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はじまりはじまり。小さな冒険?
274、無事…なのかな。
しおりを挟む「なっ……!?魔物?!」
突然現れた黒い獣に、最初に反応したのはフィリー姉様だった。
すぐにでも魔法を放てるように、全身に魔力を巡らせ始めている。
それから遅れること一拍、セグシュ兄様も戦闘開始の構えをとる。
どうやら黒い獣は、かなりの勢いで『避難所』のドアを蹴破って侵入し、その勢いのままにフロアの奥まで一直線に進むと、最奥の壁が目の前に迫っていることに気づくと、激突を避けるためにくるりと体の向きを変え、背で壁に到達して衝撃を殺していた。
そして、体勢を整えると、ゆらりとベッドに近づいてくる。
その動きに先回りするかのように、フィリー姉様とセグシュ兄様が間に立ちはだかる。
「フィリー!セグシュ!待て!……よく見ろっ!」
ヴィンセント兄様の声が響き、臨戦態勢にあった2人がびくりとした。
そして……。
獣の口元に咥えられている何かに気づくと、それぞれが悲鳴のような声で、名を呼んでいた。
「「セシリア!!」」
獣の口元で、セシリアの特徴的な銀髪が揺れていた…。
これが警戒した通りに襲撃者であるならば、セシリアの命はなかったのだろう…が、見たところセシリアの血の匂いはしていなくて。
「あ…はい。無事……でしゅ」
ポツリと、微妙に言葉を噛んだ、セシリアの呑気な声が……小さく響いた。
途端に獣と僕たちの寝かされているベッドの間に立ちはだかる用にして守ろうとしてくれていた、セグシュ兄様とフィリー姉様が、あからさまに緊張がとけ、セグシュ兄様に至っては崩れ落ちそうになっていた。
「その状況は無事とは言わないっ!カイっ!カイは大丈夫か?!」
「だ、大丈夫…です。…むしろ助けてもらっての、この状況なので……無事です」
ヴィンセント兄様の呆れ果てて、逆にふつふつと怒りがこみ上げてきてしまったような、何とも言えない乾いた笑い混じりの声で、それぞれの安否確認が始まった。
ちなみにカイルザークは、しっかりと受け答えしながら、黒い獣の、首の後ろの長い毛の間からひょこりと顔を出した。
そのどちらにも、大きな怪我が無いようで、ほっとする。
『おろすぞ』
その声とともに、獣は『伏せ』のように、頭を低くして座り込んだ。
もちろん、咥えられていたセシリアも、降ろされていた。
すると首のあたりからモゾモゾとカイルザークが姿を現す。
それに続いて、なんとルナまでもが姿を現した。
『ああ~死ぬかと思った!ありがとう!……そうだった!フレアっ!!!』
ルナはさらりと黒い獣への礼もそこそこに、そのままフレアの寝かされているベッドへ突進するかの如く飛び上がって行ってしまった。
「……武器をむけてしまって申し訳ない。弟妹達を助けてもらったようで…礼を」
呆気にとられて固まっている、フィリー姉様とセグシュ兄様を宥めるようにして、ヴィンセント兄様が大きな獣の前へと出た。
『礼には及ばない。幼子を危険に晒すような真似をしてしまった。こちらこそ、申し訳ない』
……どうやら、セシリア達はこの短時間で『監獄』へと侵入に成功し、闇の妖精達の宝…墓地に安置されていた遺体の事らしいのだけど、その回収を半分以上終えることができていたらしい。
全部終えてしまえばよかったのに。そう思ったのだけど、できなかった理由も話していた。
想定以上の瘴気を宿した遺体が…多かったのだそうな。
(まぁ遺体が魔物化しているわけだし、瘴気は濃いだろうな)
妖精達に遺体という宝達の返却を行うにあたって、瘴気を分離してから外へと運び出していたら、後少しというところで、濃い吹きだまりのように溜まってしまった瘴気によって、残りの遺体達が魔物化してしまった、とのことだった。
しかも高ランク…ということで、どうにかこうにか間一髪のところで『避難所』へと逃れることができたのだそうな。
……黒い獣とヴィンセント兄様の会話に耳を傾けていると、ふらふらとセシリア、その後ろにカイルザークが続いて近づいてきた。
「ただいま……」
「お前ら…臭い。何してたんだよ……凄く、嫌な臭いがする」
本当なら、おかえりがんばったね、とでも言ってやるべきなんだろうけど、とにかく臭かった。
あまりの臭さに、近づかれただけで思わず顔をしかめてしまうほどに。
隣で何も知らずに幸せそうに寝ている、レオンハルトやシュトレイユが図太く見えてしまうほどに、臭かった。
「ああ、エルにはこの臭いはキツいよね……セシリア、クリーンかけよう」
「ありがとう…」
そんな2人の会話の直後から先ほどまでの、とんでもない臭さが嘘のように消えてしまった。
魔法だろうか?
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