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はじまりはじまり。小さな冒険?

451、家族への想い。

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「僕がね、お肉切ってあげるんだよ!」

「レイが切ってくれるなら、僕は…焼こうかな」


 王子2人の手料理とか、どれだけ贅沢なんだろうか。
 世のご令嬢が聞いたら、卒倒しそうな勢いのお話なんだけどね。

 シュトレイユ王子の、嬉しそうな笑みを見ていると、ただただ、和んでしまう。
 見守るように、優しげな笑みを浮かべているレオンハルト王子も、お兄ちゃん!って感じで、可愛らしい。

 こんな2人に、教会はどうして危害を加えようと……って、王位だよなぁ。


(正直、なんのために王位が欲しいのか、全く理解できないけどさ)


 龍の守護がある王家の場合は、血筋を重要視するってのは基本なんだけど。
 それは龍との契約が『キミの子孫をずっと護っていってあげる』っていう、血筋が条件になっているから。

 でも、王位自体は、これまた選定条件が特殊で。

 例えばだけど、次代の王は王の息子である、レオンハルト王子とシュトレイユ王子のどちらかだろう。
 さぁ、どちらにする?って、なった時に『龍が選ぶ』


(興味深いことに、王様が選ぶわけじゃ無いんだよ)


 龍が『護っていきたい』って思った王子を、選ぶ。
 選ばれなかった王子のことを思うと『酷だな』と思うのだけど。
 こればっかりは『どっちの子と気が合うか』というのが前提になるらしいから、どうしようもないよね。


(ちなみにだけど……どっちも悪ガキ王子だった場合…実は、王の兄弟を選ぶってことも…あるらしいよ?)


 龍って、とっても強いのに、守護を担ってくれる龍は、とっても平和主義なんだって。
 だから、明らかに好戦的だったり、乱暴な子は好まない。

 そういう意味では、2人とも合格ラインなのだけど。


(そうか……あまりにも悪ガキだったら…母様が王位に就く事だって…いや、なんか想像つかないな)


 ていうか、そうなっちゃったら私、お姫様だわ。
 公爵令嬢だって『うえええ』ってなってるのに、お姫様とか、勘弁してほしい。

 これは、冗談でも考えたくない『もしも』だったわ。





 ******






『ねぇ、レイもレオンもさ。もしこれを庭園でやるのなら、その前にもやることがあるんだよ……忘れてない?』

「……あ、火起こし」

「やるっ!兄さま!一緒に!!」


 あたり!と、フレアが空いたお皿を下げながら、にこりと笑みを浮かべる。
『でもね』と小さな声で指を口に添えて、2人の王子たちに優しく、言い聞かせるように囁く。


『消し炭にしないでね?ちゃんと加減しないとダメだから、まずは魔法を使いこなしてからだねぇ』


 スッと立ち上がると『こんなふうに!』と、下げたお皿をフリスビーでも投げるかのように振り上げる。
 お皿は、勢いよくフレアの手から離れると、放物線を描くように食堂のカウンターへ向かって一直線に飛んでいき、綺麗に種類別に積み上がっていった。

 ちょっと、行儀悪いわよ!?と思いつつも、食器が割れることも、乱れることもなく、綺麗に飛んでいく様に少しだけ目を奪われてしまう。


「消し炭って……」

「ふふっ…兄さまね、魔法が強すぎて、蝋燭に火をつけられなかったんだよね」


 シュトレイユ王子のイタズラっぽい笑いとは対照的に、憮然とした表情になるレオンハルト王子。
 きょとんと聞き返すエルネストに視線を向け、考え込むかのように、ゆっくりと深く頷く。


「強すぎて?」

「ああ……点けようとしたら、燭台ごと…吹き飛んだ」

「ふきっ…!ふっ…あっはは!セシリアみたい」


 一言余計だよ……。
 思わずジト目になりつつ、カイルザークを見ると、見守っているような優しげな笑みだった。
 シシリーむかしは、魔力を寝ぼけて暴発させたり、意味不明な魔法の使い方は…しなかったんだよ?

 どうにも、自分の処理能力以上に力が有り余っているような感じで、予想外に効果が強く出てしまうんだよ。


「そう…だな。……頑張る」

「僕も!」


 レオンハルト王子の返事にシュトレイユ王子の声が続く。

 そもそも、寝ぼけて屋根を吹っ飛ばしたっていうのは、そもそも寝ぼけてたんだから、不可抗力だと思うんだよね……。
 魔法を使おうと意識した結果、吹っ飛ばしたんじゃないもの。


『ほら……セシリアも、そろそろデザートは終了だよ?止まってる場合じゃないよ?』


 おっと……思わず食べる手が止まっていた。
 気づけば、みんなデザートを終了して、食後のお茶を楽しみ始めている。


(また私だけ、置いてかれてる?!)


 ちなみに、デザートは……まさかのミニ大福でした。
 餡子は漉し餡こしあんで、ふにふに柔らかのお餅で包まれていた。
 お茶はもちろん、緑茶。


「お砂糖が欲しいな」


 初めての緑茶だったので、ユージアが渋みに顔をしかめて呟いている。
 甘い大福に、口直しも兼ねての渋いお茶。
 私は好みの味だけど……。


『ああ、ごめん。使うかい?』


 そう言うと、ユージアの前にお砂糖が入った小瓶が置かれる。


 そうそう!
 緑茶ってね、前世の日本ではそのまま飲むけど、海外では、お砂糖やミルクを入れて飲むことが多いんですって!

 前世での義理の娘…息子の嫁ね。
 彼女が見た目は日本人なのだけど、俗にいう帰国子女で。
 考えというか、基本的な生活の思考が、日本とは少し違っていたんだ。


(結婚のお祝いにいった時に、玄関先でお祝いを渡して、そのまま帰るつもりだったのに、流れで新居にお邪魔させてもらったの)


 その時に、紅茶用のティーカップでお砂糖とミルクを添えて緑茶が出てきて、びっくりしたのよねぇ。


『面白いでしょう?でも、意外に美味しいんだよ』


 そう、息子が笑って勧めてくれた。
 恐る恐る飲むと、うん、苦味が和らいで、これはこれで美味しくて。
 おっかなびっくりで甘いお茶を口にしている私たちを、面白そうに見つめる息子と、なぜかハラハラとしている義理娘と。


『これ、日本の職場でも、同じように出しちゃって「常識がない!」って、怒られまくったらしいんだよ』


『苦手だったら、ごめんね』と息子は笑っていた。
 ああ、日本じゃ、こういう飲み方はしないもんねぇ……。


「確かに。初めての体験だったけど、でも美味しいわね?」


 否定はしなかったつもりだけど、否定したように聞こえちゃったのだろうか?
 義理娘は、悲しそうな笑みを浮かべていた。

 そんな傍で、旦那が勢いでミルク入りにも挑戦していた。


「抹茶クッキーみたいで美味いよ?」


 どんな例えですかと、思わずみんなで笑ってしまったけど。
 故郷で当たり前のように口にしていたものを『常識がない』って否定されるのは……うん、イヤだよね。

 同じような体験談として、思わず、私が体験してしまったホタテの話を彼女にしてしまったのだけど。


『大丈夫です。私はそこまでキツくは言われなかったですよ』


 今は『そんなもんだよね』と吹っ切れたけど『ホタテを見るたびに思い出しちゃう』と笑っていると、そんなことでホタテを嫌いにならないようにと、面白いお話をしてくれた。


『ホタテって、稀になんですが、ヒモの部分から真珠が取れるんですよ』


 本当に稀なことなのらしいけど、ビーズくらいのとても小さな真珠が取れるのだそうで。
 しかも、意図して作ろうとしている…どころか食用のホタテだもんね。
 完全に天然物の真珠!

 なかなかに希少で、状態の良いものであれば、数百万の価値のあるジュエリーになっちゃったりするのだそうだ。
 ちょっと、夢のあるお話よね。


(この話を聞いて『素敵!』って思ったのだけどね)


 どうやら、そう思ったのは私だけではなかったようで。


 この話の後から、我が家で生きているホタテや貝付きのホタテを買うと、必ず貝から捌かれて、見事な刺身となって出てくることが基本となった。
 ……旦那が、真珠が出てくるのを楽しみに、捌くようになってしまったから。


 っと、またもや記憶が暴走してしまった。


 やっぱり、思い出し始めると、懐かしいなぁ。
 息子たちは…孫たちも、みんな元気だろうか?

 もう会えないし、会える手段があったとしても、会っちゃいけないのは理解しわかっている。
 それでもやっぱり、記憶にあり続ける限り、こうやって何度でも会いたいと思ってしまうんだろうな……。


(なんかダメだなぁ。懐かしいにしても、どうにも気分が沈む。悲しい思い出では…ないのに)
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