重大ですよ?!

 ちゃんと子供たちを守って……いや、なんか、無事以前に、制御不能になりそうな気がする。
 体力的な意味で…頑張って?


 ということで、これから私もみんなと別行動になる。
 父様とユージアと一緒に、公爵家へ帰宅する。

 ユージア以外の子供たちとは、別行動だ。


(今まで、賑やかで楽しかったんだけどなぁ……)


 今日も本当なら、今まで起きた事、事件のあらましを、みんなで聞きに行くような感じだったのだけど、ちょっと状況が変わったそうだ。


「さぁ、母様がお待ちかねだぞ?セシー。行くよ」

「はい!」


 少し緊張気味に、ぽてぽてと歩き出したところで、ひょいと父様に抱き上げられてしまった。
 抱き上げついでと言わんばかりに、ぐりぐりと頬を押し当てられる。

 とても長いまつ毛が、きめの細やかな肌が、どアップ…というかそれしか見えないよ!


「……やっぱり、いつものセシーが一番可愛い!」

「前が…見えましぇ…」


 いつもの私。
 そう、やっと小さく戻ったちぢんだのだった。
 出発ギリギリになって戻ったので、準備が大変だったんだよ?

 それにしても、かけた本人フレアもびっくりの長持ち魔法だったものだから『朝ごはん前には、戻るはずだったのになぁ』と首を傾げていた。


(……自分の魔法の威力を見誤るとかっ!しっかりしなさいよねっ!)


 そう茶々をいれて、ルナとフレアにも『行ってきます』をした。
 ……今日はこの2人とも、別行動なんだよ。

 本当に命の危険が迫れば、契約があるから。
 どんなに止められようとも、飛んでくるのだろうけど。

 今日だけは…『多少の事では、姿を現さないように』と、父様とルークに言われてしまった。

 薄暗い、煉瓦レンガ敷きの小径こみちを風を切るように進む。
 やっぱり大人の歩くスピードは気持ち良いね!






 ******






「ユージア。キミも、絶対に守る。だから……」


 見上げた先、父様の翠の瞳が、真摯な色を持ってユージアを見つめている。
 こちらを見上げるユージアからも、すっと笑みが消え、真剣ではあるが、少し怯えの色が混ざった目つきになる。


「僕は……大丈夫、です。セシリアも僕…『私がいれば余裕ですよっ♪』」

「ああ、ライトか」


 ユージアの少し緊張気味な言葉を、上からかき消してしまうように…重ねた言葉とともに金髪の髪が視界に入る。

 現れたのは、ライト。
 ふわふわと風に遊ぶ、おかっぱの髪が可愛らしい。
 セシリアわたしとあまり背格好の変わらない、女の子の姿をした精霊。

 カイルザークの契約精霊だ。
 ……今まで、ルークの契約精霊である風の乙女シルヴェストルに『教育』という名目で預けられていたのだけど、今回は重要なお仕事を任されて、ここにいる。


『はいっ!ライトちゃんです!今日はこの私が、頑張りますから!絶対に大丈夫ですよぉ~』

「なんだろ……ライトの言葉って、すごく薄っぺらく聞こえる……」


 ユージアが力なく笑いながら、ライトを見つめている。
 ライトはそのほんわりとした可愛らしい顔に、不機嫌なしわを眉間に作る。


『力が伴ってない人の言葉なんて、もっと薄っぺらいです、よ~だっ!!』

「うぐぅ……勉強中なんだからっ!しょうがないでしょ?!」

『しょうがなくないですよ~!ルーク様は、あなたくらいの時には、契約を終えて、王国でも有名な騎士でしたもん!……同じ血を引いてるのに、どうしてこんなに違うのですかねぇ?』


 べ!と舌を出すと、父様の影に隠れる。
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