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はじまりはじまり。小さな冒険?
387、side エルネスト。盗み聞き?いや、勝手に聞こえてるだけ。
しおりを挟むすでに、勉強よりも廊下の会話が気になってしょうがなくて…できれば僕も加わりたくて……セシリアの状況も気になるし。
どうしようかとそわそわしてしまう。
「セシリアのはすごく美味しかったから……ユージアも魔力豊富だし、どうだろうね?」
「食べたのかよっ!……僕は絶対に、絶対にかからないようにするっ!」
「治療法としては、一番効くんだけどね、あははっ」
2人の笑い声と、ぱたぱたとじゃれ合う足音……の他に、足速に接近してくる、大人2人の足音。
片方は、最近聞き慣れてきた、父様…アルフレド様の足音。
「……公爵家の、令嬢の、部屋の前で、キミたちは、何をしているのかな?」
「「お…お見舞いに」」
怒鳴りたい!という怒りを抑えて震える声になっている、アルフレド様と。
「無断侵入で、かな?」
「ユージアだって…」
メアリローサ国の守護龍のアナステシアス様だった。
アナステシアス様は、今にも歌いだしそうなほどに朗らかな、はずんだ声で、怒る。
とても怒っている。
その声はひどく穏やかで、優しさすら感じるのに。
怒りの魔力が、壁越しにでも感じることができて、背中のあたりがびりびりする。怖い。
「……ユージアはうちの使用人だからね……ただ、だからと言って、窓からの出入りも、どうかと思うけど」
「ご、ごめんなさい。でも、紋に呼ばれて……」
「セシリアが呼んだのか」
「はい……」
「それは…すまなかったね」と、アルフレド様の声が聞こえていた。
ユージア…は、セシリアと奴隷の契約を結んでいたらしいんだ。
その必要は無くなってもなお、契約破棄を嫌がっていて『花紋』という、奴隷とは違うけど、似たような契約に書き換えたらしい。と、いうのは聞いている。
今は奴隷ではない。
身分は『使用人』という形で、ガレット公爵家に。
まぁ、使用人になるために、養成所での寄宿生活を始めたばかりだ。
「さぁ、帰ろうか。キミは一般的なマナーどころか、謹慎の意味すら理解していないようだから。もう一度しっかり教えてあげないとね」
「……はい。ごめんなさい」
深いため息とともに、守護龍アナステシアス様の歌うように優しげな声が響く。
優しげな声なのに…やっぱり怒りのオーラがビシビシと発せられていて、拒否は絶対にさせない・できない空気を、醸し出していた。
「ユージアも、寄宿舎へ戻りなさい」
「アルフレド様、僕は契約主が生命の危機にあると、『紋』に呼ばれます……本当に、セシリアは大丈夫ですか?」
セシリアの熱風邪が、単なる風邪ではなくて『魔力熱』と聞いてしまった以上、この話題は聞かなかったことには、できない。
ただ、聞きたい内容に限って、すぐには聞こえてこない。
しかもそれぞれ、帰路につくのだろう、どんどん音が遠くなっていってしまう。
「……大丈夫なようだよ」
少しの間があったあと、ほんの少しだけ、怒りのオーラを薄くした、守護龍アナステシアスが答えた。
「大丈夫、だそうだ。ユージア、今回はキミも危ないから、一週間はセシリアには近づかないように。それと熱が出たら直ぐに王城へ来ること」
「……はい…って、王子たちにうつしてしまいそうなので、僕は治療院へ行きますよ?」
「いや……王子たちもすでに発症している。クロウディアもヴィンセントも……ハンスも王城にいるから、必ず、行くように」
「わかりました…では必ず……」
どうしても、しっかりと音を聞き取りたくて、無意識に人化から耳だけを元に戻していたところで、不意に不自然な風に気づいて、振り返ると……。
『面白いものが聞けたわね』
「うわぁっ!…あっ!精霊っ!!」
白いレースのワンピースを着た……最も苦手としている精霊が目の前に立っていた。
ふわりとスカートの裾をつかみ、カーテシーをする。
『お話しするのは随分久しぶりに感じるわね?……ハンスイェルク…ええと、廊下で怒られてるユージアの父親からよ』
そんな紹介の仕方をしなくたって、もう覚えてるよ。
キミは、ルーク先生の契約精霊じゃないか。
……本当は、そう言いたかったのだけど、言えばいうほど、ろくな事にならないのが容易に想像できたので、あえて黙った。
そうこうしているうちに、薬の包みを渡される。
「これは……?」
『それ、死にたくなかったら、今すぐ飲んで。それでも熱は出ると思うから、怠くなったらすぐに私を呼んで』
「どうやって……」
『助けて!でも何でも。好きに呼んでくれていいわよ?あなたの声は聞こえやすいの』
この反応から、この薬がさっきの会話にあがっていた、魔力熱の薬なのだろう。
『今すぐ』って言われてるということは、もう、僕もうつってしまっているのだろうか?
「わかった……あ、待って。もう1人いるんだけど」
不貞寝中のカイルザークを指差す。
ここ連日の魔力切れの影響か、不貞寝とはいえ、ぐっすりとよく寝ていた。
……まぁ、起きてたらうるさいし、勉強する時は寝てくれていたほうが、ちょうど良いんだけどさ。
『あら、その子は良いのよ。魔力熱の耐性を持ってるから。罹ってもくしゃみくらいしか出ないわよ』
「そうなのか。『ありがとうございます』とハンスイェルク様にお伝えください」
ペコリと風の乙女にお辞儀をする。
顔を上げると、目の前に満面の笑みを浮かべた彼女の顔が間近にあり、びっくりして跳び退こうにも両手で、頬をすくい上げるように抑えられて……逃げられなかった。
『うふふ。やっぱり良い子ね。セシリアも倒れちゃってるし、みんな忙しいものね。寝る時とお風呂、寂しかったら手伝ってあげるから、いつでも呼んでね☆」
「そ…それは呼ばないっ!」
『遠慮しなくて良いのに。そうそう!あのエルフの幼生も一度、お風呂手伝ってあげたのに、あれから近づくだけで邪険にされるのよねぇ……ま、また後でね♡』
被害者がもう1人いたことに気づいてしまったのだけど……聞かなかったことにしておく。
……ルーク先生、自分の息子にまで、何してるんですか。
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