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はじまりはじまり。小さな冒険?
380、お風呂の野望と最終日。
しおりを挟む『……キミの兄さんの心配が当たったねぇ』
フレアの呆れた声が、頭上で響いている。
久しぶりの温泉で嬉しかったんだもん。
湯船の縁にぺチャリとへたれたところで、有無を言わさずに引き上げられて、タオルで一気に拭きあげられた。
そして、パジャマ用なのか、薄手のワンピースを着せられて、冷たい風の当たる場所に転がされる。
「面目ない……あぁここ、すずし…」
『はいはい、汗が止まったらベッドに連れて行くから、そのまま寝ちゃってもいいからね』
フレアの呆れ切った声が、遠ざかっていった。
お風呂に浸かりながら、考え事はダメね!
我に返った時に、のぼせが一気に来すぎてびっくりしたけど、本当にいきなり立てなくなっちゃったのよ。
汗が止まらなくなるし、くらくらするし…!
冷たい風がとにかく気持ち良くて、ぼんやりから、意識が遠のきかけた瞬間。
「うひゃあぁぁ……」
『あ、起きてた?ごめんごめん…くっくく』
突然、おでこに冷たいものが置かれて、反射的に変な声が出てしまった……!
フレアも、ごめんと言いながら笑ってるし、ひどい。
『汗を拭こうと思ったんだよ!冷たい方が気持ち良いかなって思って』
「うん…気持ち良い…ありがと」
おでこに乗せられていた、冷たいタオルを広げて、顔を思いっきり拭きあげた。
すーっと清涼感があって、どんどん眠くなる。
頭の後ろに手を差し入れられて、少し頭を浮かせるような体勢にされると、首の周りも拭いてもらえた。
魔力切れではなかったはずなんだけど、気持ち良すぎて、動く気力すら起きない。
『頑張った子には、ご褒美。でしょ?』
フレアの声と、優しく髪を梳かれるように撫でられている感触とで、徐々に意識が遠のいていく。
『いっぱい頑張ったんだから、おやすみなさい』
この言葉を最後に、私の意識は途絶えた。
私は、ちゃんと、頑張れたのかな?
******
『セシリア~ご飯だよ』
「ひゃ…は、はいっ!」
耳元で囁かれて、がばりと起き上がると……あれ、みんな起きて、というか私だけ寝てた?!
サロンを見渡すと、食堂へと入っていくエルネストの背中が見えただけだった。
あとはルナしかいない。
そういえば……囁いた声、ルナの声だったけど『朝だよ』とは言ってない!!
『ご名答!さぁ、着替えちゃおうか!』
満面の笑みでカーテン状の仕切りを閉めると、着替えの手伝いをしてくれた。
今日は生成りベースのアンダーに、淡い紫のオーバードレス。
空色のリボンタイが可愛らしい。
その上から、ドレスエプロンをつける感じ。
……の、前に。
「何これ?」
『何って、下着じゃないの?』
「いや、今まではいたことがないな?って」
最初に履くようにと、前に差し出されたのは白いハーフパンツのような、かぼちゃパンツのような、裾がひらひらとレースの可愛らしい装飾のついたものだった。
前世での記憶だとドロワーズかなぁ。
結婚式のドレスを着た時に、似た様なのを下着の上から履いた記憶がある。
これも下着の上からで良いのかな?
とりあえず首を傾げていると。
『ああ、このドレスを選んだの、誰だと思う?』
「んん?ルナじゃないの?」
『残念っ!キミの専属メイドのセリカだよ…移動は大人に抱えられてることが多いって、話をしたら「パンツ見えちゃうでしょ!」って。これ。パンツの上から履くヤツらしいよ?』
「おおぅ……なんて便利!」
便利、しかもふわっふわで、レースも可愛くこだわって付けられてるから、温かい!なんて機能的!
毛糸のパンツを思い出すわ。
流石セリカ!
まぁ私を抱える人は、もういな…いたわ。
セグシュ兄様……。
「……おーい。姿は隠れてても会話丸聞こえだから。パンツパンツ連呼しない!」
食堂からこちらへ向かって、ヴィンセント兄様から、ちょっと大きめの声で注意された。
『おっとうっかり』
「?!!!!」
食事を待ってる席にまで、下着の話が聞こえちゃってたとか、どんな羞恥プレイですかと……。
兄様、ごめんなさい。
『ああ、でもこれ…良いね!スカートがふわっとして可愛くなるね!』
「そう?」
ドロワーズを履いた上から、生成りのレースたっぷりのワンピースを被せられる。
すぽっと頭を出すと、目の前には満面の笑みを浮かべたルナの顔があった。
明るい青空の様なリボンタイをつけてから、オーバードレスを着せてもらう。
『うん、可愛いよ!』
「ありがとう」
くるりと後ろをむかされて、きゅっと軽く締め上げられる感覚があった。
多分、このオーバードレスも、背中あたりでレースアップになってるんだろう。
腰のあたりでリボン結びをされた。
さぁ、行ってらっしゃい!と、カーテンが開き、背を押される。
******
『セシリア、今度から着替えるときは無言でね。挙動不審になってる子が何人かいたから…はははっ』
食堂へと顔を出すと、開口一番、給仕をしていたフレアが、意地の悪そうな笑みを浮かべ、ちらりと王子たちの方へ視線をやった。
「これは失礼……」
視線の先では、レオンハルト王子が顔真っ赤にして、首をブンブン振っているのと、エルネストが両頬に手を当てて、俯いている。
カイルザークは……むしろ呆れ顔で、頭を抱えるようにしていた。
同時に、ぶほぉ!と、セグシュ兄様の吹き出す音が聞こえたけど、気にしないっ!
「しっ…失礼って…っふ。いっちょまえすぎてっ…ふ…」
「セグシュ…少し落ち着こうか?咽せるよ?」
ちなみにシュトレイユ王子は、周囲の反応が面白かったのか、辺りをキョロキョロしながら、にこにことしている。
……元気そうだ。
『さぁさぁ!今日のご飯は……最終日だからねっ!レオンハルト王子のサンドイッチとセシリアのシラス丼と、エルネストのカルパッチョと……カイルザークのお野菜山盛りっ!』
それぞれにリクエストを聞いてあったのか、みんな違う料理が並んだ。
……カイルザークはブレないな。
まるでウサギの様に、サラダをもしゃもしゃ食べている。
ヴィンセント兄様とセグシュ兄様には、焼きたてのパンと、スープ類…という、メアリローサ国では一般的な食事になっていた。
いつもの食事が恋しくなったパターンかな?
ちなみにシュトレイユ王子は、おにぎりとレオンハルト王子が作ったサンドイッチを嬉しそうに食べていた。
お兄ちゃん大好きなんだろうなぁ。
兄弟が仲良さそうにしているのを見ると、思わずにやけてしまう。
「さて……フレアの言うとおり、やっと最終日だね。おやつを少し遅めにとったら、帰るからね」
わっと、一瞬にして花が咲き広がる様に、みんなの表情、そして雰囲気が明るくなった。
やっぱり、帰りたいよね。
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