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はじまりはじまり。小さな冒険?

335、スッキリだけどスッキリしない。

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問答無用で吐かされて、体調はスッキリだけど、気分はスッキリしない……。
地上の様子を見たくない。
あ、本心はこれだ。
うん、吐き散らかしちゃったからね!

ルナが回収魔法を発動し終えたのか、こちらへ振り返るとほっとしたように笑う。


『お腹スッキリしたね』

「うん…!」


そう言いながら、ルナがルークへと手を伸ばす。
ルークからルナへと渡される私。あれ?ルークの腕からすんなりと解放された。
まぁ次はルナに抱えられてるのだけど。


『頑張ったよ~!』


ルナは、父様がいつも私にするように、ギュッと抱きしめると頭に頬を押し付けるようにしている。


「こうやって見てると兄妹みたいだな!」

「いや…あれは……」


背後から父様とルークの会話が聞こえた。

同じようなことを最近、大人たちからされまくっているような気がしてるんだけど…まさかルナにまで?!と思ったら、やっぱり違った。


『あぁ、生き返る~っ!』


ルナの嬉しそうな声とともにがくりと、身体の力が抜けていく。
集中力が切れたような、視界の焦点をあえて遠くに、ぼーっとしていたくなるような、すべてにおいて脱力していく感覚。


「まさか……」

「…魔力を吸われてるだけ、だな」


呆れ顔のルークと、眉間を手で押さえてる父様。
眉間のシワシワ復活だろうか……?


「可愛がってるのかと思ったのに…」

『……?ああ、大人がみんな、セシリアにやってるから、なんでかな?って真似てみたんだけど、これ良いね!ふわふわ!』


急激にガッカリ顔になっていく父様と、表情がぴくりとも動かないルーク。
って、ルークは私が魔力を吸われるのを知ってて、ルナに引き渡したよね?


「ふわふわって……?」

『うん、ふわふわ。柔らかくて良いね……頑張るから、また後で魔力分けてね』


満足そうに顔を綻ばせているルナ。
頑張ってたし、魔力を吸われた脱力感がなんとも言えないけど、まぁ良いかな。


「うん」


『宝』の回収のための、瘴気の分離の作業が、かなりキツいのだろうね。
離れていても少量ずつなら、相互に魔力のフォローができるのに、少しでも効率がいい至近距離での方法をとるなんて。


なごみかけたのに、内情を知ってしまったら、美味しそうに食われてるようにしか見えなくなった…」

「……間違ってはいないな」


父様はしわしわにシワがよった眉間を押さえて、唸っていた。

べつに和んでても良いのに。
無理やり奪われてるわけじゃないし。


(助け合うのが基本だもの、頑張ってるのを知っているから、私は全力で応援するよ?……今の私に、他にできそうな事もないし)


ルナの肩口から、その背後で瘴気と分離され、ほろほろと崩れ落ちながら回収されていく『宝』の様子を覗き見る。

瘴気と混ざり合って魔物化していた『宝』は、既に魔物の原形を留めていない。
遺骸や生物であったと、わかるような形状や色もしていなかった。
なので、怖さも、気持ち悪さも…恐ろしさも何も感じなかった。

ただ、真っ黒な綿花。真っ黒な綿菓子、かな。

それが端からほろほろと一口くらいの小さな欠片になって、地面よりさらに深く深くと沈み込んでいく。

そんな綿菓子の上に、薄暗い陽炎のようにゆらりと視界を歪ませる黒い煙。
……これが瘴気ね。
ルナや闇の精霊は『宝』を取り返すことで精一杯なので、瘴気を浄化できるほどの余力がない。

徐々に増えてくると、また高ランクへの変異や『宝』の魔物化が進んでしまうので、目視できるほどに瘴気が濃くなってくると、ヒヤヒヤしてしまう。

ただ、今回は守護龍のアナステシアスが軽く手を振る仕草をするだけで、何事もなかったかのように瘴気は霧散していた。
流石というか、なんというか……。

人化といって人の姿をとっているだけで、本性は龍なのだなと再確認してしまう。


(濃くなった瘴気を払うには、かなりの魔力や気力が必要なのに。それを埃を払うかのようにさらっとやってのける。とても凄いことなのに、全くそうは見えないくらいに自然にこなしちゃうのが、凄すぎる)






******






『……セシリアは『監獄ここ』の管理者なんだから、部屋をきれいにしろって命じてみたら良いんじゃないかな?』


ルナにぎゅーっと抱きかかえられながら、こっそりと耳打ちされた。

そういやそうだった、管理者なら色々設定いじれるんだもんね?
……本当に管理者なのかは、ちょっと謎なんだけど。


(ま、でも時既に遅しなんだけどね!既に『宝』の回収状況の確認のために、1階にいるわけだし。すぐ目の前に転がってる『宝』こそ、私が吐いた時に真下にいたわけで……)


ただ、不思議な事に、地上部に私の吐瀉物らしきものは見当たらなかった。
結構、盛大に吐いてしまったのだけど。
……臭いもなかったからね?!

多分だけど、魔導学園の建物にも使われてた、自動修復機能が働いているのだと思う。
ちょっとした傷や汚れであれば勝手に元の姿に戻ろうとする。


なんかもう色々と手遅れ感満載なんだけど、ひとまず腕輪に『クリーン』と命じてみる。
……反応なし。

『浄化』……反応なし。
『清掃』……反応なし。


「セシリア…『管理者権限の確認』もしくは『管理者一覧の提示』を」


ぐぬぬぬぬ…と、なりかけたところで、ルークから指示が飛んで来た。
そういやそうだった、部屋の掃除をしに来たんじゃないもんね!

気をとりなおして『管理者一覧の提示』と、言われた通りに命じると……ぶわりと腕輪をつけている私を中心に、大きく文字列が浮かび上がった。
システムの文字は全て古代語なのに対し、後から入力されたと思われる部分は、今使われている文字のようだった。
……つまり、私にはまだ読めない。


私が読めた部分は……。

・総責任者…読めない。
・設備管理者…読めない。
・施設使用者…読めない。
・出入り業者登録…読めない。
・登録者履歴…読めない……。

肝心なところが全て、読めない!!!


「下の方の『なんとか登録』に、ユージア…君の名前があるね」

「……そこは履歴だな。『登録者履歴』と書いてある。そこより上の欄が…関係者一覧だ」


……父様は、私の逆で…ただ、古代語も微妙にだけど、読めていた。
言葉の練習、頑張らないと、だ。


「セシリアの名が見当たらないな」

「あるぞ?一番下の項目だ……『技術提携』この責任者がセシリアにあたる」


ルークの指し示す場所には『技術提携』つまり、この『監獄』を構築するにあたって、いろんな人の技術を借りて作られていますよ!という表記で、その技術の部分に関するトラブルがあったときは『技術提携』してもらっている人に聞いたほうが早いよ!という……ね。


(つまり、電池で動くおもちゃを作る時に、電池と動力はそれぞれ他社のものを導入して作ったよ~という事。
だって、それぞれが得意分野で開発されたものだから、自社で1から開発するより短期間で低コスト、さらに高品質なものが使える!

その代わりトラブルが起きたときは、自社だけでは直せないから、自社開発ではない電池と動力部分に関しては、それそれのメーカーさんで修理担当をお願いしますね?というもの。


(まぁ、これだけ大掛かりな施設型魔道具アーティファクトになると、ほぼ全てが魔導学園の管轄なんだろうけど……)


事実、父様たちの視線の先にある『技術提携』の欄には文字ではなくて、魔導学園のエンブレムが描かれていた。
シシリーわたしには、とても懐かしくも誇らしいエンブレムだ。
学園で研究・開発された技術が長い時を経た今も、高度な技術として利用されているという証拠だ。

だからこそ……悪用されて人を苦しめるように使われてしまった施設で目にしてしまったことが悲しかった。
どうしてこんな事になってしまったのだろう。

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