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はじまりはじまり。小さな冒険?

272、ダメかも。

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「カイっ!こっちに!!」


咄嗟に叫んで手を伸ばす。
カイのすぐ後ろ、バルコニーの柵のように作られた飾り彫の一部に、見えてはいけないモノ……先ほどからジャンプ、壁へと突撃を繰り返していた、ドラゴンの大きな爪の切っ先が引っかかっていたのだ。


『うえぇ…。ジャンプでここまで届いちゃうの……』


ギリギリのところでカイルザークの手を掴み、引き寄せる。
ルナが、カイを引き寄せた私ごと抱え込む。

ドラゴンの爪は、そのまま柵ごと、先ほどまでカイルザークがいた辺りを削り落としていった。
結果、かろうじてルナの足元周辺のみを残すだけとなった。


「……原材料が人体の竜素材。研究材料としては、すごく興味深いおいしそうなんだけどなぁ」

『助けられた第一声がそれかい…』


カイルザークの独り言に反応して、頭上からルナの乾いた笑いとともに、呆れ声が聞こえてきた。


「素材としては一級品でしょう?しかも出どころが確かな品だ。こういう不思議な素材は眉唾なものが多いからね。出来上がるまでを実際に目の当たりにできた品なんて、そうそう存在しない」

『倒さなきゃ手に入らんでしょうが…ていうかアレはダメだよ?返却予定なんだから』

「わかってるよ…まぁ、今は研究する機会もなさそうだからなぁ。しかし、惜しい」


まぁ研究職なら、わからなくもないけどさぁ。と、ルナも微妙に同意するような反応してるわけだけど。
話している内容と今直面している状況が、あまりにも乖離しすぎていて、思わず悲鳴のような声が出てしまう。


「……2人とも、そういう状況じゃないと思うんだけどっ!?」


2人の会話を聞いている限りだと、余裕があるように見えてしまうけど、実は全くもってそんな状況ではない。
階下との微妙ではあるが目隠しの役目もあった柵も、その周辺の足場も無くなって、こちらから階下が丸見えになっている。
逆に言えばドラゴンから、私たちの姿も丸見えとなっている訳で……。

ちなみに階下といっても、とても天井の高いフロアなので私たちがいる所からドラゴンのいる地上面とは大体6階層から8階層位の高さがある。

上階に向かって柱や装飾の作りを華奢に、小柄に見せていくことによって、遠近法っていうんだっけ?そんな感じで、高さをさらに強調させている作りとなっていて、私たちが隠れていた場所はまさにその演出をするために作りつけられた、バルコニーに似せた工作物の中だった。

なのでメインであるバルコニーの飾りが落ちてしまった今、そもそも人が使うことを前提として作られたものではないので、奥に通路のような逃げ道になるようなものも何もなく……つまり、壁の微妙に作られた、くぼみにどうにか身をはめ込んだ……逃げ場のない状況となっている。


〔──けて、と、……って…!…〕


怒りの続きを2人にぶつけようとしていると、どこからか声が聞こえたような気がした。
……ついに、あまりの恐怖心から幻聴まで聞こえるようになったのかと、辺りをキョロキョロしていると、ルナがしきりに足元を気にしている。


『セシリアの足元…さ、さっきから…魔法陣のようなものが見え隠れしてるんだけど…』

「?」


ルナに抱えられているので足元はよく見えないけど、そんな気配はない。
何かの魔法を発動させた記憶もないわけで、意味がわからずにいると。


「あ~そろそろヤバそうだ。……どんどんジャンプの精度が上がってるし、羽もしっかり動くようになってきてるみたいだし」


そう言いながら、ルナに抱えられたまま、手には短杖を呼び出し、魔法を放つ構えをとるカイルザーク。

遥か下に見える地上部では、漆黒のドラゴンが、まるで猫が獲物に飛びかかる準備のように後ろ脚と尻尾をゆらゆらバランスをとりながら狙いを定めて、身をかがめ始めていた。






******

side エルネスト





「えっと……どうすんの?これ?」


目の前には床に倒れ込んでいるフレアと、うずくまって身動きが取れなくなっているユージアがいる。
部屋の探索をしている途中、遠目に2人の姿を見、直後、うめき声をあげて倒れだした。


「……何があったんだ?」


レオンハルトが心配そうに声をかけてみるが、双方ともに反応ができないでいるようだった。


「兄様っ!先生を呼びに…」

「ああ、そうしよう。エル、2人を頼む」


時折、呻き声を上げているユージアの側にしゃがみ込んで、様子を伺うも、フレアもユージアも全身に力を入れて強張り、顔面蒼白となっていて、何があったのか、全くわからない。
何かから攻撃を受けた!と言う形跡も、音も聞こえなかったから、それはないはずなんだけど、一応周囲の警戒を始める。

少しすると、ハンス先生を呼びに行ったはずの2人がなぜか、ヴィンセント兄様とフィリー姉様、セグシュ兄様を連れて戻ってきた。
ハンス先生はと言えば、姿が見当たらずで、困っていたところで3人と合流したようだった。


「困ったなぁ…ユージアはともかく、精霊って倒れてる姿自体を初めてみるんだけど」


困ったようにヴィンセント兄様が頭をワシワシとかいていた。


「……そんな事より、ひとまず2人を『避難所』へ運ぶわよっ!」

「じゃあ……これ以上何かあっても怖いから、みんなで移動しよう」


フィリー姉様とセグシュ兄様の声にそれぞれ頷くと、行動を開始した。
ヴィンセント兄様がユージアを抱え上げて、フレアをセグシュ兄様が……と、抱えあげようとしたのだが、思いのほか軽かったようで。
変な格好にタタラを踏んで、フィリー姉様に笑われていた。


「いや、本当に軽いんだよ……多分、エルより軽いかも」


納得いかないという顔のセグシュ兄様を見て、フィリー姉様は軽く目を見開くと、両手を伸ばしてくる。


「じゃあ、その子は私が運ぶわ。セグシュ、周囲の警戒してよ!男手が両方とも即座に応戦できない状況ってのは、怖いわ」


そう言うと、セグシュ兄様からフレアを受け取る。
文字通り軽々と受け取り、またもや目を見開いて、フィリー姉様は固まってしまった。


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