430 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?
430、性別って難しい。
しおりを挟む『セシリア~大丈夫?フレアと交代してきたんだけど、何かあった?…って、あったのね』
湯船に浸かって、ぼんやりとしているところに、『お風呂手伝いに来たよ~』と、ルナが現れた。
「ないっ!」
『いや…言いたくないならいいけど……服、変えないとダメだね』
ルナは小さく息を吐くと、私の姿を見て『フレアを怒らせちゃったの?』と、首を傾げる。
怒らせたつもりは、全くないんだけどなぁ。
って…『怒ったら、イタズラするの……?』と、思わずルナを見上げると、キョトンとした後、吹き出すように笑い出す。
『僕はイタズラしたし?』
「あ…あれ、怒ってたの?」
『もちろん!……ピンチになっても、呼び出すどころか、思い出してもくれてなかったし』
ふん!と鼻を鳴らすように息を吐くと、肩をすくめて見せる。
いや…そもそもさ、精霊との契約って、私は私でも、シシリーとの契約であって、セシリアとは関係ないじゃない?
精霊も、龍の守護のように、家系にこだわって契約を代々続ける子もいるけどさ、セシリアはシシリーの血縁ではないし。
(というか、天涯孤独のシシリーの血縁って……シシリーは独身だったのだから、いませんっ!)
……それでも、姿が変わっているであろう『私』を探し回ってくれてたのなら…ルナたちには失礼だけど、ちょっと嬉しいかな。
「……なんか…ごめん」
『仕返ししたらスッキリ忘れる事にしてるから、良いよ』
「された方は、大変だったんだけどね…」
『うん、それでおあいこかな?って思ってる』
『おあいこ』と言うわりには、姿が変わってた時間が長すぎだと思うのよね……。
あ、そうそう、今回のこの姿はルナの魔法とは違って、一晩で解けるらしく。
……裁判までには、元に戻れそうなので、少しだけ安心してるところだったりする。
「性別の違いって説明、難しいね…」
『ああ…うん……。あのね…まぁ、いっか』
「ん?」
『いや…なんでもないよ。説明は…どれも、むずかしいね』
ルナが何か言いたげに、言葉を少し濁していたので『なんにせよ、言わなきゃ伝わらないからね』と言ってみる。
むしろ、言っても伝わらない事がほとんどだけどさ。
『……性別に関しては僕も、なんとなくイヤなんだろうな?くらいしかわからないからね?』
ルナは少し考えるように視線を彷徨わせたあと、軽く首を横に振る。
精霊に性別はないからね。
「そうだなぁ…もともと自分に習慣の無いものを理解するのは……難しいよね」
『うん。姿としては、僕は男性体で慣れちゃったから。それっぽくは振る舞える。けど……でも、最初にとった姿が女性体だったら、それはそれで慣れてたと思うよ?』
「だよねぇ。どっちも得意な子もいたもんね」
魔導学院時代、シシリーだった時のことだけれど、少し風変わりな精霊を連れた生徒がいたんだ。
貴族の子息だったと記憶しているんだけど、普段は女性体の精霊を連れているのに、外出時や、休暇になると男性体の精霊を連れていた。
精霊の複数契約というのは、珍しいとはいえ、人族でも魔力や条件次第では可能だから、実際、複数の精霊と契約していた生徒もいるには、いたのだけど……。
彼の場合は、その複数契約なのかと思われていたのだけど、実際は、一人の精霊が、その場に合わせて、姿を変えていただけだったというお話で。
『うん。あれはあれで、すごいと思ってたよ。僕だったら言葉を間違えまくると思う』
「それはっ…!あははっ」
そう、言葉遣いから仕草まで、別人だと思えてしまうほどに完璧に、使い分けてみせていた。
……複数契約じゃないにしろ、ルナやフレアのように双子ちゃんや、多重人格的な精霊なのかしら?とか、当時ちょっと考えてたりもするくらいに、別人に見えるんだよ。
すごいよねぇ。
『どちらの姿をとっていても、女性喋りの精霊もいたよね』
「そうねっ!…でもあれは、なぜか不思議と違和感を感じなかったのよねぇ」
『ああ、あれはね。その逆の……うっかり女性体で男性喋りをすると、行儀が悪いって怒られちゃうでしょう?それが面倒だから、女性喋りで統一してたらしいんだよ』
なるほど!と、言葉では納得しつつも、やはりあれは実物を知っていると…どうにも笑みが溢れてしまう。
精霊のとる『人の姿』というのは、基本的に見目麗しい。
契約主の年齢や好みに合わせて、精霊自体の見た目の年齢も様々なのに『どうして?』と思うほどに、とにかく美しく整っている。
(そんな端正な顔立ちの男性体の精霊が…女性喋りをする、と…)
私には、オネエにしか見えなくなってしまうわけで。
イヤではないし、聞いていて不快なわけでもない、むしろ言葉に妙な柔らかさを感じて、馴染みやすいんだけどね。
まだ若い精霊の場合、どうしても表情やリアクションが薄い場合が多いので、そんな状態で、美貌の人が真面目な顔で発するオネエ言葉……なかなかに迫力があるのですよ。
「……にしても、性別かぁ…。改って説明しようにも、難しいね」
『1つだけ理解してるのは、そうだね…。ドレスやスカートは女性だけの衣装だ!ってこと』
「そこなの……」
真面目な顔で、自信満々に答えるルナの言葉に、思わず遠い目になりかける。
(そもそも男女で身体の構造が違うんだから、脱いでしまえば一目瞭然だ!ってなりそうなものなんだけど)
私から見れば、明らかに性別を判断するのに一番確実な部分だし、それこそ注意して見てもらいたいのに、精霊の視界だと『明らかな違い』として、注視すべき部分には、入らないらしい。
精霊にしてみれば『ちょっとついてるものが違う』くらいの認識なのだろうね。
その『ついてるものが違う』が、とても大事なんだけどなぁ……。
0
お気に入りに追加
626
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る
堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。
彼は新興国である新獣人国の国王だ。
新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。
過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。
しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。
先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。
新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。
みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。
主人公は断罪から逃れることは出来るのか?
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
運命の番でも愛されなくて結構です
えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。
ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。
今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。
新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。
と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで…
「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。
最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。
相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。
それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!?
これは犯罪になりませんか!?
心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。
難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる