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はじまりはじまり。小さな冒険?

425、生まれも育ちも。

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「ねぇ…カイはどんな風景を見せてもらったの?」

「ん~ライトは本当に生まれたばっかりだったみたいで、契約したその洞窟の風景だけだったよ」


 カイルザークの精霊、ライトは本当に特殊。
 シシリーわたしの周囲の精霊たちは、どうにも変わった子達ばかりだったので、何が普通なのか…わからなくなりかけるのだけど、ライトこのこは契約の時がとっても特殊だった。

 可愛らしかった妖精から、まるで蝶が羽化するかのように、目の前で精霊化が進み…気づけば、カイルザークと契約が完了していた。

 精霊化の瞬間なんて、貴重すぎて。
 一緒に行動していた研究員たちが初めて見る、夢とも現ともつかない光景に呆然としてしまい、はっと我に返った瞬間『記録に残したかった!』と、膝から崩れ落ちるくらいの衝撃で。
 ──とても素敵だった。


「セシリアは?いっぱい見えた?あれ?でもセシリアは一瞬だったよね?」


 そうだった、セシリアとしてルナと再会した時は、シュトレイユ王子もその場にいたもんね。
 再会早々、やらかしてくれたわけですが。


「あ~…夜空が見えたよ」

「それだけ?……2人もいるのに?」

「うん、それだけ。双子だからってわけじゃないんだろうけど、この子達、今こそ別行動を普通にしてるけど、当時はお互いにべったりくっついて、絶対に離れなかったみたいだから。2人で同じ風景を見てたんだろうね」

「そっかぁ…楽しみ!」


 頬を興奮で上気させて、うっとりと笑んでいる。
 本当に楽しみなんだなぁ……。


(王城に、お友達の精霊や妖精がたくさんいるみたいだし、案外あっさりと契約できそうな気はするよ)


 その時の風景が、素敵なものでありますように。


 ……まぁ、実際は、楽しい風景だけじゃないんだけどね。

 私が実際に、その『お気に入り』の景色を見せてもらったのは、シシリーの時だ。
 セシリアとしてルナと再会した時は、再契約という形だったからか、契約を上書きしただけみたいだったからか、そういう光景は見ていない。

 ちなみに彼らの、お気に入りの景色たちは……。

 ──生贄として捧げられた人々が、その命の絶える瞬間に見上げていた、月の綺麗な夜空、だ。

 それもいろんな境遇での、何人もの最期。

 それがどんな風に印象的で、どうして2人の力の源になっているのか、最初は理解できなかった。
 生まれたばかりで、妖精的な気質が強かったから、無邪気という興味からの残酷さからだったのか?
 もしくは、死にゆく彼らを憐れんだのか。


 そして、彼らの生まれた場所は、龍の寝床だった。

 契約直後に『細工に使えそうな龍の素材、いっぱい落ちてたし、今度連れて行ってあげるね!』と満面の笑みで誘われた。

 素材は欲しいけど…もちろん、丁重にお断りした!


(素材集めをする前に、シシリーわたしが龍たちの素材にされてしまうわ……)


 そもそも寝床ってことは、不法侵入ですよ?!
 自分の寝室どころか、私室だって覗かれたくないと思ってるのに。
 他人の…まぁ、人じゃないけど。龍だって見られて嬉しいわけがない。

 龍だよ?
 この国にも龍、いるでしょう?
 意思の疎通ができるレベルの、生き物な訳ですよ。

 まぁ龍にも色々いて、意思の疎通が全くできない上に、ひたすら攻撃的な種類とかもいるんだけどね。
 龍とは名ばかりの単なる蛇みたいなやつとか、本当に色々……。


(そんな中での、ルナとフレアに見せてもらった、生まれた場所にいた龍。どう見てもメアリローサ国の守護龍のような、とても立派な龍だったのよ)


 ……大慌てで『精霊ルナとフレアと契約の際に、あなたのお部屋が見えてしまったかもしれません。ごめんなさい』としたためたお手紙を、ルナとフレアに持たせた。


(そういえば、契約してから初めて、2人にお願いしたお仕事が…これだったね)


 頼んでしまったものの、無事に帰って来れるかどうかと、2人の事が心配でしょうがなくて。
 まぁ帰ってきたら、帰ってきたでその出立いでたちに脱力して。


(焦ってたから、気づかなかったんだけどさ。ルナとフレアが生まれて育って、精霊となるまで、そこにいたわけだからさ……龍とは顔見知りなんだよね)


 満面の笑みで、両手にたくさんの荷物を抱えて、2人は帰ってきた。

 シシリーわたしのお手紙を携えて、意気揚々と龍の住処へと帰宅・・して、龍に『ごめんなさい』をするどころか『人間と契約した!』と……シシリー《わたし》の事を、たっぷりと自慢して帰ってくるというね。
 恐ろしく心臓によろしくないことを『全力で』やらかしてくれていた。

 そして、たくさんの荷物…お土産を持って帰ってきた。

 龍は『契約のお祝い』と称して、たくさんの稀少な素材を、ルナたちに持たせてくれたのだそうだ。


(部屋を覗いちゃった上に、お祝いまで貰ってしまって、本当に申し訳ない……)


 ……その素材を持って、当時の担任だったディオメド導師せんせいに報告と相談に行ったら、さらに驚かれて…また急いでお礼の手紙を書く事となった。

 その『お祝い』としていただいた素材の全てが、魔道具マジックアイテム作成のための、最高級の素材だったからだ。


『こんなものが高額取引されてるなんて、変なの~』


 なんて、当時のルナとフレアは、けらけらと笑っていたけど。
 まぁ私も、素材を見た途端に、すっと顔色が失せて、あわあわと始めるディオメド導師せんせいを見るまでは、同じような感覚ではあったのだけどね。


(いつも飄々ひょうひょうとして、つかみどころがなくて、そして、とても穏やかな導師せんせいが取り乱す様子に、何か悪い事でもしてしまったのかと、血の気が引いていったのを覚えてる)


 ちなみにね、とても分厚くて丈夫な革の袋の中に、無造作に放り込まれていた素材たち。
 本来なら、1個1個、布張りの木箱に入れて保管されているような、本当に希少な素材だったの。


(当時のシシリーわたしは初等科だったもんなぁ。前世にほんでいう年長さんから1年生くらいだからね。価値なんて……わからないよなぁ)


 わかってたら、ごめんなさいの手紙も、お礼の手紙も、ちゃんと導師せんせいに添削をお願いしてから出してたのに。


(今思うに、とても優しい龍だったのだと思う。幼稚園児の文字なんて、正直、みみずがのたくったような文字だから。ほとんど読めない。そんなお手紙に、ちゃんとお返事をくれて、お祝いまでいただいてしまって)

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