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はじまりはじまり。小さな冒険?
424、グロリオーサ。
しおりを挟むその呟きはフレアにもしっかり聞こえていたようで、父様に向かってくすくすと笑うと、片手を添えて悪戯っぽく囁く。
『いや…宰相を気に入ってしまって、ついてまわってたみたいなので。確か…精霊に興味をお持ちでしたよね?』
「ああ…だが」
『ええと…ストレートに言ってしまうと、契約して欲しいそうです。なので、宰相が良ければ、応えてもらえると』
フレアの言葉がよほど予想外だったのか、大きく目を見開くと固まってしまった。
(魔力も魔法の威力も、父様は凄いもんなぁ。精霊には魅力的な対象に見えていたと思う)
父様は小さく息を吐いて、眉間を抑えていた手をフレアの腕へと伸ばすと、精霊の女の子を受け取り、そっと床に降ろす。
そして、視線を合わせるように膝をつくと、優しげな笑みを浮かべる。
「私と契約をしてくれるのかい?とても助かるし、私としては大歓迎なのだけど……君は、大丈夫かい?君に与えられるものが、少しでもあるのなら嬉しいんだけど」
『傍に、居られるだけで…嬉しいです。私は…それだけで、充分…です』
嬉しそうに顔を赤らめながら、小さく笑むと俯いてしまった。
父様は、小さな子にするのと同じように、ぽんぽんと背中を撫でると、乱れた前髪を整えてあげながら、軽く頭に手を添えた。
「では、よろしく頼むよ…名は?」
『まだ…ありません』
「じゃあ……そうだな。グロリオサ…うんグロリオーサだ。よろしく、グロリオーサ」
『はいっ!』
グロリオーサがはっきりと強く返事をした瞬間、父様が陽炎に包まれる。
ゆらゆらと視界が歪む先、グロリオーサの頭の上に置かれた父様の手に、複雑な魔法陣が幾重にも浮かび上がると、発動を示す輝きを放ち始めた。
グロリオーサを中心に放たれる蒼い火柱に煽られるように、父様の真っ赤な髪が揺れる。
その姿がとても幻想的で、時が止まったかのように周囲の動きすら飲み込んでいく。
「火の精霊だったんだなぁ……」
『火系だけど、この子は火炎とか爆炎みたいなのが好きみたいなんだよね』
「やだ過激っ!」
不思議な光景からいち早く復帰したユージアの、呆然とした呟きと、いたずらっぽく笑うフレアとの会話が耳に入る。
(ああ、生まれたばかりって言われてたけど、なるほどね。それなら合点がいく)
ちょっと特殊な特性持ちだから……。
通常の火の精霊じゃないから。
経験が少ないから、生まれてからの格の上がりが遅くて『生まれたばかりと同じ格』のまま…って事だったのね。
……生まれたばかりの割には、表情豊かで不思議だったんだ。
照れてたり、とても可愛らしかったでしょう?
(純粋に生まれたばかりの精霊だったら、父様の周囲をうろつくとか、まどろっこしい事なんてしないで、直接交渉に乗り込んでたんじゃないかな?)
そう考えちゃうと、感情が豊かって、行動が難しくなっちゃう面もあるんだなと…それをみかねて、フレアが助け舟を出したのかしら?と思ってしまった。
…うん、フレアったら、案外良いところあるじゃない。
『ま、正確には火炎とか爆炎の精霊ってことになるんじゃないかな?…育てば、だけど』
「格好良いなぁ…」
『……今は爆炎どころか、熱風程度の威力だろうけどね。ふふふっ』
グロリオーサにしたら、父様は最高の契約主になるんだろうなぁ。
それこそ定期的に魔物の討伐に行くし、その時に使う攻撃魔法は、もちろん父様の得意としている火系になるから。
しかもその火の魔法は、同じく得意としている風の魔法で威力を底上げされた、火炎とも爆炎とも言われる魔法だ。
これからは、グロリオーサの加護もつくから、威力は増大するのだろう。
グロリオーサも、父様と行動を共にすることによって、止まっていた成長が始まる。
……精霊と人間、お互いに素敵な関係を、築けていけますように。
「なぁ…かなり熱そうな炎に見えるんだけど、父様は…大丈夫なのか?」
『ああ~あれはね…今、多分…2人とも、こっち見えてないからね。この状態がもう少し続くだろうから、とりあえず、さっさと片付けちゃおう?』
エルネストの心配そうな声に、フレアは安心させるように笑うと、お片付けの作業を再開する。
カウンターの奥から、懐かしそうに目を細めて様子を見守っているルナ。
幾重にもその身を包み込むように重ねられた、複雑な魔法陣に囲まれた中心で、父様はグロリオーサの頭に手を添えたまま、微動だにしない。
グロリオーサも、ピクリとも動いていないので、魔法陣の中はまるで時が止まっているようだった。
『あれはね、契約するにあたって、自己紹介というか……。そうだね、グロリオーサの生まれた場所と好きな風景…どちらも精霊の力の源や、由来になるのだけど。それを見てもらってる最中なんだ』
カウンターに続々と下げられていく、食器類を受け取りながら『心配はいらないよ』と説明するルナの言葉に、フレアが継ぎ足すように続ける。
『だからね、生きてきた時間が長い精霊ほど、たくさんの風景を見せようとするから、長い』
前世でいう、アルバムみたいな感じなんだよね。精霊によっては、ものすごく不思議な光景を目撃してたりもして、素敵な体験になるらしいんだけどね。
「あれ…?生まれたばっかりじゃなかったの?」
『生まれたばっかりだよ?』
「えっ…でも、ずいぶんかかってるって事は、長く生きてるんじゃ?」
『そうだね。カイの精霊よりは、ずっと前に生まれてたみたいだけど』
「それ、うちの変態親父より年上なんじゃ……」
『精霊に、時の流れはあんまり関係ないからねぇ。人間でいう実力主義って感じ?……経験が少なければ、成長はしないから。評価は赤ん坊のままだよ』
「……そういう事!」
ユージアが、理解した!と納得の表情を浮かべるのと同時に、シュトレイユ王子がカウンターから身を乗り出すようにして、父様たちへと視線を向けている。
……ああ、シュトレイユ王子ね、あまりにも興味がありすぎて、あの2人の魔法陣に突っ込みかけたので、フレアに捕獲されてカウンター内にいたりする。
シュトレイユ王子は元々、精霊や妖精たちと相性の良い子だから、契約のこの瞬間、ものすごく気になるんだろうね。
まぁ、私も気になるけど。
契約の瞬間なんて、滅多に見れるようなものじゃないし。
「どんな風景を見せてもらってるんだろうね?……僕も、見てみたいな!」
『レイもご縁があると良いね』
「うんっ!!」
なんかもう、シュトレイユ王子のテンションは最高!むしろ振り切れました!って感じで、瞳をきらきらと輝かせて、父様たちを見つめ続けている。
……今日、ちゃんと寝れるのかしら?
子供って興奮してると、寝ぼけるからね?
…あ、私もか。
今日は寝ぼけないからねっ!
絶対に大丈夫!な…はず。
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