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はじまりはじまり。小さな冒険?
316、良いものと美味しいもの。
しおりを挟む「しっかりと、悪戯してるじゃん…?」
『あ…いや、今のは…ね。まぁ、そういう状態だからさ。僕の主人とはいえ、他の魔力の干渉を受けたくないんだ。ごめんね?』
「ううん、気づかなくてごめんね。フレア、頑張ってるんだね、えらいね」
えへへ!と、はにかむように笑う。深い藍のような紫の瞳がくしゃりと細められる。
フレアの名前のままに光を帯びているような淡い金の髪が歩くたびにふわふわと揺れている。
『うん!だから、あとでご褒美!ちょうだいねっ!』
「……へっ?!欲しいもの、あるの?」
特にないかな?と、軽く首を振りつつも、小さな子供がクリスマスプレゼントを待っている時のように夢みがちなうっとりした顔になる。
『ん~?なんだろう?いっぱい頑張って褒められたら、主人から『良い物』を貰えるんだって風の乙女に言われたから!……楽しみにしてるね?』
これは『この度の働き、誠に見事であった!褒美を遣わす~』ってやつかな?精霊相手に聞いたことがないんだけど……。
まぁお礼はしたいとは思うのだけど、いかんせん精霊と人間とじゃ、価値観が違いすぎるから、何かルールとかがあれば知っておきたい。
(こういう話は精霊使いとしての講義でも聞いたことがなかったんだけど…聞き逃しちゃったりしてたかな?全く心当たりがない。困った)
魔石とか薬草とか…比較的、魔力や魔素が多く含まれるようなものを精霊は好む傾向があるっていうのは知ってる。
ただ、風の乙女やフレアが個人的に『すごく良い物だ』と認識するようなものってなんだろう?全く想像がつかないよ…。
(そしてだ、例えば魔石だったら、今の私には準備が難しいから、父様と母様に相談しなくちゃいけないし、他にも希少な薬草なんかだと……って、何にしても、今の私には単独での用意が無理じゃないか……)
そもそも精霊の方が、異常なまでに広い行動範囲を持つ。
そんな彼らに用意できないものを、私が準備できるのだろうか?
「……ちなみに、だけど。風の乙女は、ルークから何をもらってるんだろうね?……聞いてみた?あの子、すごく優秀だし」
『えっと…「やっだぁ!聞かないでよ!」って顔を真っ赤にして、照れながら怒ってたよ。……なんだろうね?でも、とっても嬉しいものらしいから、僕も楽しみ!』
途方に暮れつつも、参考までに聞いてみたのだけど……。
風の乙女が赤面して照れるような、嬉しいものって何よ?
赤面…赤面……。
シシリーの学生時代に、というかそもそもの風の乙女の性格が…なんだかとっても腐臭というか、綺麗な男の子を見てキャーキャーというようなタイプで。
よく、女性の後輩と一緒になってキャーキャー騒いでいたのを見ていた記憶が…ある。
精霊には性別がないって言ってたよね?!と思うくらいに女の子らしい感じの子なんだよ。
そんな子が照れながらも喜ぶって、どんなものなんだろう?
そもそも、ルナとフレアがそんな喜び方をするようなモノって、確実に彼女のそれとは違う気がするんだ。
「が…頑張って準備しとくよ」
『うん!』
フレアが満面の笑みを浮かべて、返事をする。
喜ぶもの、喜ぶもの……なんだろうなぁ。
ていうかルーク、風の乙女に何をあげてるんですか……?
*******
食堂に着くと、レオンハルト王子が食事中だった。
邪魔しちゃったかな?
ちょこんとレオン王子の向かい側の席に座らされる。
すかさず、ルナがお茶と焼き菓子を持ってきてくれたけど、思いっきり食後なので、私のこのぽよぽよお腹に、お菓子の入る隙間はなかった。残念…。
かといって、特に手伝えるようなことも無さそうだったし、手持ち無沙汰気味に、ぼんやりと食事中のレオンハルト王子を眺めながら、考え込み始める。
……ルークとユージアを見送ってしまったし、今後の方針としてはシュトレイユ王子の回復優先で、動かせるようになるまでは『避難所』に待機になってしまった。
(とりあえず父様は元気そうだったけど、母様には会っていないんだよね。無事だろうか?)
あ、母様の安否もだけど、いくつか謎が残っている。
まずは『監獄』について。
入場の仕方を探していて…まぁ突入はできちゃったんだけど。
それと、闇の妖精たちが探していた、宝物の返却も『一部だけ』出来たんだよね。
ただ、あまりにも瘴気が強すぎて、返却の作業をしていたルナが飲み込まれそうになって。
助けようとしたら……その瘴気が、残っていた宝物たちを飲み込んでしまった。
元々、瘴気で低級の魔物化していた宝物たちは、さらに濃い瘴気に晒されてランクの高い魔物へと再構築されてしまった。
あの残されちゃった宝物たちは、どうなっちゃったんだろう?
他には、属性検査の時に、ルナに誘拐されちゃった騎士団の人。
それと、私の杖!
あれは……。
「……食べるか?」
唐突にレオンハルト王子の声に我に返ると、目の前にフォークに刺された桃が突き出されていた。
『あーん』ってやつですよ?
反射的に、というか自然にそのまま貰ってしまったのだけど、あれ、これってレオンハルト王子の分じゃ?
あぁ、でも瑞々しくて甘くて、思わず顔が綻んでしまうほどに美味しい!
「本当、美味しそうに食べるんだな…」
桃が視界から消えると、目の前には驚きつつもふわりと柔らかな笑みを浮かべているレオンハルト王子。
その緊張から解放されたような笑顔は久しぶり。
ずっと気を張るような事ばっかりだったもんね。
「まだあるぞ?食べるか?」
「んぐっ…!美味しいけど!」
次から次へと、桃が差し出されてくるので思わずいくつか食べた後で、はっと我に返る。
って、ルークのバカああああああっ!!
食べ物を何でもかんでも、食べさせてくれたおかげで、目の前に来たものを反射的に食べちゃう癖になってるじゃないかっ!
マナー的にダメでしょうこれはっ!
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