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はじまりはじまり。小さな冒険?

404、お茶会みたいな裁判です。

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 ちなみに、私たちのいる証人や被害者が座る席は、前世にほんのコンサートホールなんかによくある、バルコニー席っていうのかな?
 すり鉢状の施設の両脇の壁面にバルコニーのように2階席が用意されている感じで。

 その2階席には、品の良い、布張りのソファーのあるテーブルセットが置いてあって、ちょっとしたシンクも用意されている。


(……どう見たって、貴族仕様なのですよ)


 大体、使用人が同行するから、お茶とかお菓子とかね。
 そういうものが簡単に準備できるようになってる。


「ほら、セシリアも…そろそろエルネストを解放して?…こっちに美味しそうなお菓子があるよ」

「はぁい~」


 それぞれのバルコニー席が、それぞれで個室になっていて、この席は子供達だけという。
 ……名目上は、中身はともかくユージアが1番の年長さん!の、姿をしているし、セシリアわたしの執事なので、使用人が同行しているからなのか、子供だけで座っていても問題はないようだった。


「ねぇ、教会って……聖職者の集まりなんでしょ?なんで人身売買の元締めなんてやってるんだろうね?」

「え……元締め?…人身売買?」

「ああ、セシリアには…まだ難しいかな?」


 ゼンナーシュタットは、ふわりと優しげな笑みを浮かべると、この国での人身売買についての仕組みや、元締めという立場や言葉の意味を説明してくれた。
 そもそも、その全てがこの国では『違法にあたる』という結論へと導かれてしまうのだけど。


(……生まれたばかりのわりに、博識だよね?これが守護龍アナステシアスとの謹慎やらお勉強の成果なのかな?頑張ってるよね)


 一つ気になった、というより、前々から気にしていた事なのだけど。
『籠』に囚われていた男の子たちの姿は、なかった。
 時系列に合わせて、裁判が行われているのなら『もしかしたら会えるかな?』と、思っていたんだけど。

 ……それに関しては、また別件で裁判が行われたらしい。

 本当であれば…そこにも、私たちは出席しなければならなかったのだけど。
 私たちが出席してしまうことによって、同時に私たちの件まで、法的な判断を行なわなければいけない状況になってしまった場合『一人当たりの罪の重さが軽くなってしまう』

 それに、あの時、その場には保護者でもある父様と母様もいたわけで、証人としては大人たちの方が適役だということで、私たちの出席は見合わされ、彼らと会うことはなかった。


(元気なんだろうか?結局、お見舞い行けなかったなぁ。……あ、でも、思い出したくもない事件の関係者ってことで、そもそも会うことを拒否されてしまうかもしれないね)


 おっと…話がずれちゃった。

 つまりね、時系列もだけど、被害を受けたルートごとに裁判を行なっていくらしいのよ。
 なので、エルフの里の襲撃から始まってるユージアは、すでに何度か出廷している事になる。
 ……にしても、この会場内・建物の認識が異常に細かいんだよなぁ。
 どこから手に入れた知識なんだろうか。

 ちなみにね、シュトレイユ王子もカイルザークも、これの後の裁判に召喚予定なのでした。
 まぁ私たちも、引き続きここに留まる事になるのだけど。


(この後の裁判は、反乱の件だろうね。呪いもそうだし、授業中に襲い掛かられてしまったわけだから)


 それまでは、レオンハルト王子も一緒に、建物内を探検してるらしいよ。
 後ろに控えてるお付きの執事さん、そして警護の人たちが微妙にぐったりして見えていたのは…気のせいだよね?






 ******






 私たちがバルコニー席で、微妙にわたわたしている間も、裁判は粛々と進められていく。

 私たちの出番は…えーと。
 てっきりすぐ始まるのかと思っていたのだけど、どうやらまだ少しかかるらしい。
 どれだけ余罪があるのか……聞いているだけでも、気が遠くなる。


 どうやら今回の議題は、小さな子供に対する犯罪を…まとめているようだった。

 それにしても、ここの部屋は音がよく響く。

 魔道具マジックアイテムを使っているのだろうけど、そうじゃなくても音がよく響く構造になっている。
 このままコンサートホールとして使ってしまってもいいんじゃないかと思う位に、音響設備が整っていると思うんだ。


「よく聞こえるでしょう?魔道具マジックアイテムを使っているんだけどね、そこから下の音が通るようになってるんだよ!……オナラの音まで聞こえちゃう…っ!」


 いや、性能の話はともかくとして、最後の一言は、いらないからね?
 そんな音は、要らない。

 マイクとスピーカー的なものなんだろうね。


(しかし大人たちが必死に議論してるのに、お茶を飲みつつ、お菓子を食べつつ……のんびりしている私たちって、どうしたらいいんだろう?)


 すぐ自分たちの出番になると思ってたんだけど、全くもって話が進まず、というか、前置きのお話しが多すぎて、私たちの話までたどり着けない感じで。


「なかなか始まらにゃいね?」

「にゃ…てっ…!ふふっ。僕は、こういう時間があっても楽しいと思うけど」


 ゼンナーシュタットが、優雅にふわりと笑いかける。
 レイの姿だけどね!
 ほどよく肌で感じる程度の緩やかな風が、ゼンナーシュタットの…いや、レイのだけど、柔らかで優しい色合いで少し長めの金の髪を、踊らせる。


(シュトレイユ王子もしっかり王子様なんだなぁ…)


 可愛らしさに見え隠れする、男の子っぽさやその整った美しさに、ふと目を奪われてしまう。

 ゼンナーシュタットの申告によると、レイの姿は5歳児相当を考えての変身なのだそうだ。
 本人である3歳児いまの姿は、ただただ天使のように可愛らしい。
 それが4歳、5歳と成長するに従って、やはり男の子っぽくなっていくんだろう。

 将来有望っていうのは、まさにこの子のようなことを言うんだろうね。


「と、いうか。貴族って、こういう感じの時間の流れが普通なんじゃないの?キミたちは、何を基準に考えてるのか知らないけど、思考が殺伐としすぎてるからね?」

「殺伐……かぁ。それでも僕には充分平和だけどねぇ」

「そうか?」


 ユージアがにこにことポットから紅茶を注いでいく。
 受け取ったゼンナーシュタットは、ジト目になりつつ紅茶を口に運んでいく。


「……どこにいても、僕には…殺伐としてるよ…」


 ぽつりと呟くエルネストの声を、耳が拾う。


「あ…エルが帰ってきた」


 どこからっ?!
 思わず突っ込みそうになるのを抑えつつ、裁判の内容に耳をすます。
 視界には、ほっとした笑みを浮かべて、エルネストにもお菓子と紅茶を勧めていくユージア。
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