237 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?
237、お散歩という名の気分転換。
しおりを挟むちなみに、さっきはひょこっと覗いただけだったけど、奥の部屋は思ってたよりも広くて、ユージアの言う『ちょっとしたキッチン』どころじゃない、普通に大きなレストランの厨房ですか?と言う感じの調理場があった。
4面ある壁の片側の壁面全体がパントリーと調理スペースになっていて、その手前には大きなテーブルセットが6対置かれて、前世の学校にあった学食なんかが出てきそうな食堂の雰囲気があった。
アイランド風の大きな作業台には先ほどの食事の残り物や、これから出すのであろうデザート等が置かれていて、奥のシンクにはルナが、作業台周辺にはフレアが、共に作業中のようだった。
(……うちの精霊達って、料理できたんだ…しかも私より上手だし)
フレアが手際良く生クリームの上にフルーツを飾り付けると、隣の大理石の作業台の上に作ってあった糸飴を器用に乗せていく。
糸飴…えっと、シュクレフィレっていうんだっけ?蜘蛛の糸のように細くてキラキラした鼈甲飴ね!
それぞれのお皿に盛り付けるためにパリンパリンと切り分けるときの小さな音も、ガラスの鈴のような繊細さで、可愛らしい。
あれ結構難しいのになぁ……。
思わず見入ってしまう。
「この奥にまだ部屋があってさ、そっちはどうやら使用人が使う部屋みたいなんだよねぇ」
『ユージア、これ、セシリアの顔に当ててあげて』
視界を楽しそうにふわふわと揺れていた緑の髪が止まると、ルナの声と共に、不意に蒸しタオルが顔に押し当てられた。
『今日は、お風呂は厳しそうだからね。当てるついでにしっかり拭いておいたほうがいいよ』
「め、はれてる?」
「うん…まぁちょっとだけ、ね。でも、さっきは泣いても今度は痛くならなかったから、頑張ったね」
にこりと笑いながら胸の心臓のあるあたり……奴隷紋が浮き出ている部分に手を当てる。
どうやら今回は大きな声にびっくりして『怖い!』と固まってしまったものの、ユージアへの救援信号は出していなかったらしい。
痛い思いをさせなくてよかった。
「……あんな怒鳴られ方したら、僕だって怖いもん。……ごめんなさい」
「ねえしゃまのいうことは、もっともだから。しょうがないよ」
そっと、抱っこから作業台前に置かれた椅子に降ろされた。
蒸しタオルで顔をゴシゴシしながら返事をして……目の前にはさっきフレアが素敵にデコレーションしていたケーキと紅茶が置かれていた。
お礼を言おうとしたのだけど、配膳のためにルナもフレアもカートを押して部屋を出ていくところだった。
和食も久しぶり……生まれ変わりぶり?すごく美味しかったから、ちゃんとお礼を言いたい。
「そうなの?僕は納得してるのに。ちゃんと書類にサインしたのに、ダメなの?」
「ダメ。そもそも、きぞくにやっちゃダメ」
多分、書類を作った時は、うっかりなのかわざとなのか?それとも判明してなかったからなのか?ユージアの身分は『平民』として処理されていたからの、奴隷契約書の受理なのだと思ってる。
これが、辺境伯の子息と書面にしっかりと書かれていたら、受理されなかっただろう。
(だって、これで受理できちゃうのなら、簡単に傀儡政治が出来てしまうという事になる…ヤバすぎるよね)
奴隷にして命令したら、強い制約をつけておけば拒否できないから。
貴族っていうのは金持ちで優雅な生活ができるだけじゃなくて、それぞれに治めている街や地域があるからね。
ユージアの場合、辺境伯子息とは言っても、実際は辺境伯の政策に手を出したりするような立場ではないけど(姪孫が当主やってるくらいだし)それでも発言力はあるし、最悪なケースとして、その姪孫や親族一同を亡き者にしてしまえば、自分が当主になれるという権利はあるんだ。
だから、ルークが第一声として『奴隷契約を外せ』と言ったのはもっともの事で、フィリー姉様の反応だって間違ってはいない。
ルークならきっと、奴隷契約を強制的に外すこともできるんだと思う。
(そうでなくても『この書類は身分が間違っているから無効だ!』とでもいえばすぐ解除できると思うし)
ユージアのわがままを聞いてあげてるってことなのかな?
それとも私を信用している?……でも、信用してても我が子を奴隷にしはしたくないな……なにか考えがあるのかな?
まぁ、何にしてもダメなものはダメなんだよと説明しても、ユージアはしょんぼりするだけで『外したい』とは言ってくれない。
「僕はこれで良いのに」
私の隣に椅子を運んできて、ユージアもケーキと紅茶を持ってきた。
糸飴をパリパリと崩しながら、ケーキを口へ運んでいく。
うーん、キラキラサクサクと…甘くて幸せな味。
……じゃなくて、うん、説得まではしなくても良いけど、あまり良くない関係なんだよってことは伝えなくちゃだ。
ユージアが良くても、私は良くないんだよ。
シシリーの友人の大切な息子さんを奴隷にしてるとか、あり得ないからね?!
「ねぇ、おともだちやかぞくって、めいれいして、つかっていい…のかな?」
「違う。それは友達や家族じゃないよ」
「じゃあ、ユージアは…おともだちじゃ、ないのね?」
「えっ……?」
友達じゃ無い。その言葉にユージアはきょとんとし、動きが止まった。
だって奴隷だもんね。
契約で関係を縛りつけてるだけだもの。
しかも期限つき。期限が切れたらただの他人だよ?
そんな関係よりは、ちゃんとしたお友達でいたい。
まぁ、育ってしまったら知識も魔力も一気に抜かされていってしまうのでしょうけど。
それでも良い友達で居たいと思う。
「どれいは、おともだちやかぞくじゃ、ないんだよね?」
「そうじゃなくて……僕は、セシリアの傍に居たいだけ。奴隷紋が無くなっちゃったら辺境伯の家に移されちゃうでしょう?それに、こうやって何かがあった時に、居場所もわからない・気づけないのがもっとイヤ」
「……ん?…そういえば、いま、いっしょにいるのはどうして?ないてないよ?きづけたの?」
「いや…気づくも何も……僕も襲われて、ここに強制送還されたんだよ?」
「ありゃ……しょだったの」
うん。と頷くと、ユージアはケーキを頬張りながら、使用人養成所の授業を受けている最中に騎士団員の襲撃があったこと、うまく躱して逃げ出したら、今度は教会の暗部に襲われて、その最中に風の乙女に助けられて……高所から放り投げられたらしいけど、結果的に私たちと合流した。という事を説明をしてくれた。
教会の暗部って…暗殺部隊らしいのだけど、それって全部処分されたわけじゃなかったのね?と思ったら、処分されたのは『ガレット公爵家を襲撃してセシリアの誘拐に関わった部隊』のみだったそうで。
どれだけ残ってるのかな?と聞いたら、ユージアが知ってるだけでも、あのとき処分された10倍以上の暗部が王都に存在していたそうだ。
(……教会に目をつけられた以上、完全に教会の闇を解体する以外には、私やユージアには平和な日々が訪れる気がしないんだけど気のせいではないよね?!)
0
お気に入りに追加
626
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る
堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。
彼は新興国である新獣人国の国王だ。
新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。
過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。
しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。
先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。
新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。
みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。
主人公は断罪から逃れることは出来るのか?
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる