上 下
420 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?

420、満天の星と野営っぽいもの。

しおりを挟む



「タレが…うまいな」

『ふふふっ。美味しいって言ったでしょう?あくまで野営っぽい・・・だけだから。……逆に野営の場合は、このタレは無いし、肉も…ここまで美味しいのは珍しいと思うよ』

「……確かに。肉が柔らかくて、うますぎる」


 エルネストが、よほど美味しいのか、肉にかじりつきながら嬉しそうに顔を綻ばせている。
 一緒に、野営っぽい食事と聞いて、嫌な顔をしていたカイルザークは、色々な野菜を串に刺しては、コンロへと並べていた。

 軽く炙っては、同じく野菜をすりおろして作ったタレにつけて食べる。
 このタレが予想外に美味しかったようで、一人で抱え込むように、黙々と食べていた。


(簡単な作りのタレなんだけどなぁ…まぁ、気に入ってくれたみたいで嬉しいけどね)


 さりげなくルナが作っていたけど、あのタレのレシピは、前世にほんの私のオリジナルだ。

 醤油にお酒、リンゴに鷹の爪、ニンニクと生姜とネギ、胡麻をフードプロセッサーやミキサーで粉砕する。
 今回はりんごが春なので存在しなかったから、リンゴジャムで代用してしまったのだけど。

 自作のわりに、下手な焼肉のタレよりスパイシーで美味しくて。
 何より野菜にもよく合うから、タレなのにサラダのドレッシングにしたりもするくらい、使いまくってたレシピだった。


(まさか、現世こっちでも使うとは…思ってもなかったな)


 その他にもネギ塩ダレやレモン、味噌ダレなんかも…ってこれ、ほぼ私が前世にほんで使ってたレシピじゃないか……。


「エル、魔物の肉は、そんなに硬いんだ?」

「ユージアも野営したこと、あるんだろ?」


『ものすごく硬い』と、エルネストが軽く頷くと、ユージアを見上げる。

 そりゃそうですよ。
 今食べてるお肉は牛の『ミスジ』と呼ばれる部位で、肩肉の一種なんだけどね、肩甲骨あたりの内側にあって、とっても柔らかくて旨味も強くて、焼肉では喜ばれるんだけど、1頭から3キロ程度しか取れない希少部位です。

 まぁ、本当は焼肉じゃなくて、ステーキや、端の硬い部分は煮込みに使おうと思ってたらしいのだけど。
 急遽、バーベキューの主役になってしまった。


「あるよ?……野営で肉は、食べなかったけど」

「カイみたいに菜食なのか?」

「あ…いや、誰かを追跡しながらの野営が基本だったから、火を使えなかったんだよ」

「……狩りの『行き』みたいだな。『帰り』は火を使うけど。『行き』は獲物に気づかれないように、火を使わない」

「ああそうそう、それそれ。僕の場合は、獲物が『人』だったってだけ……あ!…ごめん。怖いよね」


 さらりと、暗部にいたころの話をしてしまって、エルネストがびっくりして軽く目を見開いたのに気づき、会話を止める。


「いや、後学にもなるだろうし、話しておけばいい」


 今までずっと無言だったゼンナーシュタットが口を開くと、ちょっと困った風に笑いながら、ユージアは話を続けていく。


「ん~…食事中にする話じゃないような気もするんだけどなぁ。まぁ、そうやって相手に悟らせないようにして、狩るおそうんだけどさ。それもいつ・・襲うのか全部指定されててね。それが終わるまでは、火は使わない。……もっとも、終わったらダッシュで帰るから、そもそも火を使う野営自体をしない」

「帰路は絶食?」

「いや?僕は隙を見て、果樹なんかを失敬してたけど」

「それはそれで凄いな……」

「最初はね、食べれる果実の見分けがつかなくて、渋かったり酸っぱかったり、お腹下したり…ね。おかげで植物に詳しくなっちゃった!」


 ふわりと首をすくめながら笑う。
 植物に対する知識は全て独学……つまりは誰も教えてくれなかったってことだ。
 知る、学べる環境ではなかったってことで…。

 そんな環境に長らく置かれていたと思うと…聞いていて切なくなってしまった。


「まぁ基本的に僕は、実行犯というよりは、見張り的な感じだったから」


 そんな顔しないで。と、私の頭を撫でてにこりと笑う。


(実行はしていなかっただろうけど、見張りなんだから、一部始終見ていたのでしょう?)


 思わず、その言葉が口から出そうになって、必死に止める。
 これこそ、ご飯中に話す内容ことではない。


「……公爵邸襲撃セシリアの時は、ゼンもセリカもいたし…どっちも抵抗がすごくてね。焦って後から来たセグシュ兄さまに切り掛かっちゃった…」


 しょんぼりと、添えられた一言に、どう返したら良いのか分からず、ただ黙りこくるしかなかった。

 でも、その攻撃があったからこそ、ルークにユージアの生存が伝わって。
 ……代わりに、セグシュ兄様とユージア自身が死にかけたわけだけど。

 やってしまったことは許されることではないけど、それをきっかけに結果としてはユージアにとって良い方向へと転がった。
 良かったね!と素直には口に出しては言えない状況だけど、ユージアもセグシュ兄様も、助かって本当に良かったと思ってる。






 ******






「うわっ…なんだこれ。これはまた……派手にいじったなぁ」

「良い匂い…楽しそうだね」


 不意に大人の男性たちの声が響き、子供たち全員が飛び上がる勢いで、びくりとして、固まる。
 直前までは楽しく、バーベキューをしてたんだけどね。
『避難所』の出入り口となっている、木製の立派なドアへと視線を向けると。


「…あ……おとしゃま」


 あ、噛んだ。
 そして、部屋にいた全員の時が止まった。


『大人がいないから』ちょっと好きにしても良いよね?といじってしまった内装だったからね……。
 全員が『やばい』という表情で固まっていたのだろう。

 遠目に燃えるような赤い短髪が、ふるふると小刻みに震え始める。


「……ふ。あははははっ!みんな、なんて顔してるんだ?怒ってないから。…にしても、この内装は誰の発案だい?」

『みんな、です』


 きょろきょろと天井、壁、そしてウッドデッキを覗き込むように周囲へと視線を漂わせながら、近づいてくる。

 父様の後にはもう1人、金髪で同じくらいの体格の人影が見えていて。


「ヴィンセント…様」

「……ユージア。兄さまって呼ばれた方が私は嬉しいな」


 ユージアの頭をぽんぽんと撫で、にやりと笑うと、ベッドにレオンハルト王子の姿を認めるや否や、颯爽と走っていく。
 少し長めの金の髪で、白を基調としたローブ姿のヴィンセント兄様だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

運命の番でも愛されなくて結構です

えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。 ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。 今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。 新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。 と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで… 「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。 最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。 相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。 それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!? これは犯罪になりませんか!? 心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。 難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。

処理中です...