上 下
329 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?

329、私も暴走して良いですか。

しおりを挟む



主人マスターの不利になるようなことをしてちゃ、ダメでしょう?


(暴走ってね、名前こそはた迷惑そうだけど、本当は『どちらが護るか』の力の確認のようなものなんだよね)


契約している以上、運命共同体のようなものだから、危険な目に遭わないように強い方がもう片方を保護する。これが基本なのよ。
だから、珍しいことではあるけれど、こうやって精霊の方が格上なのに契約ができてしまっているという例もある。
……相手を、守りたい一心でね。

表現で言うなら、精霊を『契約して使役する』のではなくて『契約して保護してもらう』そう言う意味で、格上の精霊から将来を見込まれての契約というのも存在する。

……ユージアが、そうやって契約できてしまえばよかったんだけどねぇ。
自らの命を削ってまで、ユージアを守ろうとしていた水の乙女オンディーヌだもの。
きっと素敵な関係が築けたと思うんだ。


『大丈夫ですよっ!カイ様は、ライトちゃんがし~っかりお守りしますからっ!』

「僕は、むしろトドメを刺されそうな気がするよ……」


自信満々のライトに比べて、遠い目のカイルザーク。
なんか、精神的というよりは体力的にも、文字通り疲れてるように見える。
勢いに押され気味というか…なんだろう?
やたらとフラフラしてる気がした。


『カイ様っ?!』

「ってライトは僕を『マスター』だったり『カイ様』だったり……呼び方が忙しいね?……カイで良いよ。みんなもそう呼んでるでしょう?」


ライトは、ぱっちりとした可愛らしいピンク色の瞳が大きく見開かれると、途端に泣きそうに頬を紅潮させてくしゃりと顔を歪ませる。


『カイさ…っ!カイ、大好き~っ!!』

「う、うわあっ」


感極まったライトに勢いよく飛びつかれて、カイルザーク思いっきり背後へと倒れ込んだ。……押し倒された感じ?
ライトにのしかかられたまま、立ち上がれなくてジタバタともがいてるのが見えた。


『確かに…トドメを刺されたねぇ。じゃ、先に行ってるからねぇ~』

「えぇぇぇ、助けてくれたって良いじゃない……」

『ちゃんと、ライトを見てあげる・・・・・と良いと思うよ。そのままなのも面倒でしょう?』


ほっといて良いのかな?と思ったのだけど、フレアは上機嫌で、今にもスキップでも始めてしまいそうな足取りだったし、素直に抱えられたまま食堂へと移動した。






******






「いただきます!」


ソフィア王妃は、シュトレイユ王子のそばで食べるそうなので食堂には来なかった。

晩ご飯は……まさかのちゃんちゃん焼き。鮭じゃなくて白身魚だったから、ちゃんちゃん焼き風、かな?
やたらと脂がのっていて、さらに盛られた野菜やキノコと味噌ベースの調味料とで混ざり合って、すごく美味しかった!
……ひと欠けしか貰えなかったけど。

他の皿には手のひらサイズのカレイがバター焼きにされて盛られていたり、骨の唐揚げがあったり。
私の好きなものばかりで、泣きそうになった。
本当に、色んな意味で。

ちなみに私の雑炊も、これまた好物だったカレイの雑炊。
カレイの脂の甘みと旨味、隠し味に使われている生姜とがよく合っていて、絶品でした。

これもちょこっとしか貰えず……まだ食べれるよ!?食べたいよ?!


『……そんなに恨めしそうな目で見ないでよ。また作るからさ』

「作ってるの、ルナじゃん。仕入れもルナでしょう?」


給仕も配膳も手慣れた感じに済ませていくフレアと、その間はキッチンスペースに篭りっぱなしのルナ。
見慣れてきてしまってるけど、常に一緒じゃなきゃダメなルナとフレアが、きっちりと分担作業ができてしまっていることに少し驚きだ。


『まぁそうだけどさぁ。でも、食べすぎたのは僕のせいじゃないよ?』

「そうなんだけどね……」


食後のデザートにと、フルーツを配膳しつつのフレア。
私の分も持ってきてくれたけど、当然、小皿にちょこっと。

私の口へとひたすらにお菓子を運び続けたのは父様だった。


(…でも、今はいないから文句言えないし)


そうそう、ちゃんちゃん焼き風の白身魚もカレイだったそうなんだ。
触ると身が簡単に崩れてしまうから、スプーンで掬う勢いで、取り分けていた、あのすごく柔らかくて脂が乗ってて美味しかった魚!

今の時期、メアリローサの南方の海流には手のひらサイズの子供のカレイがたくさんいるそうなんだけど、なぜか稀に二回り以上の立派な体格のカレイが混ざり込むらしくて。
もうちょっと後の季節に獲れる『戻りカレイ』とか『花見カレイ』とか言われるような大人のカレイなんだろうけどね。


『食料の買い出しに行ったら、偶然に見つけてさ、思わず買ってきちゃった!』


そんな説明をしながら調理を終えたルナが、金の瞳をキラキラと強く輝かせて『好きでしょ?』と悪戯っぽく笑う。

ええ、好きです。
大好きですよっ!
この食べれないタイミングじゃなければ最高だったのに!!!
父様のバカあああぁぁぁぁぁっ!


(……ま、食べちゃったのは私だけど、無限に勧めたのは父様だもん!許すまじ)






******





食堂からサロンに帰る前に、今日の部屋割りの説と相談のようなものをした。
結局、昨日とあんまり変わらなかったんだけど。

ソフィア王妃もいるから、今日こそ各自個室に…と話がまとまりかけたのだけれど、むしろ王妃たってのお願いで、昨日と同じワンフロア状態の、男女は目隠し程度のカーテンがひかれただけになった。

解呪の魔法を使えるのがヴィンセント兄様だけであること、そして呪いの大半のフォローをしているのがセシリアわたしなので、何か…あってはほしくないけれど、急変等起こったときにすぐに対応して欲しいとのことで、全員同室になった。


「……お風呂、入りたいなぁ」


ポツリとエルネストが呟くと、きょとんとした表情でフィリー姉様が言葉を返す。


「あるわよ?」

「「あるの!?」」

「無いわけが無いじゃない。仮にも王族が使う施設なのよ?」


フィリー姉様は呆れた様子で…期待に目を輝かせているエルネストに教えている。
エルネストの隣にいたレオンハルトも同じく目が輝き出してる様子を見ると、王子も知らなかったんじゃないかな?とか思いつつ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

運命の番でも愛されなくて結構です

えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。 ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。 今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。 新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。 と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで… 「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。 最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。 相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。 それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!? これは犯罪になりませんか!? 心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。 難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。

処理中です...