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はじまりはじまり。小さな冒険?

408、故郷への想い。

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「そうだよ。変態親父うちのおやが言われた場所を見に行ったけど…里なんて存在してなかったって。……打ち捨てられた里の跡ならあったそうだけど」

「それは……」


 エルネストがびくりとする。

 まぁ…カイルザークの両親は…すでに鬼籍きせきの人なのは確定だけどね。
 だって、里を追い出されたこと自体が、1000年以上前の出来事なのだから。

 ……獣人の里に対する感情というのは、人族と呼ばれる私たちよりずっと強くて、自分の家族へ向ける気持ちと同等のものだと、聞いたことがあった。
 やっぱり、当時のカイルザークも…同じ気持ちになったのだろうか?

 シシリーわたしは、どうだったのかな…?
 覚えてないや。


(…ん?……んんん?…そもそも、どうやって魔導学園へ来たんだっけ?!あれ…ちょっと記憶があやふやかも)


 あれ?あれれれ?と、なってきたところで、エルネストの反応を確かめるようにゆっくりと、ゼンナーシュタットが紅茶のカップをテーブルに置くと、すっと笑みが消える。


「君たちの種族にとって、その髪の色が。性質が。そこまで…彼らが里を捨てるほどまでに忌避するような存在なのであれば、これ以上、元の保護者を追跡する必要もないだろう。そう判断して、捜索を切り上げてきたそうだ」

「……」


 グッと口を引き結んで、俯いてしまうエルネストを、ユージアは軽々と持ち上げて、笑う。


「僕としては、その髪も瞳も、すごく綺麗だと思うんだけどなぁ。明るい場所にいると、セシリアとお揃いに見える時もあるし。キラキラしてて綺麗なんだよ?ほら!」


 豪華なシャンデリアの、クリスタルの装飾部分に触れそうなほどに高く、エルネストを持ち上げると『うん、綺麗!』と、嬉しそうに笑う。


「いや…それ、エルには見えてないからな?」

「……あれ?見えない?」

「見え…ないかな。僕には……ユージアの髪の方がきらきらに見えるよ」


 高く掲げるように持ち上げられたエルネストが、ユージアを見て、少し悲しげに恥ずかしそうに、笑う。
 その歪んだ笑みが……『籠』から帰るときに、ぽろぽろと泣いていたユージアと重なる。


(どっちも綺麗だよ。どちらも素敵だし。どうしたら伝わるか…わからないけど、もっと自信を持ってほしい)


 ソファーから2人を見上げる。

 ほのかな風で、きらりきらりと向きを変える、シャンデリアのクリスタル。
 そして間近に照らし出されている2人の髪も、自ら光を発しているかのように、きらきらと見えているのに。

 ……自分からは見えない。

 人の魅力なんて、そんなものだと思う。
 どう頑張っても自分では気づけない。悪い部分ばかり見えてしまう。

 いつか、きらきらが見える日が来るのかな?
 気づける日が来ますように。






 ******






「お昼ご飯の差し入れだよっ!!…って、あれ?みんな、どうしたの?」

「レイ…ここは静かにするところだから」


 背後から満点花丸の、とっても元気な子供の声が響く。
 その後ろから、静止を……少し疲れ気味なカイルザークの声が…って、あれ?

 獣人であるカイルザークまで…シュトレイユ王子に振り回されちゃったのかな?
 元気いっぱい満面の笑みで、お昼ご飯のカートを意気揚々と押す、シュトレイユ王子…やっぱり、かなり活発な子なのかしら?


「みんなお疲れ様……?なんか問題でもあったの?暗いね?」

「あれ…そんなに深刻な話はなかった気がしたけど……?」


『どうしたの?』と、シュトレイユ王子の陰から顔を出したカイルザークに、エルネストが突進していくのが見えた。
 すごい勢いだったので、突進にしか見えなかったのだけど、がしりとカイルザークの肩を掴むと、視線を合わせるように覗き込んでいる。


「カイっ!お前は…っ。お前の、親は…どうしたんだ?里は…」

「は…?どうしたの急に?…あぁ!僕の里ね?!無いよ?……母親はいたけど、ね。僕が里を追い出されたと同時に、里は無くなったよ」

「……っは?どういう…」

「だからさ、僕が追い出されたと同時に、移転だか解散しちゃったんだよ。だから『絶対に戻って来るな』って言われて追い出されたし」


 エルネストのそんな必死な剣幕に、きょとんとしていたカイルザークが説明を始める。

 嘘はついていない……ただ、カイルザークの場合、とても昔のお話になってしまうのだけど。


(……学生時代のシシリーわたしとルークは、カイルザークが里から追い出されるのを見越していた学園長の依頼で、迎えに行ったんだ。確か、この時がカイルザークとの初対面だ)


 あの時はまぁ、ちょっと遅かったらしくて、里の近くの森で…カイルザークとルークが追いかけっこをする羽目になってしまったのだけど。
 懐かしく思っている視線の先、エルネストの勢いは止まらない。


「母親は…っ?」

「知らない~。追い出されたのは僕だけだし」

「会いたいとは……いや、ごめん……」

「…ん?もしかして、ホームシック?……エルはこの国の南方の出身なんだよね?国内だもの。公爵の視察ついでにでも、連れて行ってもらえば良いんじゃないかな?セシリアも行きたがってたし…食事的に」


 急にトーンダウンして俯いてしまったエルネストに、首を傾げるようにしてカイルザークはにっこりと笑顔になると、エルネストの頭を背伸び気味にぽんぽんと撫でる。
 撫でながらチラリと私を見るわけだけど……まぁ、うん。
 食事的に、ぜひ行ってみたいです。

 思わず小さく頷くと、ふっと息を吐くように小さく笑う。


「まぁ、僕の場合は北方の…国内ですら無いから、難しいというか、行きたいとも思わないんだけど。エルが行きたいなら頼んでみたら?」

「良い…の、かな?」

「ん~……1人で勝手に悩む前に、聞いてみたら良いんじゃないかな?僕は、あんな里より、立派なライブラリがある、公爵家こっちで大満足だけどね」

「おまえなぁ……」


 カイルザークを見て『心配して損した!』とでも言い出しそうなほどに、全身で脱力しているエルネストに少し笑ってしまったのだけど、そうね、エルネストの里…話を聞いている限りでは、出入りが難しそうだけど。
 それなら近隣の街でもいい、エルが懐かしいと思える場所を、みんなで巡ってみたいと思った。
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