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はじまりはじまり。小さな冒険?

388、妹と弟。

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 遠い目になりつつ、霧が晴れるかのように消えていく風の乙女シルヴェストルの姿を見送りつつ思った。
 手伝うとか言ってたけど、絶対にお世話になりたくない。
 関わり合いになりたく…ないと思った直後、背後で、ごす。と何かが落ちた、鈍い音を耳が拾う。


「んぁ…?んん~っ!良く寝たぁ……。今、精霊来てなかった?」

「……おまえ、微妙に鈍くて鋭いのな」


 毛布でミノ巻き状態で床に落ちているカイルザークが見えた。
 流石に、ベッドから落ちたということには気づけたのか、毛布の塊がもぞもぞとのたうっている。
 ……何度毛布をかけ直してやっても、すぐに蹴っ飛ばしてしまうし、かと言ってそのままにしておくと、寒いのか小さく縮こまって寝ている。
 何度か繰り返して掛け直した結果『蹴れなくしてしまえば良いのか!』と『腹さえ冷えなければ大丈夫かな?』と、いう事で、腹のあたりで、ぐるぐる巻きにして固定をしておいたのだった。
 まぁ、寝相の悪さから、今度は全てを巻き込んで毛布の塊になってしまったようだけど。


「んん?龍も来てたよね。……でも怖く無い」

「単なる無謀か」


 毛布の塊の両サイドから毛が見えて……どっちが頭なのかと、思わず眺めていると、ぷはっと言いながら脱皮でもするかのように、毛布から這い出してきた。
 片方はしっぽの毛だったらしい……。
 丸まったままの毛布を、ベッドに放り投げて髪を手で撫でて整えながらこちらへぴょこぴょことやってくる。


「違うよ!怖く無いし!」

「はいはい……」


 確かにこいつは怖いもの知らずだよなぁと、遠い目になりつつ返事を返す。
 こんな、軟禁になるまで脱走を繰り返すわけだから。


「エルぅ~遊ぼうっ!お散歩行こうよ!」

「……誰のせいで、閉じ込められてると」


『避難所』から帰宅中から体調不良で眠るセシリアが心配なのか、単なる好奇心なのか、周囲が止めるのも聞かずにそばにいようとして、セシリアの部屋へと脱走を繰り返し、同室の僕ごと……軟禁状態にされた。

 人族では、子供が風邪をひくと、他の子にまでうつることがないようにと、接触を控えさせるらしい。
 寄り添えるのは大人だけ。
 カイルザークには、それがどうにも理解できなかったららしい。


「お勉強が必要なエルのせいでしょ?僕それ、わかるもん」

「は…?」


 ふん!と、軽く胸を張りつつ、生意気な言葉を吐かれて、思わずムッとする。
 そんな僕を気にすることもなく、真っ直ぐに課題の教本を覗き込むと、挿絵として描かれている簡易な地図に、指を当てる。


「それって、ここよりちょっとだけ北の国のお話だよね。産業では林檎とかね、葡萄でしょ~?加工品では酒類と魚介類が有名なんだよ。ワインなんかは、メアリローサでも高級品として出回ってるんじゃないかな~」

「……マジか」

「まじでしょ~?ねぇ!遊ぼうよ~」


「それでね、それでね……」と、すらすらと出てくる言葉に、目を丸くしながら次のページへと読み進めると、まさかの正解。
 びっくりしてカイルザークへと顔を上げると、満面の笑み。


「この地域を勉強するなら、先に流通が目についちゃうけど、まずは気候と土地の条件から覚えていくと早いんだよ」


 興味津々といった感じに、僕に向かって出しっぱなしのケモ耳がぴこぴこと揺れる。
 僕より一つ下のはずなのに、こうやって時折、とんでもない知識が飛び出す。
 そして、そうやって話す内容があまりにも一丁前過ぎて、どうにも腹が立ってくる。


「ムカつくから勉強する!1人で遊べっ!」

「えぇぇ~遊ぼうよ……!じゃ、教えてあげるから遊んで?」

「やだっ!!」


 ……新しくできた僕の妹と弟は、時々とても大人っぽい思考をする。
 そして、とても子供っぽい行動をする。
 中には、どう見ても、わざとらしいくらいに子供っぽい行動をしていたりもするけど、どちらが本当かなんてどうでもいい。

 僕としては、周囲に…主に妹と弟に大きく振り回されっぱなしの毎日で、ため息が止まらない毎日だけど、でも、その毎日がとても楽しい。

 だから……。

 魔力の高い子ほど、命の危険がある魔力熱。
 そんな、流行病で誰一人、欠けることがないようにと、強く願った。






 ******






「いや……まぁこうなるよね、うん」

「……薬、飲んだのになぁ」

「エルも魔力高いからね。多分これから一気に辛くなる」


 あの後、カイルザークのじゃれつきを往なしながら、勉強を続けていたのだけど、昼過ぎから急に寒気と発熱があって、ベッドに倒れ込んでしまった。

 風の乙女シルヴェストルの説明の通り、カイルザークはけろりとしている。
 どうやら過去に、すでに魔力熱を患っていたようで、1度罹ると抗体ができて、ほとんど悪化しないのだそうだ。

 ……悔しい。
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