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はじまりはじまり。小さな冒険?

385、辛いのですよ。

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 そういえば……うちの息子や孫たちも、親に怒られつつ、布団に押し込められて、寝ると治るパターンと、押し込められても余裕で暴れてけろりと治る、もしくは案の定だけど悪化するパターンがあったな……。

 前世むかしの事をつい昨日のことのように思い出したり、ふっと我に返ったりと、今の状況を考えているのに、前世での息子の幼い頃の顔が浮かんだり……頭の中の情報がごちゃ混ぜになってくる。


(いやいやいや……今の私セシリアまだ幼児だから!息子はいないから!今いるのは息子じゃなくて、兄弟たち、父様母様だからっ!)


 そういえば、セグシュ兄様がまだ滞在中だけど、一応、彼も病み上がり…と言うか、怪我を治したばっかりだからね。
 これで風邪までもらった困るという事で、隔離されてしまっている。


(婚約者のデビュタント間近だもんね……流石にうつすわけにはいかない…ていうかその打ち合わせのための休暇だったんだもの!)


 エルネストもカイルザークも……実は隣の部屋にいるんだけど、私の部屋には立ち入り禁止になってる。


(病原菌扱いだよね……しょうがないんだけどさ)


 馬車での帰宅中に、ルークにも指摘されていたけど、何故かルナもフレアも姿を現さない。

 契約主あるじの体調が悪い時は、負担にならないように、もしくは魔力の供給が足らずに、実体化することができなくて、姿を現せなくなる。
 ……まぁ、暴走中の精霊たちだし、ただ単に、どこかへ遊びに行ってるだけなのかもしれないけど。


 こちらの子供は特に、こんな、なんでもない簡単な風邪で亡くなってしまうことがある。


 回復魔法とか、便利な魔法がある世の中なのにね。
 ……前世にほんより薬も治療法も原始的で、致死率が高いんだ。

 それにしても…辛い。
 鼻は、かみすぎてひりひりするし、それでも常に鼻水がたれていて、呼吸するたびに、ずぴーっと音がする。
 鼻水は垂れてるくせに、詰まってて呼吸はできないし、まぶたも、ものすごく腫れぼったい。
 浮腫んでるのか、視界が狭くてまぶたがしっかり開いている気がしない。

 いよいよ熱が上がってきてしまったのか、ふわふわと……意識が朦朧としてきている。
 そんな中、ドアの向こうから、会いたいと思っていた人の声が聞こえたような気がして、必死に耳をすます。


「久しぶり。元気だった~?」

「……一応ね。相変わらず鼻が良いな」

「ん~。何のことかな?僕は呼ばれた・・・・の。良いでしょう~?」

「僕は…見舞いに来たんだ……それ良いな。僕もつけようかな」


 ドアの向こうから、人の気配と話し声が聞こえてきた。
 ……ユージアと、誰だろう?よく通る綺麗な声だ。

 そもそも、ユージアには当分会えないはずなのに。
 寂しすぎて、夢にまで見ちゃったのだろうか?


「キミの場合は必要ないでしょ?何、アホなこと言ってるの……」

「繋がりが……欲しいな…」


 軽く、小さなノック音とともに、ドアが開かれたのだけど……。


「あぁ…これはユージアは入室禁止だな」

「えっ……」


 ばたん、とユージアを締め出すようにドアが閉じられてしまった、と思う。
 朦朧としすぎて、はっきりと確認できなかったけど、しまったドアの前に立っているのは、1人しか見当たらなくて、しかもそれはユージアではない。


「開けて~っ!!」


 ユージアの叫び声と、どんどん!と、ドアを叩く音が何度か響いたが、急にピタリと音が止む。
 それを確認したかのように、小さく頷くような仕草をしたあと、踵を返すと、ユージアと同じくらいの背格好の子が、こちらに近づいてくる。


 耳が音を拾うのを拒否し始めていたのだけれど、近づいてくる音にはかろうじて、気づけた。


(いくらお見舞いだからって……こんなぼろぼろの状態は誰にも見せたくないんだけどなぁ)


 ぼんやり思いつつ、ベットからせめて上体を起こそうと、腕に力を入れてみるが…起き上がれない……。
 そうこうしているうちに、ベッドの真横まで来られてしまった。


「セシリア、お見舞いに来たよ……起きたいの?無理しちゃダメだよ?」

「おみまい…あり…がと……」


 視界の間近でさらさらと蒼銀の髪が溢れる様子が見えると、さっと背に腕が回されて、上体を起こしてくれていた。
 お礼と、挨拶をしなくちゃ……と顔を上げるとやっぱり見たことがない…そして、とても綺麗な子だった。

 天使のような、いや、一瞬本当に天使のお迎えが来ちゃったかと……素で思ったくらいに綺麗な男の子だった。
 そんな男の子が、私の顔を見て、嬉しそうに微笑んでいる。


「お薬、飲めるかな?」

「あとで…なら。のど…が、いたくて……」


 声、出てるのかな?伝わってる…かな?

 喋ったつもりなのだけど、口からは、かすれて空気のような音しか出ていなかった気がする。


(喋るのも辛い、というか喉が酷く痛くて、水を飲むのも辛いんです……)


 それを必死に伝えたかったのだけど、首を振ろうにも頭はくらくらで動かせなかった。

 というか、こんなぼろぼろな姿じゃなくて、もっと元気な時に会いたかったです……。


「ねぇ、これからどんどん辛くなっちゃうから、今飲もうね。お水準備するから……」


 そう言うと、サイドテーブルに置いてあった水差しに近づいて行った。
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