451 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?
451、家族への想い。
しおりを挟む「僕がね、お肉切ってあげるんだよ!」
「レイが切ってくれるなら、僕は…焼こうかな」
王子2人の手料理とか、どれだけ贅沢なんだろうか。
世のご令嬢が聞いたら、卒倒しそうな勢いのお話なんだけどね。
シュトレイユ王子の、嬉しそうな笑みを見ていると、ただただ、和んでしまう。
見守るように、優しげな笑みを浮かべているレオンハルト王子も、お兄ちゃん!って感じで、可愛らしい。
こんな2人に、教会はどうして危害を加えようと……って、王位だよなぁ。
(正直、なんのために王位が欲しいのか、全く理解できないけどさ)
龍の守護がある王家の場合は、血筋を重要視するってのは基本なんだけど。
それは龍との契約が『キミの子孫をずっと護っていってあげる』っていう、血筋が条件になっているから。
でも、王位自体は、これまた選定条件が特殊で。
例えばだけど、次代の王は王の息子である、レオンハルト王子とシュトレイユ王子のどちらかだろう。
さぁ、どちらにする?って、なった時に『龍が選ぶ』
(興味深いことに、王様が選ぶわけじゃ無いんだよ)
龍が『護っていきたい』って思った王子を、選ぶ。
選ばれなかった王子のことを思うと『酷だな』と思うのだけど。
こればっかりは『どっちの子と気が合うか』というのが前提になるらしいから、どうしようもないよね。
(ちなみにだけど……どっちも悪ガキ王子だった場合…実は、王の兄弟を選ぶってことも…あるらしいよ?)
龍って、とっても強いのに、守護を担ってくれる龍は、とっても平和主義なんだって。
だから、明らかに好戦的だったり、乱暴な子は好まない。
そういう意味では、2人とも合格ラインなのだけど。
(そうか……あまりにも悪ガキだったら…母様が王位に就く事だって…いや、なんか想像つかないな)
ていうか、そうなっちゃったら私、お姫様だわ。
公爵令嬢だって『うえええ』ってなってるのに、お姫様とか、勘弁してほしい。
これは、冗談でも考えたくない『もしも』だったわ。
******
『ねぇ、レイもレオンもさ。もしこれを庭園でやるのなら、その前にもやることがあるんだよ……忘れてない?』
「……あ、火起こし」
「やるっ!兄さま!一緒に!!」
あたり!と、フレアが空いたお皿を下げながら、にこりと笑みを浮かべる。
『でもね』と小さな声で指を口に添えて、2人の王子たちに優しく、言い聞かせるように囁く。
『消し炭にしないでね?ちゃんと加減しないとダメだから、まずは魔法を使いこなしてからだねぇ』
スッと立ち上がると『こんなふうに!』と、下げたお皿をフリスビーでも投げるかのように振り上げる。
お皿は、勢いよくフレアの手から離れると、放物線を描くように食堂のカウンターへ向かって一直線に飛んでいき、綺麗に種類別に積み上がっていった。
ちょっと、行儀悪いわよ!?と思いつつも、食器が割れることも、乱れることもなく、綺麗に飛んでいく様に少しだけ目を奪われてしまう。
「消し炭って……」
「ふふっ…兄さまね、魔法が強すぎて、蝋燭に火をつけられなかったんだよね」
シュトレイユ王子のイタズラっぽい笑いとは対照的に、憮然とした表情になるレオンハルト王子。
きょとんと聞き返すエルネストに視線を向け、考え込むかのように、ゆっくりと深く頷く。
「強すぎて?」
「ああ……点けようとしたら、燭台ごと…吹き飛んだ」
「ふきっ…!ふっ…あっはは!セシリアみたい」
一言余計だよ……。
思わずジト目になりつつ、カイルザークを見ると、見守っているような優しげな笑みだった。
シシリーは、魔力を寝ぼけて暴発させたり、意味不明な魔法の使い方は…しなかったんだよ?
どうにも、自分の処理能力以上に力が有り余っているような感じで、予想外に効果が強く出てしまうんだよ。
「そう…だな。……頑張る」
「僕も!」
レオンハルト王子の返事にシュトレイユ王子の声が続く。
そもそも、寝ぼけて屋根を吹っ飛ばしたっていうのは、そもそも寝ぼけてたんだから、不可抗力だと思うんだよね……。
魔法を使おうと意識した結果、吹っ飛ばしたんじゃないもの。
『ほら……セシリアも、そろそろデザートは終了だよ?止まってる場合じゃないよ?』
おっと……思わず食べる手が止まっていた。
気づけば、みんなデザートを終了して、食後のお茶を楽しみ始めている。
(また私だけ、置いてかれてる?!)
ちなみに、デザートは……まさかのミニ大福でした。
餡子は漉し餡で、ふにふに柔らかのお餅で包まれていた。
お茶はもちろん、緑茶。
「お砂糖が欲しいな」
初めての緑茶だったので、ユージアが渋みに顔を顰めて呟いている。
甘い大福に、口直しも兼ねての渋いお茶。
私は好みの味だけど……。
『ああ、ごめん。使うかい?』
そう言うと、ユージアの前にお砂糖が入った小瓶が置かれる。
そうそう!
緑茶ってね、前世の日本ではそのまま飲むけど、海外では、お砂糖やミルクを入れて飲むことが多いんですって!
前世での義理の娘…息子の嫁ね。
彼女が見た目は日本人なのだけど、俗にいう帰国子女で。
考えというか、基本的な生活の思考が、日本とは少し違っていたんだ。
(結婚のお祝いにいった時に、玄関先でお祝いを渡して、そのまま帰るつもりだったのに、流れで新居にお邪魔させてもらったの)
その時に、紅茶用のティーカップでお砂糖とミルクを添えて緑茶が出てきて、びっくりしたのよねぇ。
『面白いでしょう?でも、意外に美味しいんだよ』
そう、息子が笑って勧めてくれた。
恐る恐る飲むと、うん、苦味が和らいで、これはこれで美味しくて。
おっかなびっくりで甘いお茶を口にしている私たちを、面白そうに見つめる息子と、なぜかハラハラとしている義理娘と。
『これ、日本の職場でも、同じように出しちゃって「常識がない!」って、怒られまくったらしいんだよ』
『苦手だったら、ごめんね』と息子は笑っていた。
ああ、日本じゃ、こういう飲み方はしないもんねぇ……。
「確かに。初めての体験だったけど、でも美味しいわね?」
否定はしなかったつもりだけど、否定したように聞こえちゃったのだろうか?
義理娘は、悲しそうな笑みを浮かべていた。
そんな傍で、旦那が勢いでミルク入りにも挑戦していた。
「抹茶クッキーみたいで美味いよ?」
どんな例えですかと、思わずみんなで笑ってしまったけど。
故郷で当たり前のように口にしていたものを『常識がない』って否定されるのは……うん、イヤだよね。
同じような体験談として、思わず、私が体験してしまったホタテの話を彼女にしてしまったのだけど。
『大丈夫です。私はそこまでキツくは言われなかったですよ』
今は『そんなもんだよね』と吹っ切れたけど『ホタテを見るたびに思い出しちゃう』と笑っていると、そんなことでホタテを嫌いにならないようにと、面白いお話をしてくれた。
『ホタテって、稀になんですが、ヒモの部分から真珠が取れるんですよ』
本当に稀なことなのらしいけど、ビーズくらいのとても小さな真珠が取れるのだそうで。
しかも、意図して作ろうとしている…どころか食用のホタテだもんね。
完全に天然物の真珠!
なかなかに希少で、状態の良いものであれば、数百万の価値のあるジュエリーになっちゃったりするのだそうだ。
ちょっと、夢のあるお話よね。
(この話を聞いて『素敵!』って思ったのだけどね)
どうやら、そう思ったのは私だけではなかったようで。
この話の後から、我が家で生きているホタテや貝付きのホタテを買うと、必ず貝から捌かれて、見事な刺身となって出てくることが基本となった。
……旦那が、真珠が出てくるのを楽しみに、捌くようになってしまったから。
っと、またもや記憶が暴走してしまった。
やっぱり、思い出し始めると、懐かしいなぁ。
息子たちは…孫たちも、みんな元気だろうか?
もう会えないし、会える手段があったとしても、会っちゃいけないのは理解している。
それでもやっぱり、記憶にあり続ける限り、こうやって何度でも会いたいと思ってしまうんだろうな……。
(なんかダメだなぁ。懐かしいにしても、どうにも気分が沈む。悲しい思い出では…ないのに)
0
お気に入りに追加
626
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る
堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。
彼は新興国である新獣人国の国王だ。
新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。
過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。
しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。
先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。
新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。
みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。
主人公は断罪から逃れることは出来るのか?
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる