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はじまりはじまり。小さな冒険?
441、あなたは、だあれ?
しおりを挟む(他種族の成長方法なんて、滅多に聞ける話では無いから、とても気になる内容では、あるのだけどね)
成長の機会。
つまり、上手くすれば上位種へのランクアップの機会という場合でもあるから。
逆にいえばそれは、その種族の弱点にもなる情報で……基本的には秘匿されている。
例えばだけど、ゼンナーシュタットの種族の『分身体』でも『転生体』でも、実行直後は本来の姿より弱めの『分身』であったり『赤ん坊』であったりするわけだから。
そのタイミングを狙って襲撃をしてしまえば、簡単に仕留められてしまう、ということになりかねない。
そんな情報を、なんでこのタイミングで『笑い話』として話しているのか?
「なによりね、記憶も言葉も断片的にしか思い出せないし、軽く絶望しちゃった!……卵から必死に這い出した直後の最初の数分なんて、歩くことすら、まともに出来なかったんだよ?」
……っと、思ってたことがそのまま、ゼンナーシュタットの言葉として出てきてしまったことに、少し焦る。
(やっぱり、思いっきり弱点じゃないかっ!!)
笑って話してる場合じゃ無いでしょ!
「ゼン…」
「そんな時にね!……とても懐かしい匂いを感じて。必死に追いかけた先に、セシリアがいたんだ」
こんな場所で話す内容じゃないよ!と、言おうとしたところで、嬉しそうに言葉を被せられてしまった。
被せた後、ゼンナーシュタットは、ふと顔を上げて、私をまっすぐ見据えると、満面の笑みを浮かべる。
優しげに細められたその瞳に浮かぶ笑みは、どこか懐かしそうな色をもって、私へと向けられている。
「ねぇ、セシリア。キミも…セシリアとして生まれる前に存在していた時の人格があるって聞いたんだけど、本当かい?」
時が、止まる。
この場所で、このタイミングで。
聞かれたくない人が、たくさんいるのに。
思わず、ゼンナーシュタットの後方、ベッドへと目をやる。
案の定というか、寝起きの頗る悪い、カイルザークが寝ていた。
(でもカイルザークは知ってるから、良いのか)
うっかり聞かれて、色々と対応に困っちゃうのは……そうだな、父様とエルネスト。
あと、レオンハルト王子とシュトレイユ王子だけど…2人はまだ寝ている。
ああでも、シュトレイユ王子は、内緒話好きだったもんね……。
「大丈夫だよ。この会話は…誰にも聞こえない。イタズラ王子にも、キミを随分と気にかけている……ルークにも」
察したかのように、ゼンナーシュタットは口角を上げて笑う。
『音を遮断する障壁を、張ってあるから』と。
少し、ゼンナーシュタットの存在が、怖くなった。
「記憶が、少しだけ……」
慎重に答える。
……実際、全てを思い出したつもりだったけど、どうにも色々重要な部分まで忘れてしまっている節があるから『はっきり』とは言えない。
そうやって答えてしまった後に、その忘れた部分に関する相手がいたとして、知らずに傷つけてしまうような発言はしたくない。
(しかし…ゼンナーシュタットって本当に何者なんだろう)
確かに、ゼンナーシュタットは会うたびに、態度や身のこなし、言動がまるで別人かと見間違えそうになるほどに、大人びていってた。
それは霊獣としての発達の速さなのか、それとも守護龍アナステシアスから受けた、お勉強の賜物なのかと思っていた。
……そりゃ、元が大人なら、記憶が戻るほどに、大人びていくよねぇ。
シシリーの記憶にある『身体の更新』は、龍を筆頭とする、魔力も知能も高く、とても大型になる生き物がとる、成長手段だった。
(とりあえず、シシリーは、ゼンナーシュタットのような、そういう人間以外での『高貴』と言われる種類の生き物と、お友達になった記憶は、ない)
だからね、シシリーの時に、守護龍アナステシアスのようなフレンドリーに絡んでくれる龍や霊獣がいた日には、彼らの住処に入り浸る勢いで、仲良くなってたはずだ。
実際にいたら…ルークも一緒に乗り込んできそうだけど。
……研究対象として。
(ああ…研究対象といえば……もしかして、恨まれてるのかな…。魔道具の作成に使いまくった、高価な素材の持ち主だったり、その親族だったりするのだろうか……)
ぞわりと背を…冷たいものが走り抜けていく。
鱗や爪等、生え変わっていくモノはともかく、骨や肉を素材に使う魔道具もあった。
そういうものに関しては、確実に、殺したり大怪我をさせて、奪い取ってきたものだ。
シシリーが直接奪ったわけではないにしろ『使いたい』『必要だ』と声を上げる人間がいたから、冒険者やギルド、商人たちがこぞって、手に入れるために動いたのだから。
間接的な理由だから。と、シシリーは無関係な人間を装うことは、出来ない。
むしろ、相手から見れば、諸悪の根源に位置する人間だ。
……ゼンナーシュタットは、何者なんだろう。
私は知らずに…酷いことを、してしまったのだろうか。
******
「僕はね。この紅茶を…好んで飲んでいた人を探しているんだ」
幸せな夢の途中のような、ゼンナーシュタットのうっとりとした口調に、シシリーへの敵対心を抱くような立場にはいなかったのかな?と安心しかけて……。
しかし、どうしてもゼンナーシュタットのような、霊獣と知り合った記憶が思い当たらずに、やはり頭を抱えそうになる。
(もしかしてこのうっとりも、その相手に会えた時の『復讐の達成』を考えて酔っている。とかだったら…怖すぎる)
うん…『趣味が他人の空似なのだ』と思うことにした。
目の前に並ぶ、お茶請けにお茶……。
ローズヒップにレモン、そして多めのお砂糖とか…。
甘いクッキーにクランベリーのジャムとか…。
明らかにシシリーの好みなんですものっ!
でも、多分…他人、他人。
当時の知り合いの中で、この食べ方を好む人間は、いなかった。
むしろ同席してしまった人から、好奇の眼差しをもらうことは、多々あったけども。
シシリーっぽい人物を探しているのはわかった…で、ゼンナーシュタットは『誰』なんだろう?
シシリーの傍にいた人物だろうか?
それとも、敵対していた人物だろうか?
変な動悸と、気持ちの悪い冷や汗が、じわりと浮き上がる。
会話を続けていくにしても、この情報が、一番大事だと思うんだ……。
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