上 下
424 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?

424、グロリオーサ。

しおりを挟む
 



 その呟きはフレアにもしっかり聞こえていたようで、父様に向かってくすくすと笑うと、片手を添えて悪戯っぽく囁く。


『いや…宰相を気に入ってしまって、ついてまわってたみたいなので。確か…精霊に興味をお持ちでしたよね?』

「ああ…だが」

『ええと…ストレートに言ってしまうと、契約して欲しいそうです。なので、宰相が良ければ、応えてもらえると』


 フレアの言葉がよほど予想外だったのか、大きく目を見開くと固まってしまった。


(魔力も魔法の威力も、父様は凄いもんなぁ。精霊には魅力的な対象に見えていたと思う)


 父様は小さく息を吐いて、眉間を抑えていた手をフレアの腕へと伸ばすと、精霊の女の子を受け取り、そっと床に降ろす。
 そして、視線を合わせるように膝をつくと、優しげな笑みを浮かべる。


「私と契約をしてくれるのかい?とても助かるし、私としては大歓迎なのだけど……君は、大丈夫かい?君に与えられるものが、少しでもあるのなら嬉しいんだけど」

『傍に、居られるだけで…嬉しいです。私は…それだけで、充分…です』


 嬉しそうに顔を赤らめながら、小さく笑むと俯いてしまった。

 父様は、小さな子にするのと同じように、ぽんぽんと背中を撫でると、乱れた前髪を整えてあげながら、軽く頭に手を添えた。


「では、よろしく頼むよ…名は?」

『まだ…ありません』

「じゃあ……そうだな。グロリオサ…うんグロリオーサだ。よろしく、グロリオーサ」

『はいっ!』


 グロリオーサがはっきりと強く返事をした瞬間、父様が陽炎に包まれる。
 ゆらゆらと視界が歪む先、グロリオーサの頭の上に置かれた父様の手に、複雑な魔法陣が幾重にも浮かび上がると、発動を示す輝きを放ち始めた。

 グロリオーサを中心に放たれる蒼い火柱に煽られるように、父様の真っ赤な髪が揺れる。
 その姿がとても幻想的で、時が止まったかのように周囲の動きすら飲み込んでいく。


「火の精霊だったんだなぁ……」

『火系だけど、この子は火炎とか爆炎みたいなのが好きみたいなんだよね』

「やだ過激っ!」


 不思議な光景からいち早く復帰したユージアの、呆然とした呟きと、いたずらっぽく笑うフレアとの会話が耳に入る。


(ああ、生まれたばかりって言われてたけど、なるほどね。それなら合点がいく)


 ちょっと特殊な特性持ちだから……。
 通常の火の精霊じゃないから。
 経験が少ないから、生まれてからの格の上がりせいちょうが遅くて『生まれたばかりと同じ格』のまま…って事だったのね。

 ……生まれたばかりの割には、表情豊かで不思議だったんだ。
 照れてたり、とても可愛らしかったでしょう?


(純粋に生まれたばかりの精霊だったら、父様の周囲をうろつくとか、まどろっこしい事なんてしないで、直接交渉に乗り込んでたんじゃないかな?)


 そう考えちゃうと、感情が豊かって、行動が難しくなっちゃう面もあるんだなと…それをみかねて、フレアが助け舟を出したのかしら?と思ってしまった。
 …うん、フレアったら、案外良いところあるじゃない。


『ま、正確には火炎とか爆炎の精霊ってことになるんじゃないかな?…育てば、だけど』

「格好良いなぁ…」

『……今は爆炎どころか、熱風程度の威力だろうけどね。ふふふっ』


 グロリオーサにしたら、父様は最高の契約主になるんだろうなぁ。
 それこそ定期的に魔物の討伐に行くし、その時に使う攻撃魔法は、もちろん父様の得意としている火系になるから。
 しかもその火の魔法は、同じく得意としている風の魔法で威力を底上げされた、火炎とも爆炎とも言われる魔法だ。

 これからは、グロリオーサの加護もつくから、威力は増大するのだろう。

 グロリオーサも、父様と行動を共にすることによって、止まっていた成長ときが始まる。

 ……精霊と人間、お互いに素敵な関係を、築けていけますように。


「なぁ…かなり熱そうな炎に見えるんだけど、父様は…大丈夫なのか?」

『ああ~あれはね…今、多分…2人とも、こっち見えてないからね。この状態がもう少し続くだろうから、とりあえず、さっさと片付けちゃおう?』


 エルネストの心配そうな声に、フレアは安心させるように笑うと、お片付けの作業を再開する。
 カウンターの奥から、懐かしそうに目を細めて様子を見守っているルナ。

 幾重にもその身を包み込むように重ねられた、複雑な魔法陣に囲まれた中心で、父様はグロリオーサの頭に手を添えたまま、微動だにしない。
 グロリオーサも、ピクリとも動いていないので、魔法陣の中はまるで時が止まっているようだった。


『あれはね、契約するにあたって、自己紹介というか……。そうだね、グロリオーサの生まれた場所と好きな風景…どちらも精霊ぼくたちの力の源や、由来になるのだけど。それを見てもらってる最中なんだ』


 カウンターに続々と下げられていく、食器類を受け取りながら『心配はいらないよ』と説明するルナの言葉に、フレアが継ぎ足すように続ける。


『だからね、生きてきた時間が長い精霊ほど、たくさんの風景を見せようとするから、長い』


 前世にほんでいう、アルバムみたいな感じなんだよね。精霊によっては、ものすごく不思議な光景を目撃してたりもして、素敵な体験になるらしいんだけどね。


「あれ…?生まれたばっかりじゃなかったの?」

『生まれたばっかりだよ?』

「えっ…でも、ずいぶんかかってるって事は、長く生きてるんじゃ?」

『そうだね。カイの精霊ライトよりは、ずっと前に生まれてたみたいだけど』

「それ、うちの変態親父ルークより年上なんじゃ……」

『精霊に、時の流れはあんまり関係ないからねぇ。人間でいう実力主義って感じ?……経験が少なければ、成長はしないから。評価は赤ん坊のままだよ』

「……そういう事!」


 ユージアが、理解した!と納得の表情を浮かべるのと同時に、シュトレイユ王子がカウンターから身を乗り出すようにして、父様たちへと視線を向けている。
 ……ああ、シュトレイユ王子ね、あまりにも興味がありすぎて、あの2人の魔法陣に突っ込みかけたので、フレアに捕獲されてカウンター内にいたりする。

 シュトレイユ王子は元々、精霊や妖精たちと相性の良い子だから、契約のこの瞬間、ものすごく気になるんだろうね。

 まぁ、私も気になるけど。
 契約の瞬間なんて、滅多に見れるようなものじゃないし。


「どんな風景を見せてもらってるんだろうね?……僕も、見てみたいな!」

『レイもご縁があると良いね』

「うんっ!!」


 なんかもう、シュトレイユ王子のテンションは最高!むしろ振り切れました!って感じで、瞳をきらきらと輝かせて、父様たちを見つめ続けている。
 ……今日、ちゃんと寝れるのかしら?

 子供って興奮してると、寝ぼけるからね?
 …あ、私もか。
 今日は寝ぼけないからねっ!
 絶対に大丈夫!な…はず。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

処理中です...