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はじまりはじまり。小さな冒険?
420、満天の星と野営っぽいもの。
しおりを挟む「タレが…うまいな」
『ふふふっ。美味しいって言ったでしょう?あくまで野営っぽいだけだから。……逆に野営の場合は、このタレは無いし、肉も…ここまで美味しいのは珍しいと思うよ』
「……確かに。肉が柔らかくて、うますぎる」
エルネストが、よほど美味しいのか、肉にかじりつきながら嬉しそうに顔を綻ばせている。
一緒に、野営っぽい食事と聞いて、嫌な顔をしていたカイルザークは、色々な野菜を串に刺しては、コンロへと並べていた。
軽く炙っては、同じく野菜をすりおろして作ったタレにつけて食べる。
このタレが予想外に美味しかったようで、一人で抱え込むように、黙々と食べていた。
(簡単な作りのタレなんだけどなぁ…まぁ、気に入ってくれたみたいで嬉しいけどね)
さりげなくルナが作っていたけど、あのタレのレシピは、前世の私のオリジナルだ。
醤油にお酒、リンゴに鷹の爪、ニンニクと生姜とネギ、胡麻をフードプロセッサーやミキサーで粉砕する。
今回はりんごが春なので存在しなかったから、リンゴジャムで代用してしまったのだけど。
自作のわりに、下手な焼肉のタレよりスパイシーで美味しくて。
何より野菜にもよく合うから、タレなのにサラダのドレッシングにしたりもするくらい、使いまくってたレシピだった。
(まさか、現世でも使うとは…思ってもなかったな)
その他にもネギ塩ダレやレモン、味噌ダレなんかも…ってこれ、ほぼ私が前世で使ってたレシピじゃないか……。
「エル、魔物の肉は、そんなに硬いんだ?」
「ユージアも野営したこと、あるんだろ?」
『ものすごく硬い』と、エルネストが軽く頷くと、ユージアを見上げる。
そりゃそうですよ。
今食べてるお肉は牛の『ミスジ』と呼ばれる部位で、肩肉の一種なんだけどね、肩甲骨あたりの内側にあって、とっても柔らかくて旨味も強くて、焼肉では喜ばれるんだけど、1頭から3キロ程度しか取れない希少部位です。
まぁ、本当は焼肉じゃなくて、ステーキや、端の硬い部分は煮込みに使おうと思ってたらしいのだけど。
急遽、バーベキューの主役になってしまった。
「あるよ?……野営で肉は、食べなかったけど」
「カイみたいに菜食なのか?」
「あ…いや、誰かを追跡しながらの野営が基本だったから、火を使えなかったんだよ」
「……狩りの『行き』みたいだな。『帰り』は火を使うけど。『行き』は獲物に気づかれないように、火を使わない」
「ああそうそう、それそれ。僕の場合は、獲物が『人』だったってだけ……あ!…ごめん。怖いよね」
さらりと、暗部にいたころの話をしてしまって、エルネストがびっくりして軽く目を見開いたのに気づき、会話を止める。
「いや、後学にもなるだろうし、話しておけばいい」
今までずっと無言だったゼンナーシュタットが口を開くと、ちょっと困った風に笑いながら、ユージアは話を続けていく。
「ん~…食事中にする話じゃないような気もするんだけどなぁ。まぁ、そうやって相手に悟らせないようにして、狩るんだけどさ。それもいつ襲うのか全部指定されててね。それが終わるまでは、火は使わない。……もっとも、終わったらダッシュで帰るから、そもそも火を使う野営自体をしない」
「帰路は絶食?」
「いや?僕は隙を見て、果樹なんかを失敬してたけど」
「それはそれで凄いな……」
「最初はね、食べれる果実の見分けがつかなくて、渋かったり酸っぱかったり、お腹下したり…ね。おかげで植物に詳しくなっちゃった!」
ふわりと首をすくめながら笑う。
植物に対する知識は全て独学……つまりは誰も教えてくれなかったってことだ。
知る、学べる環境ではなかったってことで…。
そんな環境に長らく置かれていたと思うと…聞いていて切なくなってしまった。
「まぁ基本的に僕は、実行犯というよりは、見張り的な感じだったから」
そんな顔しないで。と、私の頭を撫でてにこりと笑う。
(実行はしていなかっただろうけど、見張りなんだから、一部始終見ていたのでしょう?)
思わず、その言葉が口から出そうになって、必死に止める。
これこそ、ご飯中に話す内容ではない。
「……公爵邸襲撃の時は、ゼンもセリカもいたし…どっちも抵抗がすごくてね。焦って後から来たセグシュ兄さまに切り掛かっちゃった…」
しょんぼりと、添えられた一言に、どう返したら良いのか分からず、ただ黙りこくるしかなかった。
でも、その攻撃があったからこそ、ルークにユージアの生存が伝わって。
……代わりに、セグシュ兄様とユージア自身が死にかけたわけだけど。
やってしまったことは許されることではないけど、それをきっかけに結果としてはユージアにとって良い方向へと転がった。
良かったね!と素直には口に出しては言えない状況だけど、ユージアもセグシュ兄様も、助かって本当に良かったと思ってる。
******
「うわっ…なんだこれ。これはまた……派手に弄ったなぁ」
「良い匂い…楽しそうだね」
不意に大人の男性たちの声が響き、子供たち全員が飛び上がる勢いで、びくりとして、固まる。
直前までは楽しく、バーベキューをしてたんだけどね。
『避難所』の出入り口となっている、木製の立派なドアへと視線を向けると。
「…あ……おとしゃま」
あ、噛んだ。
そして、部屋にいた全員の時が止まった。
『大人がいないから』ちょっと好きにしても良いよね?といじってしまった内装だったからね……。
全員が『やばい』という表情で固まっていたのだろう。
遠目に燃えるような赤い短髪が、ふるふると小刻みに震え始める。
「……ふ。あははははっ!みんな、なんて顔してるんだ?怒ってないから。…にしても、この内装は誰の発案だい?」
『みんな、です』
きょろきょろと天井、壁、そしてウッドデッキを覗き込むように周囲へと視線を漂わせながら、近づいてくる。
父様の後にはもう1人、金髪で同じくらいの体格の人影が見えていて。
「ヴィンセント…様」
「……ユージア。兄さまって呼ばれた方が私は嬉しいな」
ユージアの頭をぽんぽんと撫で、にやりと笑うと、ベッドにレオンハルト王子の姿を認めるや否や、颯爽と走っていく。
少し長めの金の髪で、白を基調としたローブ姿のヴィンセント兄様だった。
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