上 下
450 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?

450、どんな記憶であれ、今となっては良い思い出で。

しおりを挟む
 

「セシー?どうした?」

「なんでも…ないです」


 唐突に、父様から声をかけられて、飛び上がらんばかりに、びくりとする。
 ……唐突じゃなかったのかもしれないけど。

 前世むかしの記憶。
 どうにも『そういえば、こんな事もあったなぁ』と思い出すと、不思議と視界いっぱいに映像が広がるように、鮮明に思い出す。
 まるで、映画館のあの大画面を、一番前の席で、見ているかのように。

 そのせいか、思い出している最中は、完全に私の動きが止まってしまうようで、またもや父様に心配されてしまった。


(独身時代の思い出かぁ……懐かしいなぁ。仕事ではある意味地獄だったけど、楽しかったんだよなぁ)


 北海道という土地は大好きだった。
 言葉も、慣れてしまえばどうってことない。
 むしろ愛着があるよ。

 そもそも思い返せば、思い返すほどに、私の職場が少し特殊だっただけだ。
 職員の中で、女性上司と私以外は全員男性で。
 そして、出身が北海道の職員と、関西の職員と、ちょうど半々いた中に、関東から来た私がぽつり。

 おかげで私の言葉は、北海道弁を理解したと思っていたら、関西弁が混ざってたりとかね。
 何やら、よくわからない環境だった。

 地元出身の職員いわく『関西弁は怖い。関東あんたの言葉は機械みたいで冷たい』らしい。
 冷たいかな?
 敬語を使えば使うほど逃げられるのは、これが原因だったみたいで。

 俗にいう、タメ口を使うと距離が縮まるというね。


(でもね、周囲は私の10歳以上も年上なのが当たり前の環境で、それは難しかったんだよ……?)


 まぁ……今の環境も年齢という意味では、酷いことになってるけどさ……。
 ルークとか、ずっと昔には幼馴染だし、同級生だし。
 でも、今は教師だし、国のお偉いさんだし。

 なのに、今も昔のままの態度で話してしまっている。


(ダメダメかも。今までは色々と必死になる、というか、そんなこと構ってられない状況が続いたから、しょうがないとしても、これからは……ちゃんと考えていかないと……)


 王子たちとの関係もそうだし、ゼンも……。
 そういえばゼンは、どう接したらいいんだろう?

 霊獣って、実は生態をよく知らない。
 魔導学園時代に多少、聞き齧ききかじったくらいだった。
 精霊はほら……身近にルナとフレアがいるからさ、否応いやおうなしに、知らざるを得なかったわけなんだけど。


(精霊の獣版くらいにしか考えてなかったわ)


 しかも人化できるくらいに格の高い上に、赤ちゃんじゃなかったとなると、もうお手上げだ。
 失礼な事しちゃったかな?……しちゃったよなぁ。
 名付けもそうだし。

 危うく『きゅーちゃん』って、つけかけてたわけで。
 ゼンナーシュタットが必死に嫌がってくれなかったら…守護龍のアナステシアスがフォローを入れてくれなかったら、きゅーちゃんになってた。


(それでも、真面目に考えた名前だからね?!…きゅうきゅう言ってて可愛かったんだから!)


 バタ焼きされたホタテのヒモを、コリコリと噛みしめながら、ちらりとゼンナーシュタットへ視線を移すと、目がばっちりと会ってしまった。

 なんだろう?
 視線の先のゼンナーシュタットは、怒られてしょげている。と、いうよりは、何かにひどく怯えてるように顔を蒼白に染め上げている。
 私の視線に気づくと、同じようにびくりとして。
 直後、悲しげに瞳を伏せてしまった。


「セシリア…その、さっきは……ごめんなさい」

「私も、ごめんね。びっくりしちゃっただけだから、大丈夫」

「あ……。本当に、ごめんなさい」


 それっきり、悲しそうに俯いてしまうと、何も言葉を、返してはくれなくなってしまった。

 今のゼンナーシュタットは、いつもにこにこ笑顔のシュトレイユ王子とそっくりな姿してるからさ。
 普段見かけないような悲しげな表情に、なんだかとてもいたたまれなくなってしまって。

 所在なげに見上げた空は、まだまだ日が昇りかけの明るさで、不思議な気分になる。
 朝が早すぎたせいか、朝ごはんを食べてる最中なんだけど、そろそろお昼なんじゃないかな?と、錯覚しそうになるほどに、時間を長く感じていたようだ。






 ******






「ねぇ、またここでご飯が食べたいな!」


 とても楽しげなシュトレイユ王子の声。
 確かに、この解放的な雰囲気での食事、素敵よね。
 木漏れ日とはいえ、ほぼ屋外のような場所に設置してある、ガーデンテーブルのセットでの食事。

 ガーデンテーブルも、なんだろう、私が想像してたのとちょっと違う。
 アイアン調の椅子にテーブルに……じゃなくて。
 ラタンのような藤のような素材を編み上げて作ったソファーに、ちゃんと柔らかなクッションがついている、立派なもの。

 テーブルも、ラタンの編み上げに、分厚いガラスが置かれているという、お洒落な作りになっている。


(昨日使った、丸太の椅子に、一枚板のテーブルのセットも屋外っぽくて良かったんだけどね)


 今日の朝ごはんは、小鉢や丼を多く使っていたから、テーブルの凹凸で器が転ばないようにと、ルナがテーブルを変えたのだった。

 それにしても。
 よく、こういうセットが屋外に置いてあるお庭の写真を、前世にほんの家具のカタログとか、あとは映画で見かけてたけどさ。
 これ、雨が降ったらどうするんだろうね?
 ダメにならないんだろうか?


「こことは言わず、今度は庭園でやりたいな!」


 レオンハルト王子がシュトレイユ王子に優しく微笑みかけながら、とんでもない発言をした。


「今度は父様も母様も一緒に。今日よりもずっとずっと楽しいと思う」

「父さまと母さま……喜んでくれるかな?ねぇ、セシリアたちも一緒?」

「ああ、もちろん。いっしょだ」

「うん、絶対楽しい!」


 シュトレイユ王子がアクアマリンの瞳をきらきらと輝かせながら、満面の笑みを浮かべている。
 ……この『避難所』は擬似的な屋外を作り出しているけど、本当の屋外でやるには、まだ少し寒いかもしれない。
 ああ、でも、キャンプとかグランピングみたいな雰囲気でやるのなら、焚き火を囲むことを考えると、ちょっと寒いくらいが暖をとりながら楽しめて、ちょうどいいのかな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

運命の番でも愛されなくて結構です

えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。 ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。 今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。 新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。 と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで… 「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。 最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。 相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。 それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!? これは犯罪になりませんか!? 心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。 難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。

処理中です...