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はじまりはじまり。小さな冒険?
322、精霊たちの好みと相性。
しおりを挟むライトが胸を張りながら嬉しそうに消えて行った辺りを、茫然と見つめたままに、カイルザークがため息を吐いた。
「はぁ、なんか…どっと疲れたよ」
いつもの落ち着き払った、にこにこ笑顔のカイルザークからは想像もできない表情で、笑いがこみ上げてしまう。
ただ、そう思ったのは私だけではなかった様で。
「ふっ…ごめ……あはははっ!ダメ…ふふっ。カイが末っ子だと思ったのだけど、今の精霊がカイの更に妹みたいに見えてしまって……」
可愛いのがさらに男女でペアでセットとか、やっぱり私が欲しいわ!とか、独り言が聞こえたわけですが。
フィリー姉様は婚家へ、カイルザークを持ち帰る気ですか?!
「そう見たら……可愛いかもだけど、うーん」
何だか微妙な表情のセグシュ兄様。
うん…まぁ、ルークの風の乙女と比べたのなら微妙かもしれないけど、珍しさと言う意味では光の精霊は珍しいのよ?
(ただ、格が違うからなぁ。確実に、格の差だよ)
ライトが幼稚園児くらいと例えるなら、風の乙女は役員とか幹部クラスのバリバリのキャリアウーマンだと思う。
ちなみにルナとフレアは…小学生くらいかな?
そんなちびっ子たちに、大人のお仕事を手伝わせようっていう時点で、無理があるんだもの。
「あら、セグシュ?精霊は個性的な子ほど、優秀なのだそうよ?」
「そ、そうなの?!」
母さまの指摘に、気分を取り直したのか今度は羨ましそうに、
なんかちょっと違う様な、あっている様な。
正確には個性的と言うよりは『人間らしさ』が強ければ強いほど、社会性を身につけている。つまり、社会勉強をしているから、優秀っていうのはある。
(低級であれば、周囲なんか気にせずに、好きなものの側をただ漂っていれば良いんだもの)
それが、周囲を見たい!自分以外の存在に関わりたい!と思うところから、精霊としての格が上がっていくもの、なのだそうだ。
「ねぇ、精霊との相性って……どういう基準なんだろうね」
「同じ趣味とか、気が合うからと思ったのだけど……違うみたいね」
ぐったりと机に突っ伏してしまったカイルザークを見て、クスクスと笑いながらもフィリー姉様も首を傾げていた。
その声にゆるりと耳を立てて、視線だけ恨めしそうにエルネストを見上げてカイルザークが呟く。
「それを言うなら……エルも風の乙女に好かれてるけど」
「いや、無理…怖すぎる」
風の乙女怖い!とエルネストまで即座に反応するものだから、もう、兄様達の笑いが止まらない。
「相性ってわからないな!僕も欲しいのに」
笑いの中で呟かれたセグシュ兄様の真面目な言葉に「精霊との、ご縁があります様に」と、願わずにはいられない。
素敵なご縁を。
……楽しいご縁でも良いけどねっ!
精霊の絶対数が少ないのと、そこからさらに相性の問題が出てくるからね。
だからこそ、なかなか会えないのだけど……。
******
「それにしても……本当に、可愛らしい精霊だったわね。生まれたばかりってほどではないけど、かなり若いみたい」
母様までもが、机に突っ伏して、うだうだしているカイルザークを優しく撫でながら、笑っていた。
「ごめんなさい…」
「あら、カイが謝ることなんてないのよ?あの精霊だって呪いの種類を見ただけで理解してしまうなんて、とても優秀な精霊だわ。カイは、とても良いご縁に恵まれているのよ……大切にしてあげてね?」
「はい」
ふわりと優しい笑みにを向けられて、カイルザークの少し嬉しそうな表情が見えた。
「しかし、困ったわねぇ…生贄付きだったとは」
「母…さま『生贄付き』だと、何が困…るの、ですか?」
「エル…?普通に喋っていいのよ?ふふっ。でも、敬語えらいわね」
母様は恐る恐る聞いている、エルネストに向けて微笑みかけていた。
そして、周囲の表情を確認するかの様に、くるりと辺りを見回すと、指先をジェスチャーの様に使いながら、小さくバッテンを作ると話を続けた。
「そうねぇ…まず『呪い』は禁呪だわ。……禁呪というのは、使っちゃダメっていう大人の決まりね。そしてその『禁呪の呪い』のさらに『生贄付き』と呼ばれるものは禁忌と呼ばれているわ」
「禁呪が『使っちゃダメ』なら、禁忌は『絶対にダメ!』ってところだな」
母様の説明を補足する様に続いた、楽しげな男性の声に、一斉に声の主へと振り返る。
「「父さんっ!?」」
「様子を見にきたよ。……というか、コレがハンスに纏わり付いてて『邪魔だからちゃんと制御しとけ』って押し付けられてきた!うちの子の、らしいんだが、コレは誰の精霊だい?」
そう笑いながら差し出された腕には、必死にしがみついているライトの姿があった。
その表情は、顔を真っ赤にしてぽろぽろと涙をこぼしながら……。
『カイさまぁああああああああ』
カイルザークの姿を見つけると、飛びついて行った。
……まぁ、こうなるよね。
幼稚園児に、地図も何も知らない場所で、お使いを頼んじゃった様なものなのだから、むしろよく帰って来れたなって褒めてあげたい。
カイルザークにしがみついて泣いているライトの姿を、目を細める様にして笑うと、ちらりと私を見る。
「ああ、カイの契約している精霊だったか。私はまた、セシリアかと……」
「父さんは…セシリアを何だと思ってるんだろう……」
父様の言葉に、少し遠い目になりつつ反応するセグシュ兄様。
すると父様は、満面の笑みを浮かべて私を抱き上げると、頬擦りを始めた。
「ん?とても優秀な、末っ子姫だよ?」
「姫とか!」
「あれっ……フィリーだって、小さな頃は『お姫様』って呼ばれて喜んでたんだよ?」
フィリー姉様まで、少し呆れた様な表情になっていた。
ていうか、父様!真面目な話してる最中なんだから、可愛い!と言いながらの、すりすりぐりぐり…やめて?!
その様子を視界に入れて、ますます能面のような無表情になっていくフィリー姉様。
……ふ、不可抗力だからねっ?!
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