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はじまりはじまり。小さな冒険?
315、眠り王子と風の乙女。
しおりを挟む2人の背を見送って、少し笑うとベッドへと振り返った。
食事は少し前に終わってしまったのだけど、今になって匂いに燻されたのか『お腹すいた……』とレオンハルト王子が起きてきたところだった。
シュトレイユ王子はまだ眠り続けている。
……今のシュトレイユ王子の状態は、普通の人の倍以上に体力の消耗が激しい上に、睡眠や休憩という手段をとっても、体力の回復はほとんどできていないという状況なのだそうで。
簡単に言えば、起きているだけでも消耗していくような状態だった。
(学生時代のシシリーは呪いを専攻していたわけではないし、必須科目にもなかったから触りもしなかったけど、基本の基ぐらいならわかる。
自分が呪われないための、本当に基礎的な知識程度だけどね)
多分これ以上悪化していたなら、食事とトイレの時間以外は、強制的に魔法で眠り続けることになっていただろう。
そうでもしないと命に関わるからね。
……それでも、生命維持ができる。と、いうだけで普通の生活へ戻れるかどうかも怪しいレベルなのだけど。
そんなギリギリのライン、越えていなくてよかった。
……まだ、3歳だ。
まだ、3年しか生きていない。
大人たちの話では、政治的な理由からシュトレイユ王子の存在が邪魔だったようだ。
だから、呪いも確実な殺意が混ざっていた。
セシリアは……そういうこととは関係なく…って、そもそも滑舌が悪くなる呪いって何なのよ?!と思うのだけど。
私は、利発な子では困るのだそうだ。
だから、発達を抑制する呪いをかけた。
ご令嬢だなんて呼び方はいいけどさ、末っ子なんて有力な貴族と婚姻を結ばせるくらいしか、有用な利用価値はない。
ましてや、大家族の末っ子なんて、そんな利用価値すら薄い。
では、元々有力な貴族の末っ子の場合はどうなるのだろうか?
さらに上の有力な人物となるとガレット公爵家の場合は王族との婚姻くらいしかない。
(あ、『くらい』なんて言っちゃダメなのか)
セシリアの場合は、タイミングの良いことに王家……レオンハルト王子やシュトレイユ王子と歳が近い。
レイ王子に至っては同じ歳だし。
しかも従兄弟同士だ。
降嫁で身分こそ変わってしまっても、母様は現王とは兄妹の関係だから、他の令嬢たちより、王子たちとの接点も自然と大きくなる。
そうなると、お妃候補としての順位も自然と高くなっていくわけで……。
つまり、セシリアには大いに利用価値がある。
(従兄弟と婚姻なんて真っ平御免だけどね!)
教会としては、セシリアに利用価値があっては困るから……。
だって、全く利用価値のない子じゃないと、教会で引き取れないからね。
多分だけどね、王族の王位選定の基本を、教会は知っていたと思うんだ。
だから一応王族の端くれでもある私をほしがった。
光の属性持ち云々も重要だけど、それより何より、王族の血筋が欲しかった。
今のままでは、どんなに教会の勢力が増しても、守護龍のいる国では政治への発言権が得られないから。
(理由があってもね、なかなか外れなかったオムツと、この滑舌の悪さの苦労、ちゃんと責任取ってもらいますよ……?大変だったんだからね?!)
他の兄弟たちはとても優秀なのに、この子は発達が遅くて、とても手のかかる子。
しかも末っ子。
ほら、なんの利用価値もない。
すぐに親も見捨てるだろう。
そう思ったのかな…。
まぁ思うよね。
でも、親って不思議なものでさ、手のかかる子ほど可愛いんだよ。
なんでもさらっとできてしまう子も、親としては鼻が高いし、それはそれで可愛いのだけどね。
慣れない手つきで一生懸命頑張る姿。
失敗するだろうって、わかっていても必死に練習する姿。
我が子のそういう姿を見て、ハラハラしながら見守って。
『なんでこんな簡単なことができないのか?』そう思って助言しても、やっぱり思うようにできなくて失敗して、挙げ句の果てには泣かれて…ハラハラを通り過ぎて、時にはイラッとしたりするわけだけど。
それでも見捨てずに付き合うってことは、我が子が可愛いからこその行動なんだよ?
幸いなことに、セシリアの父様と母様は、愛情豊かな人で。
文字通り、手のかかる子ほど可愛い!を体現してくれていた。
今も、見捨てずに守り通してくれている。
とても優秀な兄弟たちも、だ。
(いっぱい大切にしてもらってるから、周囲をいっぱい大切にしてあげるんだ。だってこんなに恵まれた環境、初めてだもの)
いや、シシリーの時もそれなりには恵まれていたんだろうけど、結局お返しも何もできないままに亡くなってしまったし。
今度こそ!ってやつですよ。
そんなこんなを考えつつ、ぐっすりと眠っているシュトレイユ王子を覗き込む。
癖っ毛気味のふわふわの淡い金髪に、幼いながらも整った顔立ち。
眠りが深いのか、脱力したその表情はとても柔らかくて、本当に可愛らしくて天使のよう。
政治云々やら、本人とは全く関係ないところで、命を狙われてたとか絶対に許さない。
『はい、ストップ~。ちょっと食堂行こうか?』
おでこにかかっている、少し長めのサイドの髪を後ろに流してあげようかと手を伸ばしたところで、腕と胴を同時に掴まれた。
声からして、犯人はフレアかな?
身をなんとかよじりながら、上を見上げると予想通りに私を小脇に抱えてたのはフレアだった。
『ごめんね。セシリアが触っちゃって治療のバランスが崩れたら怖いから、少しだけ……触るのは我慢してね?』
結構必死なんだよ。と、呟きながらフレアにキッチンへと運ばれていく。
「そんなに難しいの?」
『うん。だから、風の乙女の姿を見ていないでしょう?僕のフォローにいっぱいいっぱいで、彼女も悪戯してる余裕がない…いてっ!』
「!?」
ぶん!という音とともに、いきなり背後から強風が吹いて、フレアの背に枕が飛んできた。
背後…つまりシュトレイユ王子の付近からなんだよね。
それってどう考えても風の乙女の仕業だよね?風だったし。
衝撃が私にも伝わって怖かったよ…?
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