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はじまりはじまり。小さな冒険?

237、お散歩という名の気分転換。

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ちなみに、さっきはひょこっと覗いただけだったけど、奥の部屋は思ってたよりも広くて、ユージアの言う『ちょっとしたキッチン』どころじゃない、普通に大きなレストランの厨房ですか?と言う感じの調理場があった。
4面ある壁の片側の壁面全体がパントリーと調理スペースになっていて、その手前には大きなテーブルセットが6対置かれて、前世にほんの学校にあった学食なんかが出てきそうな食堂の雰囲気があった。

アイランド風の大きな作業台には先ほどの食事の残り物や、これから出すのであろうデザート等が置かれていて、奥のシンクにはルナが、作業台周辺にはフレアが、共に作業中のようだった。


(……うちの精霊達って、料理できたんだ…しかも私より上手だし)


フレアが手際良く生クリームの上にフルーツを飾り付けると、隣の大理石の作業台の上に作ってあった糸飴を器用に乗せていく。
糸飴…えっと、シュクレフィレっていうんだっけ?蜘蛛の糸のように細くてキラキラした鼈甲飴ね!
それぞれのお皿に盛り付けるためにパリンパリンと切り分けるときの小さな音も、ガラスの鈴のような繊細さで、可愛らしい。

あれ結構難しいのになぁ……。
思わず見入ってしまう。


「この奥にまだ部屋があってさ、そっちはどうやら使用人が使う部屋みたいなんだよねぇ」

『ユージア、これ、セシリアの顔に当ててあげて』


視界を楽しそうにふわふわと揺れていた緑の髪が止まると、ルナの声と共に、不意に蒸しタオルが顔に押し当てられた。


『今日は、お風呂は厳しそうだからね。当てるついでにしっかり拭いておいたほうがいいよ』

「め、はれてる?」

「うん…まぁちょっとだけ、ね。でも、さっきは泣いても今度は痛くならなかったから、頑張ったね」


にこりと笑いながら胸の心臓のあるあたり……奴隷紋が浮き出ている部分に手を当てる。
どうやら今回は大きな声にびっくりして『怖い!』と固まってしまったものの、ユージアへの救援信号は出していなかったらしい。
痛い思いをさせなくてよかった。


「……あんな怒鳴られ方したら、僕だって怖いもん。……ごめんなさい」

「ねえしゃまのいうことは、もっともだから。しょうがないよ」


そっと、抱っこから作業台前に置かれた椅子に降ろされた。
蒸しタオルで顔をゴシゴシしながら返事をして……目の前にはさっきフレアが素敵にデコレーションしていたケーキと紅茶が置かれていた。

お礼を言おうとしたのだけど、配膳のためにルナもフレアもカートを押して部屋を出ていくところだった。
和食も久しぶり……生まれ変わりぶり?すごく美味しかったから、ちゃんとお礼を言いたい。


「そうなの?僕は納得してるのに。ちゃんと書類にサインしたのに、ダメなの?」

「ダメ。そもそも、きぞくにやっちゃダメ」


多分、書類を作った時は、うっかりなのかわざとなのか?それとも判明してなかったからなのか?ユージアの身分は『平民』として処理されていたからの、奴隷契約書の受理なのだと思ってる。
これが、辺境伯の子息と書面にしっかりと書かれていたら、受理されなかっただろう。


(だって、これで受理できちゃうのなら、簡単に傀儡政治が出来てしまうという事になる…ヤバすぎるよね)


奴隷にして命令したら、強い制約をつけておけば拒否できないから。
貴族っていうのは金持ちで優雅な生活ができるだけじゃなくて、それぞれに治めている街や地域があるからね。

ユージアの場合、辺境伯子息とは言っても、実際は辺境伯の政策に手を出したりするような立場ではないけど(姪孫が当主やってるくらいだし)それでも発言力はあるし、最悪なケースとして、その姪孫や親族一同を亡き者にしてしまえば、自分が当主になれるという権利はあるんだ。
だから、ルークが第一声として『奴隷契約を外せ』と言ったのはもっともの事で、フィリー姉様の反応だって間違ってはいない。

ルークならきっと、奴隷契約を強制的に外すこともできるんだと思う。


(そうでなくても『この書類は身分が間違っているから無効だ!』とでもいえばすぐ解除できると思うし)


ユージアのわがままを聞いてあげてるってことなのかな?
それとも私を信用している?……でも、信用してても我が子を奴隷にしはしたくないな……なにか考えがあるのかな?

まぁ、何にしてもダメなものはダメなんだよと説明しても、ユージアはしょんぼりするだけで『外したい』とは言ってくれない。


「僕はこれで良いのに」


私の隣に椅子を運んできて、ユージアもケーキと紅茶を持ってきた。
糸飴をパリパリと崩しながら、ケーキを口へ運んでいく。
うーん、キラキラサクサクと…甘くて幸せな味。

……じゃなくて、うん、説得まではしなくても良いけど、あまり良くない関係なんだよってことは伝えなくちゃだ。
ユージアが良くても、私は良くないんだよ。
シシリーむかしの友人の大切な息子さんを奴隷にしてるとか、あり得ないからね?!


「ねぇ、おともだちやかぞくって、めいれいして、つかっていい…のかな?」

「違う。それは友達や家族じゃないよ」

「じゃあ、ユージアは…おともだちじゃ、ないのね?」

「えっ……?」


友達じゃ無い。その言葉にユージアはきょとんとし、動きが止まった。

だって奴隷だもんね。
契約で関係を縛りつけてるだけだもの。
しかも期限つき。期限が切れたらただの他人だよ?

そんな関係よりは、ちゃんとしたお友達でいたい。
まぁ、育ってしまったら知識も魔力も一気に抜かされていってしまうのでしょうけど。
それでも良い友達で居たいと思う。


「どれいは、おともだちやかぞくじゃ、ないんだよね?」

「そうじゃなくて……僕は、セシリアの傍に居たいだけ。奴隷紋が無くなっちゃったら辺境伯の家に移されちゃうでしょう?それに、こうやって何かがあった時に、居場所もわからない・気づけないのがもっとイヤ」

「……ん?…そういえば、いま、いっしょにいるのはどうして?ないてないよ?きづけたの?」

「いや…気づくも何も……僕も襲われて、ここに強制送還されたんだよ?」

「ありゃ……しょだったの」


うん。と頷くと、ユージアはケーキを頬張りながら、使用人養成所の授業を受けている最中に騎士団員の襲撃があったこと、うまく躱して逃げ出したら、今度は教会の暗部に襲われて、その最中に風の乙女シルヴェストルに助けられて……高所から放り投げられたらしいけど、結果的に私たちと合流した。という事を説明をしてくれた。

教会の暗部って…暗殺部隊らしいのだけど、それって全部処分されたわけじゃなかったのね?と思ったら、処分されたのは『ガレット公爵家を襲撃してセシリアわたしの誘拐に関わった部隊』のみだったそうで。

どれだけ残ってるのかな?と聞いたら、ユージアが知ってるだけでも、あのとき処分された10倍以上の暗部が王都に存在していたそうだ。


(……教会に目をつけられた以上、完全に教会の闇を解体する以外には、私やユージアには平和な日々が訪れる気がしないんだけど気のせいではないよね?!)


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