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はじまりはじまり。小さな冒険?
413、避難した先に。
しおりを挟む真っ白の世界から、徐々に視界が復活していく。
「あ、ゼン忘れた…」
「いるよっ!」
シュトレイユ王子の呟きと、焦ったようなゼンナーシュタットの返事とで、ちょっと笑ってしまったのだけど。
相変わらず私とシュトレイユ王子は、ユージアの小脇に抱えられたままなんだけど、すぐそばに父様もいるし、恐怖心はなかった。
「ここは…ああ。良い判断だ、レイ」
「そっか『避難所』か!」
父様とユージアの声に、ほっとする。
ここなら…入ってこれる人たちが限られるから、あの場にいるよりもずっと安全だ。
あまりにも目眩しに使われた光が強すぎて、いまだに視界が緑色というか白い感じでよく見えないのだけど、ここは室内のようで。
ぼんやりと見え始める景色には、大きな窓がたくさん。
窓の外には薔薇が咲き乱れている。
ユージアも安全が確認できたのか、小脇で降ろして欲しくて、じたばたしていたシュトレイユ王子をそっと降ろす。
「兄さま…兄さまは…っ?」
「無事だよ。呪いのようなモノと頑張って戦ってたから、少し疲れているだけだ。寝かせて休ませてあげよう」
「よかった…です」
父様がにこりと笑みを浮かべると、ベッドへとレオンハルト王子を運んでいく。
声も聞こえていたので、意識はあるみたいだった。
レオンハルト王子をベッドに寝かせ、シュトレイユ王子に任せると、父様はこちらに戻ってきた。手には何かが握られている。
「ユージア、これは見たことは、あるかい?今までのものより、かなり完成度の低いもののようだが……」
「無い、ですね……」
小さく首を振ると、ぎゅっと私を抱える腕に力が入る。
同時に、ユージアの抱っこから…逃げそこなったことに気づいたわけだけど。
……まぁいいかな。この状態がユージアの精神安定剤なのであれば。
(本当は裁判の話以外では、完全に『隷属の首輪』そして、教会関係の話からユージアを遠ざけたい。早く終わらせてしまいたい。もちろん罪を償わせるのは絶対だけど)
そのためとはいえ…古傷を抉るようなことを、繰り返すことはしたくない。
古傷といえば……私の魔法で治ってなかった、あの古傷も、いつか治してあげたい。
父様はユージアの頭をぽんぽんと軽く撫でると、ゼンナーシュタットのそばに行き、同じように『監獄』で見かけなかったか?と確認していた。
私とゼンナーシュタットが『監獄』で見た、見つけた『隷属の首輪』は、ユージアの首についていたものだけだったと思うのだけど、他にも落ちてたのかな?
『みんな!おかえりなさい!』
キッチンから、底抜けに明るいフレアの声とともに、ひょこりと金の髪の頭がこちらを覗き込んでいた。
フレアはカートにお茶とお菓子を乗せて進みつつ、軽く手をあげると、以前『避難所』を使った時のような配置でソファーセットが姿を現した。
そちらにかけるようにと、みんなを促しつつ、お茶の準備を始める。
『ルナが状況の確認と、みんなの無事を伝えに行ってるから…安心してね』
「動きが早いね…」
『そりゃもちろん!色々な事態に備えておくのが、デキる大人なんでしょう?』
「何をどう教わってるんだか……」
ジト目になりつつあるゼンナーシュタットと、フレアの会話に少し和みつつ。
風の乙女に本当に何を教わってるのかと、ちょっと不安になる。
(……風の乙女はルークの契約精霊だからさ…変なことは教えないと思ってたのだけど)
どうも主人と違って、とても活発というか…不思議な感性の持ち主のようなので、最近少し不安になってる。
『冗談はともかくとして…今日の司法の建物さ…精霊たちは立ち入り禁止になってるんだよね。まぁ無理して侵入する必要も無いんだけどさ』
「禁止なの…ですか?」
「ああ、罪人の出入りもあるから、基本的には精霊や妖精等の出入りができないようになっている。魔法もエリアによっては使用不可になってるね」
父様はエルネストの反応に『悪い人は、一筋縄ではいかないような者も多くてね』と、頷きながら答える。
裁判の最中こそ、脱走のチャンスだ!というのも、ままあることらしく。
そのきっかけになるような面倒ごとが起きないように、魔法を封じられているのだそうだ。
その延長上で、妖精や精霊の立ち入りも禁じられている。
「あれ……?僕たちは使えてたよね?」
「そうだな…罪人が立ち入るエリアは使用不可だが、基本的には、あの場所を含め、司法関係の施設全体が魔力半減のエリアになっている。」
ふと…裁判が始まる前の、シュトレイユ王子の魔法で、準備中の会場が騒然となった理由が分かってしまった気がした。
綺麗とか、素敵、という感情ももちろんあったのだとは思う。
ただ、それ以上に、魔力が半減になっているあの会場で、小さな子供がまともに魔法を使えてしまった事にも、反応したのではないか?
そう思うと、必要以上に目立ってしまったのでは?と背筋が寒くなる。
……教会関係者は、魔力持ちの、しかも光の属性持ちが欲しい。
そんな人たちに、わざわざ光の魔法を披露してしまったのではないか?
「ま、それでも今回のように魔道具を使われてしまうと、防ぎきれない場合もあるんだが……」
頭をわしわしと掻きながら『対策を考えないといけないんだけどね』と、ポツポツと説明してくれている父様を見上げつつ。
あの場で魔法をご披露してしまったからこそ、今回の騒動が起きてしまったのでは?とも思えてきてしまうと、あれもこれもと心配事が止まらなくなっていく。
『……アルフレド様、会場の確保、完了したようです…戻られますか?』
「ああ、頼む。…みんなは迎えが来るまで、ここにいるように。いいね?」
フレアに話しかけられて、一瞬考え込むような仕草をしたあと『何か気づいたことがあったら教えてくれ』というと、テーブルにチェーンのちぎれたアクセサリーを置いて、父様は『避難所』を後にした。
少しの間、席にいた全員がそのアクセサリーを注目したまま、沈黙。
あまりの雰囲気の悪さに、レオンハルト王子の休むベッドへと視線を向けると、心配そうにそばにいたはずのシュトレイユ王子が、椅子に座ってベッドに突っ伏すようにして、眠ってしまっていた。
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