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はじまりはじまり。小さな冒険?
266、やっと出発ですよ。
しおりを挟む傷痕も教会での記憶も、今のユージアには必要ない。
早く忘れて欲しい。全て消してしまいたい。
……そう思ってたのに、結局また教会と関わることになってしまった。
『少しだけ呪いを誤魔化してあげる』
そう言ってルナにかけられた魔法は、本当にほんの少しだけ、喋りやすくなった。
こういう時こそ、この前のお姉さんみたいに成長させてくれても良いのよ?と思ったりもしたけど、それができるほどの魔力は無かったようだ。
まぁそうか、力の源であるセシリアは魔力切れでさっきまで寝てたわけだし、自らの力を使おうにも、自分の眷属が暴走中でそっちの動きの把握等に余力を削がれちゃってるんだろうし。
「おーい、ちゃんと集まって!はぐれたら面倒だから、全員手を繋げ~」
ヴィンセント兄様の声に、それぞれの返事が聞こえてくる。
「レイ、大丈夫か?」
「うん。兄様ありがとう」
「エル~っ!早くっ!」
「お前がだっ!ちゃんと手を繋げっ!!」
レオンハルト王子はシュトレイユ王子の手を取って、セグシュ兄様と手を繋いでいて、エルネストはカイルザークの首根っこを掴むようにしてフィリー姉様と手を繋いでいた。
ひょこひょこふわふわと子供たちの動き回る頭が見えて、可愛らしい。
やっぱりこのメンバーを見ると幼児が多いので保育園のお散歩や遠足のように見えてしまう。
(ま、その遠足の行き先が『監獄』とかね、お化け屋敷にでもいくような感覚にしか見えないんだけど、実際は命かかってますから)
本当に、お化け屋敷よろしく、不気味さを楽しんでくるだけのお出かけならいいんだけどなぁ…。
少し遠い目になりつつ、隊列の先へと視線を向ける。
ちなみに先頭を歩くのはユージアとルナ。
そのすぐ後ろにルークと私、その後ろにセグシュ兄様と王子達、フィリー姉様とエルネスト、カイルザーク、一番後ろにヴィンセント兄様とフレアが続く。
レンガ敷きの細い通路を抜けると、途端に視界が広がり大きな建物の前に出た。
するとエルネストから感嘆のため息が聞こえた。
「王都の教会って大きいんだな……」
「……普段は人通りもすごいんだけどな」
エルネストが完全におのぼりさんになって、上を見上げたまま歩いているのを少し面白そうに見ながら、レオンハルト王子が説明している。
とても古い建物なのだろう、教会は石造りを基礎にして煉瓦や漆喰で装飾がなされた歴史的、美術的な価値としても高評価が期待できる立派な建物だった。
建物の前庭には、立派な垣根があり、そこを飾るための噴水や、色とりどりの花たちが植えられ、庭を眺めながら小休憩ができるベンチ等も設置されていた。
……とても素敵な建物に庭、この地下に『監獄』があるなんて思えないほど平和な光景だ。
「今は、騎士団の立ち入り調査が入ってて、立ち入りを制限してあるから、参拝者はいないね」
セグシュ兄様も補足の説明をしつつ、教会の建物へと進んでいく。
そう、私たちは現在、王家の避難所から出発して、王都内の教会前にいる。
出発というか、出口が教会前だった。
まぁ、目的地が教会だから、何も間違ってはいないのだけど。
目的としては、王都の教会内の一室から普段は『監獄』へと出入りができていたそうなので、まずはそこから入場を試みることになっている。
普段使いしていたってことは、その部屋に入場のゲートとなる魔法陣があったということになるんだけど……一体どういう経緯で教会が『監獄』を所有することになったのか?それも一緒に調べられたら良いのに。
(ああ、そういえばだけど!本当に私が所有者になってるのなら、2度と教会に使わせない。そうすれば悪用できないもんね。そのまま封印しちゃえば良いのか!)
ルークの指摘通りに、セシリアが所有者登録されてたら嫌だなと思ってたけれど、それができるならむしろ好都合かもしれない。
私は『宗教的なものが嫌いだから淘汰したい!』そういうつもりはない。
何を信じたって良いし、宗教という心の拠り所があるからこそ、強く生きられるのなら、それはそれで良い。
今回のように知らずに腐るのが嫌なだけ。
それだって実は、どうでも良い。
ユージアみたいな無関係な子が、腐敗した宗教団体に狙われて、巻き込まれて搾取されることが嫌なんだ。
「……少し緊張してるな?大丈夫だ」
ぽんぽんと背をさすられて、そのまま頭を撫でられながら抱え込まれる。
視界に艶やかな黒髪の毛先が風に遊ばれている。
……そう、なぜか私だけ、ずっとルークに抱っこされて移動している。
自分で歩くと言っても降ろしてもらえず、しかもやたらとスキンシップが多いし。
(いや、私も同じことをユージアやエルネストにやってたけどさ…。ほっぺすりすりとか頭に頬を当ててみたりとかさ、あの小さくてプニプニの手を頬や口に当ててみたりとか…いやもう、愛でまくりましたけどね?!)
小さい子を見てると発作的に全力で愛でたくなるけどさ!
自分も抱っこされるのも、愛でられるのも嫌ではないんだけどさ!
でも、かつての同級生にされるのは…なんかおかしいでしょう?
ルークの肩越しに、この光景を信じられないといった驚愕の眼差しで見つめるフィリー姉様やヴィンセント兄様がいたりするのだけど、ルークは一向にお構いなしだ。
……まぁ鼻腔をくすぐる白檀の香りが、ルークの体温が、実はとっても落ち着くんだけどね。
しかも、息を飲むほどに美しい、そんな整った顔が間近にあって見放題!
これはあれだね、世のお嬢様方なら失神してしまう勢いで幸せな状況かもしれないね。
とりあえず私は、落ち着きすぎて、とっても心地良すぎて、今日も早々に昼寝落ちしそうだよ。
「ああ、着いたようだ」
ルークのその優しげな声とは裏腹に、飛びかけていた意識が颯爽と戻ってくる。
さぁ『監獄』ダンジョン探索開始ですかね?
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