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はじまりはじまり。小さな冒険?
379、精霊たちの趣味と思考。
しおりを挟む『う~ん、苦辛だからなぁ。アサツキちょこっとにして、大根おろし入れようか?』
山菜を甘辛く煮たやつを混ぜ込んでも美味しいんだよね。とか、ルナとフレアとで、食事について論議を始めてしまった。
随分、食事に詳しくなったんだなぁ。と、湯船に浸かってぼんやりと眺めていた。
精霊や妖精って、本来、食事は必要じゃないからね?
あえて言うなら、魔素や魔力が主食であり、ご馳走だから。
食べるにしても、好奇心からのおやつ程度のはずなんだけど……。
『大根おろしもなぁ。そこそこの保存技術があるけど、それでも薹立ってるのが増えてきてるから、高騰中なんだよね。ま、時期的にも食べ納めってところだけど』
『いや……それだけ大根おろしを使うなら、シラスをお願いしてこようか?今なら明日の漁の準備に、間に合うんじゃないかな?』
「シラス?!食べたい!!」
シラスと聞いて、思わず反応すると、嬉しそうにルナが笑う。
この前のシラス、本当に美味しかったんだもん。
『お、じゃあ決まりね。間に合ったら、明日はシラス丼にしてあげる』
「ありがとう!」
『食べたがってたもんねぇ』
『じゃあ、途中で悪いけど、お願いに行ってくるよ』
すーっと、ルナの姿が石張りの床に沈み込み始めてしまったので、焦って声をかける。
「そうだ!こっちも話が途中で終わっちゃってたけど『避難所』の私の個室、明日、見にいけたら部屋割りしようね!」
『『ええっ!本当に個室くれるつもりだったの?』』
もともと分けてあげるつもりだったんだけど、話そびれちゃってたもんね!と、言おうと思ったんだけど……ルナもフレアもあまりにびっくりしたのか、見事なまでに2人でハモりながら同じ言葉を言うものだから、笑ってしまった。
「ふふふっ。二人とも、頑張ったご褒美…欲しかったんじゃないの?」
『『欲しい!…けど、良いの?』』
……まだハモってる。
そんなに予想外だったのかな?
驚いた仕草まで、同時に両頬に手を当てて…といった感じで、笑いが止まらない。
今までずっと、しっかりと…今回に至っては『避難所』のキッチン・食料の管理と食事の提供を完璧にこなしていた子たちには見えない可愛らしさで、どうにも笑いが止まらない。
「部屋の操作とか権限はセシリアの部屋の一部って扱いだから、私しか操作出来ないのだろうけど、言ってくれたら模様替えくらい、いくらでもするし」
しっかりいたずらする割には、こういう部分は遠慮するんだよなぁ。
契約で縛られてるとはいえ、暴走状態なんだから、そういうところも多めにごまかせちゃうだろうに。
基本的に、私の持ち物に手を出すような事は、しない。
「あ、でも、セシリアが死んじゃったら、部屋、無くなるんじゃないかなぁ?そうなっちゃったら、お部屋が消えちゃう前に、自分の荷物を回収しておいてね?」
多分だけど、亡くなった王族の部屋は、処分されてると思うんだ。
いくら施設型の魔道具とはいえ、部屋数が無限ってわけじゃないだろうし。
ただし、星詠みの姫と呼ばれていた、クロウディア様の部屋は特別なんだろうね。
彼女の嫁入り道具ですもの。
それに……クロウディア様が見せてくれた、過去の光景が本物であるならば、彼女のご家族…中央公国の王族だったご家族は、まだ生きてる。
『早々に死ぬようなことを言わないで欲しいな…探すの大変だったんだからね?フレアは動けなかったし……』
腰に手を当てて、ふん!と、怒ったように軽く息を吐くフレア。
少し傾げた拍子に、ホワイトゴールドの髪がふわりと揺れる。
そういえばそうだった、カイルザークを守ってくれてたんだものね。
何故か卵になっていたけど……。
フレアが封印状態で動けない間、ルナだけで必死に私…の生まれ変わりを、探してくれていたらしい。
それは、ちょっと嬉しくもあり、それだけ長く縛り付けてしまったのだ。と、申し訳なくなる。
普通なら、精霊との契約は死んだら終わりだ。
死んだ時点で、契約解除ができるようになってる。
ただ、ルナもフレアもそれが一般的だとは知っていても、継続を選択してくれたようだ。
ただ、契約を交わした相手は魂は一緒だとしても、前世の記憶の有無はもちろん、身体が別物になっているわけだから『再契約』という形式を取らなければいけなかった。
だから、王城の精霊樹から、セシリアの魔力を嗅ぎ取ったときに、過去の記憶があるなら知っているであろう人物の姿を取って現れたのだという。
(とんでもない爆弾を振り撒いての登場だったけどね!タイミング的に、冷や汗だらだらのパニックだったよ……)
そして、ルナとフレアは双子の精霊だ。
根本的な力の部分は、どこかで繋がっているらしくて、別々の精霊としての働きができない。
……完全に切り分けることができないんだ。
だからどちらかの命の源である核石にひび割れが起きれば、そのひびは、繋がりを通して、もう片方にも及んでしまう。
逆にいえば、再契約と同時にフレアにも効力が伝わって『カイルザークを助けて!!』と願った、シシリーの命をかけた約束も果たせると安心したのに、なかなか迎えにこない。
私の気配を魔道学園に感じたのに、やっぱりこない……で、業を煮やしての卵持参の登場だったらしい。
……すっかり忘れてたとか、いえません。
「……探してくれて、ありがとう。でも、契約破棄しても良かったのよ?」
暴走してるくらいなんだから、むしろ主人がいない方が、契約に縛られないようが、楽しく暮らしていけるんじゃないかと思う。
そんな私の考えとは裏腹に、フレアは暗めの紫色の相貌を歪めて、ニヤリと笑う。
『イヤだなぁ、僕はこの関係を気に入ってるんだよ?キミは僕たちが暴走していても、絶対に押さえ付けない。……だから、また一緒にいたいと思った。楽しかったし』
「そんなものかねぇ」
『そんなものです。はい、ジュース』
目の前に、どこから準備したのか、氷のたくさん入った、レモン水が渡された。
あまりの冷たさに、頭がくらくらそしてしまった。
『そろそろ一度出た方がいいよ?のぼせてるよ』
「……ちょっと気持ち悪いかも」
『言われる前に気づこうよ……』
……単にのぼせてるだけだったっぽい。
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