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はじまりはじまり。小さな冒険?

415、それぞれの疑問と心配。

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「セシリアは…精霊の制御、上手くなったんだな……」


 フレアが消えたあたりを、じっと見つめるようにしてゼンナーシュタットが呟く。

 ゼンナーシュタットは今もレイの姿のままだった。
 自分の本当の人化か、もしくは猫の姿に戻らないのかな?と思ったのだけど、どうやら、いまだに謹慎がとけていなくて。

 一時的にレイの姿になることだけは、赦されたのだけど…基本的に人化はアウトなのだそうで。
 今、猫の姿に戻ってしまうと、レイの姿にすら戻れなくなってしまうのだそうだ。
 でも、明日も裁判に出席の予定だから……レイの姿じゃないと困るでしょう?
 なのでそのまま、レイの姿のままを保っているんだって。


「上手い?全然、上手くないよ?ずっと暴走してる。あえて言うなら精霊自体ルナとフレアが育っただけだよ」

「そうなのか?確かに暴走状態だけど。……問題は起こしてない」


 何の気無しにカイルザークとゼンナーシュタットの会話に耳を傾ける。
 暴走状態は……どうしようもないよね。
 うん、どうしようもないって事にしておいてほしいな。
 元々、シシリーむかしですら制御できていなかったんだもの。
 幼児こどもの私に、制御しろって言う方が無理って話だと思うの。


ライトぼくのもだけど、ルーク…の精霊に、躾しなおされてる最中だから」

「躾って……カイも暴走中なのか」

「久々に呼んだら、僕よりずっと育っちゃってたんだよ……小さくて、可愛かったのになぁ」

「過去形…か。…人化したのか?」


 一瞬、カイルザークの動きが止まったように変な間があいたあと、会話は再開する。


「うん……まぁ、そんなとこ。確かに、昔よりはずっと上手くいってるようには見えるけどね」

「そうか……」


 気のせいだったかな?
 どっちもそのまま穏やかに話は終了したっぽいけど、うん、ごめんね?
 うちの精霊に関して、どう頑張っても私は、彼らを超えれる気がしないのよね。
 ただ、迷惑はかけないようになってくれたら、良いかなとは思……いや、切に願う!


「さて、お互い確認しなきゃいけないことが増えちゃったかもね?」

「…は?何か…あった?」

「うん。僕にはあるの。ちょっと行こうか」


 満面の笑みを浮かべたカイルザーク…いや、この笑顔は営業スマイルの方の笑顔だ。
 にこにことしながら、手はしっかりとゼンナーシュタットを掴んで、引きずるように引っ張ってキッチンの奥、個室がいっぱいある廊下へと行ってしまった。






 ******






 部屋の入り口…『避難所』の玄関口、ふわりと、影の一部が盛り上がるように浮かび上がると、瞬時に人の子供の形になっていく。

 ルナだ。

 その両手には、10代の姿には不釣り合いな程に大きな籠が握られていて、たくさんの荷物が積み込まれている。


『ただいまぁ~。みんな!お腹すいてない?お茶は…大丈夫そうねっ!』

「ルナ、おかえり」


 気の抜けたような、ほのぼのとしたルナの声と、その格好に、ほっとする。
 何だろう……買い物から帰ってきたお母さんを見た感じかな?
 両手に荷物満載だし。


『うん。えっと……みんなは無事ね。向こうもみんな無事だから。あとね、裁判的なものは、また明日、続きを行うから、今日はここで一泊。明日は起きたら、そのまま裁判に行くからね……もちろん、みんなで、ね?』


 ソファーセットに集まっている人数を数えるようにした後、ちらりとキッチンの奥に視線をやって、人数の把握が完了したのか、ほっと柔らかい笑みを浮かべる。


『ま、僕は同行できないから、お迎えが来るから、それまでここで待機ね』


 小さく肩をすくめると、属性由来である漆黒の髪がサラリと揺れる。
 顔にかかってしまった髪を払うと、肩口から黒い蝶が青白い燐光を放ちながら飛び立っていった。

 ひらひらと、蒼白い燐光をほろほろとこぼし、軌跡を残しながら部屋を飛び回ると、その燐光を追うようにして部屋中の照明に火が灯り始める。
 日没を迎えて、薄暗くなっていた部屋が一気に明るくなり、周囲の景色がガラリと変わる。


「ルナは首輪とか…」


 大きな籠を持ち直して、キッチンへ運び込もうとしたところで、シュトレイユ王子の声に気づき振り向くと、にやりと笑う。


『あんなもの、僕には効きません。そもそも、実体化解いちゃったら落ちちゃうでしょ?レイ、心配してくれたの?』

「うん……」


 シュトレイユ王子に視線をやり、一瞬目を見開き、とても嬉しそうに笑むと、籠を持ちあげると、ぽつりと呟いて…キッチンへと歩を向ける。


『ユージアじゃあるまいし、僕には意味がないよ』

「そこっ!聞こえてるからね?!」






 ******






「兄さまの時は…みんながいてくれて気づけたけど、僕はどうしたら」

「ん~そうだなぁ。守護龍と一緒にいる!これが一番確実だね!龍ほど魔力が強ければ、魔道具マジックアイテムの違和感に気づけるから」


 キッチンの奥から、元気な声と共にカイルザークが戻ってきた。
 その後ろには、眉間をしわしわにして、何かを考え込んでいるふうなゼンナーシュタット。


「えっと……レイ。精霊に効かないのはね……あれは魔道具だから。魔力に作用するから、魔力の塊みたいな精霊なんかには一番効きそうだけど…『魔力に作用して実体を操る』っていう効果だから、操るべき実体を持たない精霊には、効果がない」

「じゃあ……ゼンにも効いちゃう?」

「僕が抵抗できないほど、強いものであれば」


 霊獣は…実体を持つものと、持たないものがあるって聞いたことがある。
 ゼンナーシュタットは…卵から孵ったって言ってたもんね。
 実体がある霊獣ってことになるのかな?

 空飛んじゃったり、そこそこ大きくなったり、変身までできちゃう子だから、もし、操られてしまった場合。
 しかも、それが私たちと敵対するように仕向けられた場合……うん、ゼンナーシュタットに勝てる気がしない。

 ちょっと怖いなと思うのと、絶対にそんな敵対するような状況にならないように、気をつけなければならないことを…しっかりと胸に刻み込んだ。


 そして…そんな会話で、どんどん沈み込んでいくシュトレイユ王子に、ルナはにっこりと笑みを浮かべると、視線を合わせるように覗き込んで、その柔らかな金の髪を撫でる。


『当面は…みんな一緒に行動することになるだろうから、大丈夫。……騒ぎが落ち着いてからが…心配?』

「うん……」

『ふふっ。よく思い出して?勉強会が始まってるから、毎日みんなと一緒でしょう?心配なことなんてないよ。大丈夫』

「そっか…毎日、会えるもんね!」


 沈みきっていたシュトレイユ王子の顔に、ぱっと大輪の笑みが咲いた。
 シュトレイユ王子が、一番子供らしいというか、とても表情が豊かでどうにも和んでしまう。

 ……って。シュトレイユ王子ってば、セシリアわたしの同級生になるんだから、可愛いって和んでるのはおかしいのか!


(素敵!とか、格好良い!とか…そこら辺で考えないとダメなんだっけ?)


 でも、なんかそのどちらの表現にも合わない気がして…困る。
 やっぱり、可愛くしか見えないし。
 可愛すぎて、可愛い以外の言葉とか、出てこないし!
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